胸水の原因には何がある?
胸水で行う検査は?
どうやって原因を診断していったらいい?
こういった疑問にお答えします。
この記事の内容
- 胸水での鑑別疾患の一覧
- 胸水の原因を診断していく流れ
- 胸水の結果の解釈のし方
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
- 2022年 呼吸器内科指導医
この記事では、呼吸器内科12年目の筆者が、胸水を診断していくのに必要な情報をまとめて網羅的に紹介していきます。
主に医療従事者むけです。研修医、看護師、その他のコメディカルの方々に分かりやすいよう、かみ砕いて解説します。胸水のある患者さんを担当したって方は、ぜひ参考にしてみて下さい!
胸水での鑑別疾患の一覧
では、さっそく結論から紹介します。
胸水の鑑別疾患:パーフェクト版
漏出性
静水浸透圧↑ | 心不全,SVC症候群、収縮性心膜炎、フォンタン手術後 |
膠質浸透圧↓ | 低アルブミン血症,ネフローゼ症候群,肝硬変 |
周囲から漏出 | 肝性腹水,腹膜透析,水腎症、髄液の胸腔内漏出 |
滲出性
悪性腫瘍 | 肺癌、転移性腫瘍、悪性胸膜中皮腫、悪性リンパ腫 |
感染症 | 膿胸、胸水随伴性肺炎、結核性胸膜炎、真菌、寄生虫、ウイルス、HIV |
肺疾患 | 肺塞栓症、気胸の反応性、石綿の良性胸水、無気肺、ARDS、アスベスト、肺移植後 |
肝胆膵 | 肝膿瘍、脾膿瘍、膵疾患、肝移植後内 |
消化管 | 食道穿孔、横隔膜ヘルニア、視鏡的静脈瘤硬化症、横隔膜下膿瘍、後腹膜手術後 |
心疾患 | 心内膜炎、CABG手術後、Dressler症候群(心筋梗塞後) |
婦人科疾患 | 卵巣過剰刺激症候群、Meigs症候群、子宮内膜症、胎児胸水、産後胸水 |
膠原病 | 関節リウマチ、SLE、薬剤性ループス、シェーグレン症候群、家族性地中海熱、ANCA関連血管炎 |
薬剤性 | ニトロフラン、ダントロレン、メチセルジド、アミオダロン、IL-2、プロカルバジン、メトトレキサート |
その他 | 黄色爪症候群、骨髄移植後、サルコイドーシス、尿毒症、放射線後、溺水、アミロイドーシス、電気火傷、髄外造血、縦郭嚢胞破裂、Whipple病、血胸、乳び胸、偽性乳び胸 |
呼吸器内科医をしていると、原因が分からないって胸水に時々出会います。その都度、鑑別疾患を調べていきました。そんな10年くらいの積み重ねがこちらの表です。
なので、かなり詳しくレアなものまでまとめたものって思ってください。
多すぎて逆に分かりにくい…
1年目の方とかはそうなりますよね。なので、特に大切なものをピックアップします。
胸水の鑑別疾患(頻度の多いもの)
漏出性 | 心不全,低アルブミン血症,ネフローゼ症候群,肝硬変 |
滲出性 | 肺癌、悪性リンパ腫、細菌性肺炎、結核、気胸の反応性、石綿の良性胸水、無気肺、リウマチ、SLE、薬剤性、血胸 |
ちなみに、頻度はこうなります。
この辺りが特によく出会うものです。まずはこの辺りでも押さえておくといいです!
漏出性、滲出性って何?
平たく言うと、こんな感じです。
- 滲出性:胸膜に炎症が起きて、水分やタンパク質などが染み出して起こるもの
- 漏出性:血管内の水圧が上がったり、血液中のアルブミン濃度が低下して浸透圧が下がるために起こるもの
「細胞から滲み出すか」「血管内から漏れ出すか」みたいな感じですね。
これは記事の後半[胸水の検査結果から判断]で解説しているので、引き続きご覧ください!
診断していく流れ
鑑別疾患は挙げたけど、どうやって診断したらいい?
