胸部CTの陰影をみても、何の疾患かも分からくて、どうしたらいいか分からない。
こういった悩みに答えていきます。
今回の内容はこちら。
- 間質性肺炎のCTでの見え方のパターン
- それぞれの陰影で何が推定できるか
- 間質性肺炎を見たときに他に考える鑑別疾患
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
胸部CTってなかなか難しいですよね。
筆者は呼吸器内科をやって10年ほどたちますけど、呼吸器を勉強していくなかでもトップクラスに難しい分野でした。
なぜなら、あらゆる疾患の特徴を理解していないと、やっぱり胸部CTも分かりづらいから。
だから、専門医でもない限り、難しいのは当然なんです。
ここでは、働くのに必要な知識が手短に理解できるよう解説しました。
この記事を読むと、これらのことが分かるようになります。
- 胸部CTからどんな病気を疑うか
- 胸部CTの所見にはどんなものがあるか
医師以外にも看護師、コメディカルの方にも分かるよう書きました。胸部CTを見る機会がある方はぜひ参考にしてみだください。
- 悲報:胸部CTからは診断できません
- びまん性肺疾患と間質性肺炎の違い
- びまん性肺疾患で考えられる疾患は?【鑑別疾患】
- びまん性肺疾患の陰影【最も重要なもの:浸潤影、すりガラス陰影、蜂巣肺】
- びまん性肺疾患の陰影【次に重要なもの:粒状影、網状影、バタフライシャドー、Air Bronchogram】
- そのほかの所見:牽引性気管支拡張、小葉間隔壁肥厚、Crazy-paving appearance、Halo sign
- まとめ
悲報:胸部CTからは診断できません
さて、まず結論です。
「胸部CTからはどの疾患か診断ができません。」
いきなり、身もふたもないことから始まりましたが、これが真実です。
だから、どの病気かCTで診断するのではありません。
「どんな影が見られたらどんな病気が考えられるかを知っておき、病歴や身体所見や他の検査も合わせて判断する」っていうことが必要になります。
びまん性肺疾患と間質性肺炎の違い
ここで、重要な考えをおさえておきます。
- 間質性肺炎:肺胞ではなく肺胞壁や血管(つまり間質)に起きる病気
- びまん性肺疾患:胸部CTで肺に影が広がる疾患
間質とは、肺胞の間にある膜のこと。間質性肺炎とはここに起こる病気のことなんです。
びまん性肺疾患と間質性肺炎を図にすると、こんな関係です。
なので、肺にひろがっている影を見たとき、「間質性肺炎の鑑別を考えよう」っていうのは実は間違いです。
正確には、「びまん性肺疾患の鑑別を考えよう。考えらえるのは、細菌性肺炎、間質性肺炎…」みたいな思考回路が正解となります。
ここは区別させておいてください。
びまん性肺疾患で考えられる疾患は?【鑑別疾患】
では、びまん性肺疾患では具体的にどんな病気が考えられるでしょうか。
びまん性肺疾患であり得る病気は、これだけあります。
- 特発性間質性肺炎:IPF、NSIP、COP、AIP、DIP、RB-ILD、LIP
- 膠原病関連肺疾患:関節リウマチ、多発性筋炎/皮膚筋炎、SLE、強皮症、シェーグレン病、混合性結合組織病
- 感染症:細菌性、非定型肺炎、粟粒結核、ウイルス性、ニューモシスティス肺炎、クラミジア肺炎
- 医原性:薬剤性(抗癌剤、漢方薬、抗菌薬など)、放射線
- 職業関連肺疾患:塵肺、アスベストーシス、珪肺
- 腫瘍性病変:肺癌(肺胞上皮癌)、癌性リンパ管症、転移性肺腫瘍、悪性リンパ腫、Castleman病、Kaposi肉腫など
- 循環器系:肺水腫、尿毒症
- 肉芽腫、血管炎:ANCA関連血管炎、ベーチェット病、サルコイドーシス、Wegener肉下種症
- アレルギ―性肺疾患:急性/慢性過敏性肺炎、急性/慢性好酸球性肺炎
- その他:びまん性汎細気管支炎、ARDS、肺胞蛋白症、アミロイドーシス、リンパ脈管筋腫症、高地肺水腫、HIV関連、HTLV関連、IgG4関連疾患
