在宅のNPPVはどんな状況が適応になる?
始めるときの注意点は?
モードってどう決めたらいい?
費用はいくらかかる?
こういった疑問に答えていきます。
この記事の内容
- 在宅NPPVの適応基準
- 在宅NPPVを始める流れ
- マスクやモードの設定
- 費用
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
在宅NPPVを始めるタイミングって、ちゃんと答えられますでしょうか。
実際に在宅NPPVが適応される基準はあるんです。ここができてないと、保険が通るかも怪しくなったりします。
この記事では、導入の基準から、マスクの選び方、圧の設定のしかたまで、必要な情報を網羅的にまとめました。
ここが分かれば、在宅NPPVの導入が正しくスムーズにできるようになります。
前提:NPPVでできること
そもそも、NPPVって何?
写真で見た方が早いですが、NPPVとはこちら。
こんな感じで、バンドで頭に固定して空気や酸素を送るタイプの酸素療法です。
できること:二酸化炭素を吐き出させる
ポイントは、二酸化炭素を吐き出させる作用があるということ。ここ、めっちゃ重要です。
二酸化炭素を吐き出そうとすると、たくさん息を吐かなくてはなりません。つまり、1分間に息する量(分時換気量)を増やすことが必要です。
例えばカニュラなどは、そよ風を送る程度。換気量は増やせません。
それに対して、NPPVは無理やり強めの圧で空気や酸素を送るので、換気量を増やして二酸化炭素を吐かせてあげることができるわけです。
ちなみに、NPPVは日本語では「非侵襲的陽圧換気」と言います。挿管まではしない(=非侵襲的)で、空気や酸素で圧をかける(=陽圧換気)っていうことです。
詳しくは、別記事でまとめています。興味のある方はこちらも!
基本は睡眠時
これを一日中つけているわけにはいかないので、寝ている間につけるってケースがほとんどです。
あまりに重症だともっと時間を伸ばすことも考慮しなければならなかったりしますけど、ここはケースバイケースですね。
どんな疾患に使うの?
在宅NPPVの適応基準
適応となりうる疾患
適応となる疾患はこのあたりがあります。
- 拘束性換気障害(結核後遺症,脊椎後側彎症など)
- 慢性期のCOPD
- 慢性心不全におけるチェーン・ストークス呼吸
- 肥満低換気症候群(CPAP)
- ALSなどの神経筋疾患
[前提:NPPVでできること]で説明したみたいに、NPPVは二酸化炭素を吐かせてあげられることが特徴。
なので、高二酸化炭素血症の状態であるⅡ型呼吸不全がいい適応です。
実際に適応となっている疾患は、こんな状況です。
- COPD:26%
- 肺結核後遺症:23%
- 神経筋疾患:18%
- 後側弯症:5%
- 肺胞低換気症候群:3%
- 肺高血圧症:3%
- 間質性肺炎:2%
適応基準
少し複雑ですけど、ガイドラインでの適応基準も紹介しておきます。
[NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)ガイドライン(改訂第2版)/日本呼吸器学会]からの引用です。
COPD(慢性期)
COPDがこちら
- ①あるいは②に示すような自他覚症状があり、③の(a)~(c) いずれかを満たす場合。
- ①呼吸困難感、起床時の頭痛・頭重感、過度の眠気などの自覚症状がある。
- ②体重増加・頸静脈の怒張・下肢の浮腫などの肺性心の徴候。
- ③(a) PaCO2 55mmHg
PaCO2の評価は、酸素吸入症例では、処方流量下の酸素吸入時のPaCO2、酸素吸入をしていない症例の場合、 室内気下で評価する。 - ③(b) PaCO2 < 55mmHgであるが、夜間の低換気による低酸素血症を認める症例
夜間の酸素処方流量下に終夜睡眠ポリソムノグラフィー (PSG) あるいはSpO2モニターを実施し、SpO2 <90%が5分間以上継続するか、あるいは全体の10%以上を占める症例。また、閉塞性睡眠 時無呼吸症候群(OSAS) 合併症例で、経鼻持続陽圧呼吸 (nasal CPAP) のみでは夜間の無呼吸、 自覚症状が改善しない症例。 - ③(c) 安定期のPaCO2<55mmHgであるが、 高二酸化炭素血症を伴う増悪入院を繰り返す症例。
- ③(a) PaCO2 55mmHg
拘束性換気障害 (肺結核後遺症・脊椎後側彎症など)
拘束性換気障害はこちら。
- 自他覚症状として、起床時の頭痛、昼間の眠気、疲労感、不眠、昼間のイライラ感、性格変化、知能の低下、夜間頻尿、労作時呼吸困難、体重増加・頸静脈の怒張・下肢の浮腫などの肺性心の徴候のいずれかがある場合、以下の(a)、(b) の両方あるいはどちらか一方を満たせば長期NPPVの適応となる。
- (a) 昼間覚醒時低換気 (PaCO2≧45mmHg)
- (b) 夜間睡眠時低換気 (室内気吸入下の睡眠でSpO2 <90%が5分間以上継続するか、あるいは全体の10%以上を占める)
- 上記の自他覚症状のない場合でも、著しい昼間覚醒時低換気 (PaCO2≧60mmHg)があれば、 長期NPPVの適応となる。
- 高二酸化炭素血症を伴う急性増悪入院を繰り返す場合には長期NPPVの適応となる。
在宅NPPVをするとどんな効果があるの?