では、実際に診断できるようにここから解説していきます。主にはこの流れ。
- 患者背景から推測する
- 胸腔穿刺を行う
- 胸水の検査結果から判断
- 胸水の見た目
- 滲出性か漏出性
- 白血球の分画(好中球優位、リンパ球優位、好酸球優位)
- 生化学項目
さらに詳しく図にしてみました。
だいたいこの流れになります。では、一つずつ見ていきます。
患者背景から推測する
胸水の検査を行う前に、ある程度は患者背景から推測できることも多いです。例えば次の状況。
- もともと慢性心不全があった患者さんが、全身浮腫と胸水をきたすようになった → 心不全による胸水が疑わしい
- もともと肺癌があった患者さんで、病側に胸水をきたすようになった → 癌性胸膜炎が疑わしい
- 外傷で肋骨骨折が起こったときに、同時に胸水が出現した → 血胸が疑わしい
もちろん、推測にしか過ぎないので、この後で紹介する胸腔穿刺も行います。
胸腔穿刺を行う
ある程度患者さんの状況から推測した後は胸腔穿刺を行います。
胸腔穿刺の処置自体は別記事で解説しています。興味ある方はこちらもご覧ください。
ただ、例えば胸水が少なすぎて、穿刺すると肺に当たってしまうなぁって場合は胸腔穿刺を行えません。その場合は、患者さんの状況から推測することになります。
あと、両側胸水は漏出性が多かったです。あきらかな患者背景があって漏出性なら、胸腔穿刺は行わずに、患者さんの状況から判断してしまうことが多いです。
胸水の検査結果から判断
胸腔穿刺をしました。でも結果をどう見ていいか分からない…
胸腔穿刺で特に大事なのは、こんな流れ。
一つずつ見ていくのですが、先に胸水の見た目から少し紹介します。
見た目
穿刺したら、めっちゃ赤い胸水が返ってきた!
めっちゃ赤い胸水だったら、血胸かとか癌性かとか気になりますよね。
でも、見た目は診断のアテにはならないって思ってください!
実際、血性の胸水は悪性腫瘍のリスクを上げるんです。ただ、いろんな原因で上がるので、特異的とは言い難いです。
一つだけ例外を挙げると、明らかな膿性の場合。この時は膿胸の可能性が非常に高いです。
膿胸では、見た目も明らかなドロっとした膿で、あとツンとした強烈なにおいがします。
胸腔穿刺をする前に患者さんの背景から膿胸を疑っていたとします。胸腔穿刺で明らかな膿だったら、そのままドレナージを行ってもいいです。
膿胸は別の記事[膿胸とは?症状、原因、治療と解説【ガイドラインをもとに解説】]で解説しています。興味があればご覧ください。
滲出性か漏出性
滲出性って何?漏出性って何?
