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膿胸とは?症状、原因、治療を解説【ガイドラインをもとに紹介】

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2022年12月12日 (更新日:2023年1月14日)
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膿胸の原因には何がある?

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膿胸はどうやって診断したらいい?

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膿胸の治療法は何?

こういった疑問にお答えします。

執筆者:ひつじ

  • 2009年 研修医
  • 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
  • 2017年 呼吸器内科専門医

膿胸のガイドラインには、[米国胸部外科学会(American Association for Thoracic Surgery、SSTS)の2017年ガイドライン]や、[⽇本呼吸器外科学会の膿胸治療ガイドライン]があります。

この記事では、呼吸器内科12年目の筆者が、ガイドラインをベースに膿胸を解説していきます!

医療従事者むけです。担当患者さんに当たった方は、ぜひ参考にしてみてください。

  1. 膿胸とは?
  2. 膿胸の原因
  3. 膿瘍の症状
  4. 膿胸を診断する方法
  5. 膿胸の治療
  6. まとめ

膿胸とは?

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そもそも、膿胸って何?

膿胸は平たく言えば、肺と肋骨の間のスペースに細菌感染で膿がたまった状態です。

専門用語を使うと、肺の表面を覆っている膜を臓側胸膜って言います。肋骨の裏側を裏打ちしている膜を壁側胸膜って言います。で、この間のスペースを胸腔とか胸膜腔とか言ったりします。

なので、膿胸は胸腔に膿が貯まった状態ですね。

いくつか、分類を紹介していきます。

急性期と慢性期

発症してからの期間で、このように分類します。

  • 3週間以内:急性膿胸
  • 3週間~3ケ月:亜急性膿胸
  • 3ケ月以上:慢性膿胸

発症してからの時期

発症してから、どんなことが起こっているかで分ける分類もあります。

ここの分類をいきなり出してもイメージが沸きづらいと思うので、少し例えます。

戦国時代でも何でもいいんですけど、貴方が住んでいる町に敵国から戦車が入ってきたとします。

戦車はその辺りの建物とか橋とか壊しだしたので、こちらも反撃をします。何とか滴をやっつけることができたけど、あたりは焼野原になってしまいました。

これを、膿胸に当てはめます。最初に戦車がやってきて、こっちが情報をキャッチする時期。これは、細菌の侵入に対して胸水が出てきたり血管新生が起こっている初期反応の状態。これが滲出期です。

その後少しして、体が菌をやっつけようとして好中球とかがやってきます。いわゆる、炎症ってやつですね。頑張って菌と戦っている状態。これが繊維素膿性期。

そして、菌はやっつけることができたけど、辺りは焼野原になってしまいました。膿胸で例えるなら、フィブリンが器質化して正常構造が結構変わってしまったような状態。これが器質化期です。

いかがでしょうか。箇条書きにしてまとめます。

  • 滲出期:細菌の侵入に対して胸水が出てきたり血管新生が起こっている初期反応の状態
  • 繊維素膿性期:好中球などの炎症反応が起きている。フィブリンで隔壁が形成され、膿胸腔が多房化
  • 器質化:フィブリンが器質化し、胸膜の肥厚などが起きる。

慢性期になるほど、当然器質化している割合が増えます。器質化は、いわば肺の正常構造が置き換わっているような状態。肺の呼吸機能にも影響します。治療も難渋しやすくなるため、急性期の段階でカタを付けてしまいたいです。

膿胸の原因

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原因にはどんなものがあるの?

肺炎から随伴するものが50%と最多です。あとは、術後感染が21%、外傷後が6%、食道穿孔が5%と続きます。外科手術後には、縫合不全で気管支瘻があったりする場合ですね。

原因ではないですが、膿胸にかかりやすいリスク因子もある程度はあります。

  • 高齢で寝たきり:慢性的に誤嚥が起こりやすく、長期的な感染になりやすいです
  • 糖尿病、腎不全、低栄養状態、免疫抑制剤を使用中など:免疫機能が低下しているためです

原因菌

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原因菌にはどんなものが多いの?

