病院で使われている酸素の器具の種類が多くて、違いが分からないです。本を見ても、種類がまとめて書いてなくて全体が把握できないです。
こういった悩みを解決します。
今回の記事の内容
- カニューレ、リザーバーマスク、ネーザルハイフロー、NPPVなど個々の器具の特徴
- それぞれの使い分け
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
病院で使われている酸素の器具の種類が多くて、違いが分からないって人、多い思います。昔の自分もそうでした。
今回は、病院で働き始めた人向けに、主なものをまとめておきました。たいていの病院でも対応できるよう、網羅的に解説しています。
ここが分かれば、初学者にとっては十分働けると思います。
普段仕事で酸素を使うことがある人は、ぜひ参考にしてみてください!
- 低流量システム:カニュラ、マスク、リザーバーマスクなど
- 高流量システム:ベンチュリーマスク、ネブライザー付酸素吸入器
- Nasal High Flow ®とは
- Nasal High Flow ®を準備できるようになろう
- NPPVの特徴を学ぼう
- NPPVを準備できるようになろう
- NPPVにかかわる諸問題
- 酸素の器具の使いわけ
- まとめ
なお、FiO2(吸入酸素濃度)は本来0.21などと小数で表します。しかし当記事では、不正確を承知の上で、伝わりやすく書くため21%とパーセント表記します。
低流量システム:カニュラ、マスク、リザーバーマスクなど
関連記事:オキシマイザーの酸素濃度は?【カニューレ、リザーバーマスクとの違いも解説】
酸素流量、つまり「L/分」で調整するものです。それぞれの特徴を下にまとめました。
カニュラ(カニュレ、カニューレ)
- 流量:6L/分まで
- 7L/分を超えると鼻粘膜が障害される
リザーバー付カニュラ(オキシマイザー®)
- 流量:7L/分まで
- 8L/分を超えるとリザーバー機能を超える。
呼気の間に流れてくる酸素を袋にためて、吸うときに多めの酸素を吸えるようにしています。
これをリザーバー機能といいます。
マスク
- 流量:4~6L/分
- 3L/分以下だとマスク内にCO2貯留
オキシマスク®
- 流量:1~15L/分
- CO2がマスク内に溜まりにくい
リザーバーマスク
- 流量:6~15L/分
酸素濃度(FiO2)の目安
表にするとこんな感じです。
1L/分ごとにFiO2 4%ずつ増えるのは、知っておくと便利です。
詳しく知りたい人は[オキシマイザーの酸素濃度は?【カニューレ、リザーバーマスクとの違いも解説】]も参考にしてみてください。
高流量システム:ベンチュリーマスク、ネブライザー付酸素吸入器
関連記事:インスピロンとは?ベンチュリーマスクとは?【使い方も解説】
吸入酸素濃度(FiO2)で調整するものです。
1分間に「30L以上の気体」を患者に届けることによって、正確にFiO2を調整することができます。酸素が30Lというわけではなく、気体全体で30Lです。
例えばFiO2 30%なら「30L中に酸素9L」となります。この30Lという数字はかなり重要なので、必ず覚えてください。
1分間に「30L以上の気体」を患者に届けることによって、正確にFiO2を調整することができる。
ベンチュリーマスクとは
写真で見るとこちらです。
ベンチュリーマスクはこのように本体とダイリューターに分かれます。
色のついたカラフルな部品がダイリューター。写真では5つ映っています。
それぞれに設定可能なFiO2が決まっていて、患者さんのFiO2に応じて1つを選んで使用します。
ネブライザー付酸素吸入器とは
写真でみるとこちらです。
こちらは加湿を強力にかけられるというのがウリです。さきほどのベンチュリーマスクと同じ原理で、FiO2を一定に保つことができます。
代表的な機種はインスピロン®、アクアパック®です。
注意点ですが、ベンチュリーマスクもネブライザー付酸素吸入器も酸素流量計は恒圧式を使用してください。大気圧式ではうまく働きません。
ベンチュリーマスクもネブライザー付酸素吸入器も酸素流量計は恒圧式を使用してください。大気圧式ではうまく働きません。
あと、患者に流れる気体の流量が30L/分になるよう、酸素流量とFiO2を調整してください。
ベンチュリーマスクの場合、アジャスターにFiO2と酸素流量が書いてあります。
インスピロン®の場合、本体側面に表が書いていあります。こちらがその表です。
例えば、FiO2 50%の場合、酸素配管からの流量が11L/分以上にしなければなりません。
患者に流れる気体の流量が30L/分になるよう、酸素流量とFiO2を調整してください。
詳しく知りたい人は[インスピロンとは?ベンチュリーマスクとは?【使い方も解説】]も参考にしてみてください。