平たく言うと、こんな感じです。
- 滲出性:胸膜に炎症が起きて、水分やタンパク質などが染み出して起こるもの
- 漏出性:血管内の水圧が上がったり、血液中のアルブミン濃度が低下して浸透圧が下がるために起こるもの
「細胞から滲み出すか」「血管内から漏れ出すか」みたいな感じですね。
では、どうやって滲出性か漏出性か判断するのでしょう。判断する基準が、Lightの基準です。
<Lightの基準>
以下のうち1項目以上あてはまれば滲出性。
全蛋白質:胸水/血清>0.5
LDH:胸水/血清>0.6
胸水LDH>血清LDH上限×2/3
漏出性の場合、原因の多くは心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群、低alb血症です。
滲出性の場合、この後の白血球や生化学の結果をさらに見て行きます。
白血球の分画(好中球優位、リンパ球優位、好酸球優位)
白血球は、もともと好中球、リンパ球、好酸球、単球などに分かれるのは覚えていますか?胸水の中の白血球のどれが多いかによって分かれてきます。
- 好中球優位:膿胸、肺炎随伴性胸水など
- リンパ球優位:結核性胸膜炎、悪性腫瘍、サルコイドーシス、リウマチ性胸水など
- 好酸球優位(≧10%):気胸、悪性腫瘍、肺塞栓症、寄生虫、血胸など。
好中球は、白血球の中でも感染に真っ先に関わるものです。これは分かりやすいです。
リンパ球で結核性胸膜炎、悪性腫瘍などが多いのはイメージしにくいと思います。これは、深く考えずにこういうものって覚えておくのがいい気がします。
好酸球は、アレルギーとか寄生虫の時に上がりやすいものです。ただ、アレルギーや寄生虫での胸水って数として少ないんですね。だから、「好酸球が上がっている胸水の中」では、いろんなものが含まれてしまいます。好酸球優位って情報から診断するのが難しいんです。
生化学項目:糖、LDH、アミラーゼ、CEA、CYFRA、ヒアルロン酸、pro-BNPなど
生化学はいっぱい酷目があります。なので、こちらの表にまとめておきます。
糖の低下 | <60mg/dL | 膿胸、肺炎随伴性胸水、リウマチ性胸水、結核性胸膜炎、癌性胸膜炎、核性胸膜炎 |
LDH上昇 | >160~200 IU/L | 膿胸、癌性胸膜炎、リウマチ性胸水など |
アミラーゼ上昇 | >100~200 IU/L | 悪性腫瘍、結核、膵疾患 |
ADA上昇 | > 40~50IU/L | リンパ球優位なら結核性胸膜炎、リウマチ性胸水。好中球優位なら膿胸、肺炎随伴性胸水 |
CEA上昇 | >5~10ng/mL | 癌性胸膜炎。悪性胸膜中皮腫では上昇しにくい。 |
CYFRA21-1上昇 | > 50~100ng/mL | 癌性胸膜炎を考える。ただし感度、特異度ともに低く、参考程度。 |
ヒアルロン酸上昇 | > 10万 ng/mL | 悪性胸膜中皮腫(3万ng/mL以下なら考えにくい。) |
SMRP 上昇 | >8~15 nmol/L | 悪性胸膜中皮腫 |
トリグリセリド上昇 | > 110mg/dL | 胸部術後、乳び胸 (悪性リンパ腫、リンパ脈腫症 |
コレステロール上昇 | >250mg/dL | 偽性乳び胸 |
NT-ProBNP上昇 | >1300 1500pg/mL | 心不全 |
BNP 上昇 | > 115pg/mL | 心不全 |
抗核抗体上昇 | リウマチ性胸水、 SLE |
いくつか補足しておきます。
- 血胸の基準:胸水Hbが血清Hbの1/2以上
- ADAは結核性胸膜炎のイメージが強いですが、リンパ球優位でない時はそこまで考えないです。あと、リウマチでも上昇します。あと、結核性胸膜炎は、培養とかの細菌検査では陰性になることが多いです。
- アミラーゼは膵臓に関係するってイメージが強いですよね。ただ、膵炎に伴う胸水自体がそんなに多くないんです。なので、アミラーゼが上昇している胸水の中では膵炎は少数派になっちゃいます。
まとめ
では、内容をまとめます。
胸水の鑑別疾患で特に大切なものがこのあたり。
- 漏出性:心不全,低alb,ネフローゼ,肝不全
- 滲出性:肺癌、悪性リンパ腫、細菌性肺炎、結核、気胸の反応性、石綿の良性胸水、無気肺、リウマチ、SLE、薬剤性ループス、血胸
大まかには、この流れで診断していきます。
- 患者背景から推測する
- 胸腔穿刺を行う
- 胸水の検査結果から判断
- 胸水の見た目
- 滲出性か漏出性
- 白血球の分画(好中球優位、リンパ球優位、好酸球優位)
- 生化学項目
このあたりが分かれば、胸水の診断に必要な知識はバッチリです。参考になった方は、明日からの仕事に活かしてみて下さい!
何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。
というわけで、クイズを用意してみました。
もっと気軽に見たい
もっと気軽に見られるよう、Instagramでも投稿しています。