肺炎から波及しやすいので、肺炎の原因菌と重複します。ただ、さっきのリスクで出てきたみたいに慢性的な誤嚥で起こることも多いため、口腔内の常在菌も原因になりやすいです。

  • 急性
    • S.pneumoniae:肺炎球菌
    • Streptococcus属(A群):A群溶血レンサ球菌
    • S.Aureus (MSSAおよびMRSA):黄色ブドウ球菌
    • H.influenzae:インフルエンザ桿菌
  • 慢性
    • 嫌気性Streptococcus属:レンサ球菌属
    • S. milleri属
    • Bacteroides属:バクテロイデス
    • 腸内細菌化
    • M.tuberculosis:結核菌
  • 出典:サンフォード感染症治療ガイド2021に日本語訳をつけました

細菌性肺炎は別記事で解説しているので、興味がある方は[肺炎の診断基準【症状、検査、入院の基準などを解説】]もご覧ください。

膿瘍の症状

膿胸も感染なので、悪寒を伴う高熱、咳、胸痛、呼吸困難が主です。

ただ、慢性になってくると、炎症所見も当初よりは落ち着いてきます。急性が燃え上がるような反応としたら、慢性期にはそれが落ち着いて体力がおちたような状態。

なので、発熱や胸痛がなく、たとえば食欲低下や体重減少といった症状のみの場合もみられるようになります。

AATSガイドラインの推奨

なお、ガイドラインにはこんな感じで推奨があります。なお、[AATSガイドライン2017]より筆者が日本語訳したものです。

  • クラスⅠ: 肺炎の症状/徴候/不明な敗血症がある時、胸水の有無を調べるべき (エビデンスレベルB)
  • クラスⅠ: 肺炎に対する適切な抗生剤治療が無効、胸水の有無を調べるべき(エビデンスレベルB)

膿胸は肺炎から随伴するものが多く、あとは術後感染、外傷後、食道穿孔。原因菌は、肺炎の原因菌 + 口腔内の常在菌。

膿胸を診断する方法

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最終的にどうやって膿胸って判断するの?

発熱などの感染症状があって膿胸を疑うような胸水があった場合、胸水の検査で診断できます。

では、膿胸を疑うCT所見はどんなものでしょうか?胸水の検査でどんな所見だったら膿胸みたいでしょうか?ここで、いくつかの検査所見を解説していきます。

胸部CT

胸部CTではどんな所見が見られるのでしょうか。

  • 胸水や胸膜肥厚が見られる
  • 胸水は限局して見られる
  • 被膜や隔壁がある場合は多房化している

画像でお見せするとこんな感じです。

胸水のCT所見は別記事[胸部CTでの胸水の特徴と鑑別疾患を解説【胸膜疾患も合わせて説明】]で解説しています。よければこちらもご覧ください。

膿が厚い膜でおおわれている見たいなイメージを持ってください。カプセルで包まれているみたいなイメージでもいいと思います。

なので、他の胸水に比べると、まず限局していることが多いです。あと、周りに膜でおおわれているので、胸膜肥厚が見られたりします。

膿胸中では、炎症反応からフィブリンが固まって線維化します。それが、膿胸の中にいくつも小部屋を作ってしまうんです。カプセルでおおわれた中で、さらにたくさん小部屋に分かれているみたいなイメージです。

こうなってしまうと、治療が難しくなってくるんです。いくつにも分かれているから膿を出すのも難しくなります。血管から遠くなるので抗菌薬も届きにくくなります。

この辺りは、記事後半の治療の部分でも解説します。引き続き最後までご覧ください。

AATSガイドラインの推奨

なお、ガイドラインにはこんな感じで推奨があります。

  • クラスⅠ : 胸腔エコーはX線に加えてルーチンに施行して、胸腔感染の評価、画像ガイド下インターベンションの適応評価を行うべき (エビデンスレベルB)
  • クラスⅡa: 胸腔感染が疑われるときは胸部CTをするべき (エビデンスレベルB)

引用:AATSガイドライン2017より筆者が日本語訳

胸水検査(胸腔穿刺)

膿胸ではこんな所見が特徴的です。

  • 胸腔穿刺をした時に、肉眼的に膿性や悪臭がある。
  • 滲出性胸水、pH↓、糖↓、多核白血球優位
  • 細菌検査で原因を検出する

膿は、こちらの写真のような見た目です。明らかな腐ったようなツンとくる臭いがします。

あと、滲出性胸水は何か分かりますか?胸水を漏出性と滲出性に分ける、Lightの基準っていうのがあります。

胸水のLightの基準

胸水総タンパク/血清総タンパク >0.5
胸水LDH/血清 LDH >0.6
胸水LDH >血清LDHの基準値上限の2/3

1つ以上を満たす場合:滲出性胸水
いずれも満たさない場合:漏出性胸水
(感度 98% 特異度 83%)