多すぎますね。大丈夫、全部覚えなくていいです。
むしろ、これをすぐ見られるようにしておくのが大事。
びまん性肺疾患の患者さんを見た時に、症状や身体所見から絞っていき、他の検査も合わせて決めていけばいいわけです。
胸部CTからはどの疾患か診断ができない。鑑別疾患を知っておき、病歴や身体所見や他の検査も合わせて判断する。
CTで診断できないってことは分かった。どんな影がみられるか、教えてほしい。
では、そこを解説していきます。
びまん性肺疾患の陰影【最も重要なもの:浸潤影、すりガラス陰影、蜂巣肺】
いろいろありますけど、特に大事なのが浸潤影、すりガラス陰影、蜂巣肺の3つだと思います。
まず、大まかにこう見えると覚えてください。
- 浸潤影:白くべったり
- すりガラス陰影:うすく白い。その名の通りすりガラスみたい
- 蜂巣肺:その名の通り蜂の巣みたい
ここで、少し例えてみみます。
びまん性肺疾患を、津波に例えてみた
写真は、震災の時の津波です。ここで、下の3つの家があったとします。
- 建物は大丈夫だけど浸水した
- 半壊
- 全壊
これは、肺でいうと
- 浸水:浸潤影。肺胞の中に液体が貯まっている。
- 半壊:すりガラス陰影。間質が少し傷んでいる。
- 全壊:蜂巣肺。間質がかなり傷んだ。
おおむね、浸潤影が肺胞の病気で、すりガラス陰影や蜂巣肺が間質の病気です。また、すりガラス陰影が進むと蜂巣肺に近づくとざっくり言えます。
また、どれが一番直りやすいかというと、浸水ですね。半壊は何とか戻せるかという感じで、全壊はもはや建て直すしかありません。
これが、肺にも言えます。
- 浸潤影:肺胞の中に液体が貯まっている→治りやすい
- すりガラス陰影:肺胞壁が少し傷んでいる→まだ治る
- 蜂巣肺:肺胞壁が完全に壊れた→もう元には戻らない
この例えも例外は多々あります。ただ、影からざっくりとイメージするにはいい例です。あくまでざっくりですが、こんな理解でいてください。
それぞれの影を、少しだけ解説します。
浸潤影
こうやってべったりして見えます。
浸水しているようなイメージでみてもらっていいです。
他の陰影と比べると、治療によってもとに戻りやすいです。
代表的な疾患は、細菌性肺炎、器質化肺炎、慢性好酸球性肺炎、肺水腫などです。
なお、コンソリデーション(Consolidation)と表現することもあります。
すりガラス陰影
やや薄くみえます。浸潤影と違い、影の中に血管などが薄くみえるのが特徴。
肺胞壁がやや傷んでいるイメージ。治療によってまだもとに戻る余地がありそうです。
NSIP、非定型肺炎、関節リウマチ、多発性筋炎/皮膚筋炎、SLE、強皮症、シェーグレン病、混合性結合組織病、ニューモシスティス肺炎、薬剤性、放射線など多数。
蜂巣肺
名前のとおり、蜂の巣になっています。
薄い肺胞壁が完全に線維化してしまって、厚い壁となって見えます。
など多数。元には戻らない、全壊というイメージにつながります。
代表的な疾患は、IPF、慢性過敏性肺臓炎。
おおむね、浸潤影が肺胞の病気で、すりガラス陰影や蜂巣肺が間質の病気。また、すりガラス陰影が進むと蜂巣肺に近づくとざっくり言える。
この3つ以外にも聞いたことない名前がたくさんある。
そうですね、では他の所見を紹介します。
びまん性肺疾患の陰影【次に重要なもの:粒状影、網状影、バタフライシャドー、Air Bronchogram】
では、次に重要なものです。
粒状影
名前の通り、つぶつぶに見える陰影です。
代表的な疾患は、びまん性汎細気管支炎、粟粒結核、じん肺、サルコイドーシス、転移性肺腫瘍など。
網状影
名前の通り、網目状にみえる陰影です。
先ほど出てきたすりガラス陰影や蜂巣肺と同様、肺胞壁が壊れる過程をみていると捉えられます。
そういわれてみれば、すりガラス陰影を蜂巣肺の間ぐらいの陰影に見えてきませんか?