Nasal High Flow ®とは
関連記事:ネーザルハイフロー(Nasal High Flow)とは?【最も大事な機能を解説】
一言でいえば、大量の酸素と強力な加湿で、口が開いているのにFiO2 100%も投与できる器具です。
Nasal High Flowは30~50L/分の気体(酸素)を与えることができます。
それのみでは鼻が痛くて到底つけてられないのですが、強力に加湿をかけることによってこれを可能にしています。
Nasal High Flowは、大量の酸素と強力な加湿で、口が開いているのにFiO2 100%も投与できる。
PEEPをかけることができる
PEEPとは、呼気終末陽圧、PositiveEnd-expiratory pressure、呼気にかける圧のことです。
大量の気体を流すことによって、2~4cmH2O程度のPPEPをかけることができます。また、気道粘膜の働きを向上させることもできます。
ただし、これらはおまけ程度と認識しておきましょう。メインはやはり、「口が開いているのにFiO2 100%も投与できる」ということです。
適応
同じ高流量系でも、ベンチュリーマスクはCO2ナルコーシスの予防に使われ、Nasal High Flow ®は強力な酸素化目的で使われることが多いです。
これは、ベンチュリーマスクがFiO2 50%程度までなのに対し、Nasal High FlowはFiO2 100%までだからです。
詳しく知りたい人は[ネーザルハイフロー(Nasal High Flow)とは?【最も大事な機能を解説】]も参考にしてみてください
Nasal High Flow ®を準備できるようになろう
関連記事:ネーザルハイフロー(Nasal High Flow)の使い方を解説【設定や観察項目も】
機種によって細かい違いがあります。施設ごとでの状況を確認してください。
今回は管理人の病院を例にします。ほかの病院でも共通していることが多いと思います。
Nasal High Flow ®の回路組み立て
この図のように組み立ててください。
Nasal High Flow ®の注意点
以下が注意点です。
- 酸素配管・空気配管:空気配管がない場所では使えない
- ブレンダー:最低30L/分以上は必要、フロートの天井部分で見る
- 加温加湿器:電源を入れる、注射用水を点滴の要領で流す、空気孔をあける、温度は体温くらい
- 鼻カニュラ:凸になっている方が上、ネックストラップをつける
Nasal High Flow ®患者の観察項目
あくまで一例です。施設によってルーチンで観察する項目があればそちらを優先させてください。
- 本体:コンセントの接続、回路の接続
- 回路:回路内の水の除去、ねじれ、ゆるみなど
- 設定:流量、酸素濃度、加湿器温度
- 患者の数値:モード、IPAP、EPAP、呼吸回数、酸素濃度、リーク
- 鼻カニュラ:折れ曲がっていないか
- 患者の状態:意識、呼吸音、胸郭の動き、喀痰、胃部膨満感
詳しく知りたい人は[ネーザルハイフロー(Nasal High Flow)の使い方を解説【設定や観察項目も】]も参考にしてみてください。
NPPVの特徴を学ぼう
関連記事:NPPVとは?適応疾患は?何ができる?【10年目の呼吸器内科医が解説】
NPPVとは
分かりやすく言うとバンドで頭部に固定して無理やり酸素を送り込むマスクとなります。多少乱暴な表現ですが、的は得ていると思います。
無理やり空気を送り込むので、以下のような働きができます。
- PEEPをかけることができる
- PC(もしくはPS)をかけることができる
- 上気道の閉塞をふせぐことができる
- 挿管のリスクを回避できる
PEEPをかけることができる
PEEPとは呼気にかける圧のこと。呼気終末陽圧、PositiveEnd-expiratory pressureです。
呼気時に肺がしぼまないよう膨らましておけます。重度の急性呼吸不全、急性心不全、心原性肺水腫などに効果あり。
PC(もしくはPS)をかけることができる
PCとは吸気にかける圧のこと。Pressure Controlといいます。
吸うときには、肺がたくさん膨らむのを手助けしてくれます。一回換気量が上がるので、CO2を吐くことができます。
COPDの急性増悪、CO2ナルコーシス、慢性期のCOPD、ALSなどの神経筋疾患に効果があります。
上気道の閉塞をふせぐことができる
睡眠時無呼吸症候群に使われます。この場合はCPAPといわれることが多いです。
挿管のリスクを回避できる
抜管困難が予想され、挿管を希望されない(つまりDNARの)患者にはよい代替策です。
適応
適応をまとめると、以下となります。
- 主にPEEPに期待:重度の急性呼吸不全、急性心不全、心原性肺水腫