AATSガイドラインの推奨

なお、ガイドラインにはこんな感じで推奨があります。

  • クラスⅠ : 胸水中の膿汁があり、グラム染色が陽性もしくは胸水培養が陽性なら、膿胸の診断をして、胸腔ドレナージを施行し、必要時外科的介入追加 (エビデンスレベルB)
  • クラスⅠ: 胸腔感染を疑う患者で胸水pH <7.2なら、複雑な臨床経過が予想されるため、胸腔ドレナージを施行し、必要時外科的介入追加 (エビデンスレベルB) クラスⅡa:胸水LDH> 1000IU/Lで、グルコース<40mg/dlもしくは多房性胸水がある場合、抗生剤のみで治りにくいため、胸腔ドレナージを推奨する (エビデンスレベルB)
  • クラスⅠ: 穿刺もしくはドレナージの際に胸水培養を行い、グラム染色と培養用の無菌容器に加え、新たに抜いた胸水を好気性/嫌気性の血液培養に出す (エビデンスレベルB)

引用:AATSガイドライン2017より筆者が日本語訳

発熱などの感染症状があって膿胸を疑うような胸水があった場合、胸水の検査で診断。
胸部CTの所見は、胸水や胸膜肥厚、被膜や隔壁がある場合は多房化していることもある。
胸水での所見は、肉眼的な膿性や悪臭、滲出性胸水、pH↓、糖↓、多核白血球優位、原因菌の検出

膿胸の治療

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治療法にはどんなものがある?

じゃあ、まず治療の項目を列挙していきます。

  • 抗菌薬
  • 胸腔ドレナージ
  • 繊維素溶解療法(ウロキナーゼ)
  • 手術療法

では、それぞれ解説していきます。

抗菌薬

抗菌薬は必須です。どんな抗菌薬を使うのでしょうか?

当然、膿胸を起こす菌に効く抗菌薬です。どんな菌が膿胸を起こしやすかったか覚えていますか?[原因菌]のところで紹介したので、よければ戻ってご覧ください。

これらに効く抗菌薬。具体的にはこんな感じです。

  • 第1選択
    • ユナシン™(アンピシリン/スルバクタム)
  • 第2選択
    • 耐性菌が予測される場合、もしくはユナシン™であまり効かない場合
    • ゾシン™(タゾバクタム/ピペラシリン)
    • メロペン™(メロペネム)

胸腔ドレナージ

ドレナージも大半の症例では行います。ドレーンを入れることができないくらい少量でなければ行います。

あと、いくかポイントをあげます

  • ドレーンの太さは決まっていません。14Fr以下でもいいです。
  • 後々に繊維素溶解療法(ウロキナーゼ)を行う可能性が高そうならダブルルーメンにする方が無難です

繊維素溶解療法(ウロキナーゼ)

繊維素溶解療法(ウロキナーゼ)は、膿胸の中で多房化した隔壁を溶かしてドレナージしやすくしてくれる薬です。ドレーンを通して直接胸腔内に入れます。

多房化は記事の前半でも解説しました。膿胸の中にいくつも小部屋を作ってしまうんです。全体の1つのスペースだった膿胸内部に、さらにたくさん小部屋に分かれているみたいなイメージです。

こうなってしまうと、治療が難しくなってくるんです。いくつにも分かれているから膿を出すのも難しくなります。血管から遠くなるので抗菌薬も届きにくくなります。

なので、その小部屋の壁を溶かしてしまおうっていうのが繊維素溶解療法(ウロキナーゼ)なんですね。

具体的な投与方法はこんな感じ

ウロキナーゼ12万単位、1日1回、3日間
生食100mlに溶解し、ドレーンの側管から注入
2~3時間程度クランプして、開放する

では、実際効果のほどはいかがでしょうか。この効果で現状言われているのは、死亡リスクを低下させるほどの効果はないけど、外科手術を回避しやすくなるって感じです。

なので、多房化してる患者さんで、特に高齢で手術が難しいなどあれば積極的にやっていいでしょう。

あと、実は保険適応外っていうことは知っておいていいでしょう。それでも、副作用も多くなく手術のリスクを減らせされるため、日本では多く行われている治療です。

手術

具体的にはこんなものがあります。

  • 急性期
    • 胸腔鏡下膿瘍腔掻爬術 (膿胸郭清術)
  • 慢性期
    • 開窓術:肋骨を1、2本切除して、胸腔を体外に開放します。その後膿胸腔を洗って、皮弁などで脳胸腔を閉じます。治癒期間が長くて、複数回の手術も必要です。
    • 肺剥皮術、胸膜肺全摘術:肺が線維性の被膜により覆われ、ドレナージによっても肺が拡張しない場合、その表面の膜を剥離します

ドレナージ、抗菌薬などの効果がない場合は、早い目に手術を考慮します。7日以内に治癒しない場合は、外科的意見を相談してもいいでしょう。

いろいろあるけど、結局どれを選べばいいの?