代表的な疾患は、間質性肺炎、各種の膠原病肺などです。
バタフライシャドー
これは有名なやつです。左右の肺でも心臓付近に見える影で、蝶の羽のように見えるためこの名前です。
心不全や肺水腫で見られます。
Air Bronchogram
浸潤影の中に、気管が抜けて見えるものです。
肺胞の中にたくさん液体がたまっているのを表しています。
細菌性肺炎が代表的です。
他には粒状影、網状影、バタフライシャドー、Air Bronchogramといったものをおさえておく。
そのほかの所見:牽引性気管支拡張、小葉間隔壁肥厚、Crazy-paving appearance、Halo sign
ここから先は難易度が高くなります。ドクターのみでいいしょう。そのほかの職種は飛ばしてください。
牽引性気管支拡張
末梢の細い気管支が、周りの構造物に引っ張られて広がって見えます。
肺に線維化がすすんで見えるものです。なので、かなり進んだ間質性肺炎ととらえていいでしょう。
小葉間隔壁肥厚
その名の通り、小葉の間の隔壁が肥厚しているものです。
小葉については[胸部CTで二次小葉から原因疾患を判断する方法【4つに分ければ理解できる】]で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
小葉の隔壁はリンパの通り道なので、サルコイドーシスや癌性リンパ管症といったリンパ増殖性疾患などで見られます。
Crazy-paving appearance
メロンの皮のような見た目です。
肺胞蛋白症で最も有名です。ただ、肺胞出血やウイルス性肺炎などでもみられます。
Halo sign
結節や腫瘤の周囲にすりガラス陰影が見えます。
Haloとは「後光」の意味です。そんなイメージでCTも見えますでしょうか。
肺アスペルギルス省で有名ですが、肺癌、血管炎などでも見られます。
まとめ
では、内容を振り返ります。
- 胸部CTからはどの疾患か診断ができない。鑑別疾患を知っておき、病歴や身体所見や他の検査も合わせて判断する。
- おおむね、浸潤影が肺胞の病気で、すりガラス陰影や蜂巣肺が間質の病気。また、すりガラス陰影が進むと蜂巣肺に近づくとざっくり言える。
- 他には粒状影、網状影、バタフライシャドー、Air Bronchogramといったものをおさえておく。
何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。
というわけで、クイズを用意してみました。
もっと得意になりたい
さらに得意になりたい人は、書籍で学んだり、適切な働く環境に身を置くことが大事です。どんな症例が経験できるか、まわりの人間関係などで、力がつけられるかは大きく変わります。
- 気軽に見たい人は[Instagramでの投稿]をどうそ。
- 胸部CTを書籍で学びたい人は[胸部CTを学ぶのにオススメの本4選【2021年版】]もご覧ください。
- より呼吸器が学べる職場を見つけたい人は、[看護師転職サイトのランキング【結論:大手3サイト+自分の事情に合わせて】]にまとめてみたので、ぜひ参考にしてみてください。
勉強会での準備が大変
勉強会の準備って、とにかく大変ですよね。準備自体が自分のためになるのは分かるけど、たいてい10時間以上かかったりするし。
- 元ネタのパワーポイントをnoteでダウンロードできます。[こちら]からご覧ください。
以上、参考になればうれしいです。明日からの仕事にぜひ活かしてみてください!