- 主にPC/PSに期待:COPDの急性増悪、CO2ナルコーシス、慢性期のCOPD、ALSなどの神経筋疾患
- 主に上気道を開けることに期待:睡眠時無呼吸症候群
- 主に挿管回避:期待→DNARの患者
参照:NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)ガイドライン(改訂第2版)
在宅でも使用可能
NPPVは在宅用の機種もあります。このようなイメージです。
これは慢性期での話で、今までとは別の軸で考えましょう。睡眠時無呼吸症候群、慢性期のCOPD、ALSなどの神経筋疾患の患者さんが適応になります。
禁忌・適していない患者
以下の患者は禁忌となります。
- 気管挿管が必要:心停止、呼吸停止、気道が確保できない
- 誤嚥・窒息のハイリスク:嘔吐、大量の喀痰
- 患者の協力が得られない:不穏
- マスク装着の問題:顔面熱傷・外傷
詳しく知りたい人は[NPPVとは?適応疾患は?何ができる?【10年目の呼吸器内科医が解説】]も参考にしてみてください。
NPPVを準備できるようになろう
関連記事:NPPVの観察項目は何がある?【設定、モード、注意点も解説】
機種によって細かい違いがあります。施設ごとでの状況を確認してください。
今回は管理人の病院を例にします。ほかの病院でも共通していることが多いと思います。
NPPVの回路組み立て
このように組み立ててください。
注意点
以下が注意点です。
- 本体:フィルターを忘れない
- 回路:結露が多くないか
- 加温加湿器:電源を入れる、注射用水を点滴の要領で流す、空気孔をあける、温度は30℃台前半
- マスク:呼気ポートを必ず1か所つける
- フィッティングにこだわる
観察項目
あくまで一例です。施設によってルーチンで観察する項目があればそちらを優先させてください。
- 本体:コンセントの接続、回路の接続、フィルターの状態
- 回路:回路内の水の除去、ねじれ、ゆるみなど
- 設定:モード、IPAP、EPAP、呼吸回数、酸素濃度、加湿器温度、気道内圧上限/下限アラーム、一回換気量アラーム、分時換気量アラーム、無呼吸アラーム
- 患者の数値:モード、IPAP、EPAP、呼吸回数、酸素濃度、リーク
- マスク:フィッティング、皮膚潰瘍
- 患者の状態:意識、呼吸音、胸郭の動き、喀痰、胃部膨満感
詳しく知りたい人は[NPPVの観察項目は何がある?【設定、モード、注意点も解説】]も参考にしてみてください。
NPPVにかかわる諸問題
関連記事:NPPVのマスクフィッティングのコツ【リークや皮膚障害が予防できる】
実際にNPPVをやっていると、いろんな問題が出てきます。その中でも代表的な、マスクフィッティング、リーク、皮膚潰瘍について解説します。
マスクフィッティング
フィッティングはNPPVで最も大事といっても過言ではありません。
まず一つ覚えてもらってほしいのは、「初心者が思っているより、マスクをかなり弱くしめるくらいが丁度いい!」ということです。
NPPVは、受ける側は決して楽ではありません。患者に嫌われたら継続不可能になります。受け入れてもらうために、めちゃくちゃ説明しながら装着を行います。あと、マスクフィッティングは、後述するリーク、皮膚潰瘍にも大きくかかわってきます。
初心者が思っているより、マスクをかなり弱くしめるくらいが丁度いい。
リークについて
呼気を吐き出すため、ある程度のマスクの外へ空気が漏れていくことが必要です。これをリークといいます。
リークを作るため、必ず呼気ポートが1か所必要です。特にリークがなければ窒息に近い状況になります。
リークの許容範囲について
まず、リークにはインテンショナルリークとアンインテンショナルリークの2つがあります。
- インテンショナルリーク:意図したリーク。呼気ポートからの排出。ある程度必要(20L/分くらいは)。
- アンインテンショナルリーク:意図しないリーク。多少はよいが、ありすぎると問題(100L/分くらいになると呼吸に問題が出てくる)
分かりやすいように図でも書いてみました。
機械には合計の数字が表示されます。20-60L/分程度を目安にするのがいいでしょう。
NPPVのリークは20-60L/分程度が目安。
リークを減らしたい
いろんな原因があり、ケースバイケースです。その都度患者をみて工夫してくのが一番大事かもしれません。多い原因について下にまとめます。
- マスクの圧迫(変形でかえってリークが増える)→マスクをゆるめる、
- 顔面のくぼみ→ガーゼetcで埋める、マスクのサイズ変更
- ドレッシング材や胃管の隙間や厚み→薄いものへ
皮膚潰瘍を予防する
こちらも、常につきまとう問題です。なかなか正解がない分野でもあります。
ひとつポイントは、「圧力」のみでなく皮膚とマスクの「ずれ」が重要です。マスクによって横にちからが加わるとできやすいです。