では、どれを選ぶのか、解説していきます。

治療の選択

選び方のポイントはこんな感じ

  • 抗菌薬:必須
  • ドレナージ:ごく少量でドレーンを入れられないって状況じゃなければ基本的に行う
  • 繊維素溶解療法:多房化している症例では考慮
  • 手術:ドレナージ1週間でも改善に乏しければ考慮

まず抗菌薬、ドレナージからはじめて、多房化してたら早い目に繊維素溶解療法を行って、それでも肺が拡張しなかったり炎症が改善しなければ1週間程度を目安に手術を検討するって感じですね。

膿胸におけるLightの分類

胸水の漏出性、滲出性の判断だけじゃなくて、膿胸で治療方針を決めるためのLightの分類があります。こちらも参考にしてみてください。

AATSガイドラインの推奨

AATSガイドラインにはこう書かれています。なお、[AATSガイドライン2017]より筆者が日本語訳したものです。

抗生剤治療

  • クラスⅡα: 市中膿胸
    • ①非経口第2もしくは3世代セファロスポリン+メトロニダゾール
    • ②非経ロアミノペニシリン+βラクタマーゼ阻害剤
  • クラスⅡa: 院内感染もしくは処置後の膿胸-MRSAや緑膿菌
    • ①バンコマイシン+セフェピム+メトロニダゾール
    • ②バンコマイシン+ピペラシン/タゾバクタム
  • クラスⅠ :膿胸治療ではアミノグリコシドは避ける
  • クラスⅡa: 抗生剤の胸腔内投与は無意味
  • クラスⅠ:可能なら培養結果に基づいて抗生剤を選ぶ
  • クラスⅡα:嫌気培養陰性の場合でも、経験的に嫌気性菌をカバーするものを続ける

胸腔ドレナージ

  • クラスⅠ: 画像支援下胸腔ドレーン留置は、早期、 最小の隔壁形成膿胸の治療において有用 クラスⅡa : 隔壁のある胸水では、手術の候補にならないで細径カテーテル留置が推奨される
  • クラスⅠ : 閉塞予防のため、ルーチンのドレーンフラッシンングが推奨される
  • クラスⅠ:胸腔ドレナージはドレナージの有効性を確認する密なCTフォローアップと組み合わせるべき
  • ドレナージ不良胸水があるときはすぐに追加のドレーンを入れるか、より積極的な治療を行う

線維素溶解療法

  • クラスⅡa:胸腔内線維素溶解は早期膿胸症例にルーチンに 用いるべきではない

外科治療

  • クラスIIa: 胸腔鏡下手術はステージⅡ急性膿胸患者全例において第1選択とすべき

まず抗菌薬、ドレナージからはじめて、多房化してたら早い目に繊維素溶解療法を行って、それでも肺が拡張しなかったり炎症が改善しなければ1週間程度を目安に手術を検討する。

まとめ

では、内容をまとめます。

  • 膿胸は肺炎から随伴するものが多く、あとは術後感染、外傷後、食道穿孔。原因菌は、肺炎の原因菌 + 口腔内の常在菌。
  • 発熱などの感染症状があって膿胸を疑うような胸水があった場合、胸水の検査で診断。
  • 胸部CTの所見は、胸水や胸膜肥厚、被膜や隔壁がある場合は多房化していることもある。
  • 胸水での所見は、肉眼的な膿性や悪臭、滲出性胸水、pH↓、糖↓、多核白血球優位、原因菌の検出
  • まず抗菌薬、ドレナージからはじめて、多房化してたら早い目に繊維素溶解療法を行って、それでも肺が拡張しなかったり炎症が改善しなければ1週間程度を目安に手術を検討する。

この辺りが分かれば、膿胸はバッチリです。明日からの仕事に活かしてみてください!

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何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。

というわけで、クイズを用意してみました。

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