滑りやすいドレッシング材を考慮してみると良いかもしれません。
あと、呼吸が大丈夫なら短時間でも外してみてください。マスクのローテーションするなどを考えると良いかもしれません。
詳しく知りたい人は[NPPVのマスクフィッティングのコツ【リークや皮膚障害が予防できる】]も参考にしてみてください。
NPPVを書籍で学びたい人はNPPVを学ぶのにオススメの本5選【2021年版】もご覧ください。
酸素の器具の使いわけ
関連記事:酸素療法の器具の使い分け【酸素と二酸化炭素を分けて考えましょう】
デバイスの選択のとき、酸素と二酸化炭素を切り分けて考えるとわかりやすいです。全体像をまとめるとこの図となります。
酸素と二酸化炭素、それぞれ解説します。
酸素の観点
シンプルに、どれだけのFiO2を与えられるかで考えるといいでしょう。こちらの図を参考にしてみてください。
特にたくさん酸素を与えたいとき、リザーバーマスク、Nasal High Flow ® 、NPPV、人工呼吸器が選択肢にあがります。それぞれの特徴は以下となります。
- リザーバーマスク:一般病棟でも扱いやすい、他に比べるとやや威力は落ちる
- Nasal High Flow ®:口が開くので飲食ができる、QOLが高い
- NPPV:急性心不全にはいい適応、DNARで挿管を望まないひと
- 人工呼吸器:一番強力
なお、下のものほど酸素を与える力が強力です。また、二酸化炭素を吐き出すことはNPPVと人工呼吸器ができます。
二酸化炭素の観点
CO2ナルコーシスのリスクあるので慎重にデバイスを選びます。ここは、自発呼吸が十分の時と不十分な時の2つにわけて考えましょう。
- 自発呼吸が十分:酸素濃度(FiO2)を管理。カニュラかベンチュリーマスクで始めることが多い。
- 自発呼吸が弱い/呼吸回数が少ない:CO2を無理やり吐き出させる。CO2を無理やり吐き出させるためNPPV、人工呼吸器が必要。
高CO2血症の患者にはナルコーシスのリスクを常に考える。
詳しく知りたい人は[酸素療法の器具の使い分け【酸素と二酸化炭素を分けて考えましょう】]も参考にしてみてください。
人工呼吸器
これはかなりボリュームが大きくなるので、[人工呼吸器カテゴリー]で別に記事をあげています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。病棟で働く上での理解に役立てば幸いです。
酸素療法に関しての記事をこちらにまとめています。気になった方はこちらもご覧ください。
- オキシマイザーの酸素濃度は?【カニューレ、リザーバーマスクとの違いも解説】
- インスピロンとは?ベンチュリーマスクとは?【使い方も解説】
- ネーザルハイフロー(Nasal High Flow)とは?【最も大事な機能を解説】
- ネーザルハイフロー(Nasal High Flow)の使い方を解説【設定や観察項目も】
- NPPVとは?適応疾患は?何ができる?【10年目の呼吸器内科医が解説】
- NPPVの観察項目は何がある?【設定、モード、注意点も解説】
- NPPVのマスクフィッティングのコツ【リークや皮膚障害が予防できる】
- 酸素療法の器具の使い分け【酸素と二酸化炭素を分けて考えましょう】
- 人工呼吸器カテゴリー
コキュトレはクイズも用意しています。気になった方はこちらもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
- 酸素療法(カニュラ、オキシマイザーetc)の注意点は?【クイズで学ぶ】
- ベンチュリーマスクとインスピロンとは?【クイズで学ぶ】
- ネーザルハイフロー(Nasal High Flow)とは?【クイズで学ぶ】
- ネーザルハイフロー(Nasal High Flow)の使い方を解説【クイズで学ぶ】
- NPPVとは?適応疾患は?何ができる?【クイズで学ぶ】
- NPPVの使い方や観察項目を解説【クイズで学ぶ】
- NPPVのマスクフィッティングのコツ【クイズで学ぶ】
- 酸素療法の器具の使い分け【クイズで学ぶ】
ブログよりもっといいのはない?
- Instagramでも同じ内容を発信しています。投稿はこちらから。
- NPPVを書籍で学びたい人は[NPPVを学ぶのにオススメの本5選【2021年版】]もご覧ください。
また、キャリアアップで最も大事なのは、働く環境だったりします。どんな症例が経験できるか、まわりの人間関係などで、力がつけられるかは大きく変わります。
より呼吸器が学べる職場を見つけたい人は、【保存版】医師転職・完全ガイド【転職したことない人向け】にまとめてみたので、ぜひ参考にしてみてください。
この記事は日本呼吸器学会 酸素療法マニュアルを参照して書きました。