自覚症状は、患者さんのアンケートではこんな感じ。
- 血液ガスでPaCO2が改善
- 自覚症状が改善
- 急性増悪して入院するのを予防できる
- 生命予後の改善
生命予後は、エビデンスでいうと疾患によっていろいろあります。
NPPVの合併症は?
合併症にはどんなものがある?
- 皮膚障害:マスクやベルトの圧迫による
- 目の結膜の乾燥:NPPVからのエアリークによる
- 気道の乾燥
- 消化管へのガスの流入
- 睡眠障害
特に最初の2つ、皮膚障害や結膜の乾燥が大事です。そのため、マスクのフィッティングや加湿がとても大事。
詳しくは別記事[NPPVのマスクフィッティングのコツ【リークや皮膚障害が予防できる】]でも解説しています。こちらも参考にしてみてください。
在宅NPPVを行うまでの流れ
患者さんにNPPVを始めたいんだけど、具体的にはどうしたらいい?
こんな流れで進めていきます。
それぞれ解説します。
適応基準に当てはまる?
まずは適応に当てはまるか判断します。
適応基準は、記事の前半の[ 在宅NPPVの適応基準 ]で解説しました。そちらもご覧ください。
教育、トレーニング
機材に慣れるなと、外来でNPPVを覚えてもらうのはなかなか大変なので、何日か入院して慣れてもらっています。
具体的に覚えてもらうのはこのあたり。
- 機材の使い方
- マスクフィッティング
- 状態悪化時の対応
- 実際に慣れてもらう
パンフレットを渡したり、あと直接説明します。
また、起きている間に実際につけてもらいます。いけそうなら寝ている間にもつけてもらいます。
もし患者さんが寝ている間につけにくいなどあれば、マスクや設定などの微調整も試してみます。
マスクフィッティングを調整する
繰り返しますけど、NPPVではマスクフィッティングがめっちゃ大事。
なので、まずは、どんなマスクが合うか試します。マスクのサイズ、種類とあるのですが、ここは記事の後半でも解説しています。
起きている間に、一度試しで着けてもらいます。
自分は説明しながら、かなりゆっくり試していきます。自分の例がこちらです。
「今からつけますね」
↓
(マスクをかるく顔に近づけ)
「こんなふうに風が当たりますよ」
↓
(マスクをかなりゆるく装着して)
「大丈夫ですか?よければ、まだゆるいのでしめていきますね。」
そこでいけそうなら、寝ている間に試してもらいます。
モードを設定する
モードの基本的な考え方は、「息をするタイミングをどう決めるか」です。具体的にはこれら。
- 患者さんが決める
- 機械が決める
- 呼吸があれば患者さんで、息がなければ機械が決める
そして、それぞれこんなモードです。
- 患者さんが決める:CPAP、Sモード
- 機械が決める:Tモード
- 呼吸があれば患者さんで、息がなければ機械が決める:S/Tモード
ただ、メーカーや機種の種類によって微妙に呼び名が変わったりしています。ここだけ注意してください。
圧設定を決める
いくつか設定項目がありますけど、大事なのがこのあたり。
- IPAP/EPAP
- FiO2
- 呼吸回数
- リーク
IPAPとEPAP
このような違いです。
- IPAP:吸う時にかける圧
- EPAP:吐く時にかける圧
図で示すとこうなります。
NPPVは、患者さんが息を吐くときにも空気を送っているのです。
そして、「IPAPとEPAPの圧の差が大きいほど、一回換気量が増える」というのはぜひ知っていて下さい。
数字の目安は、一番弱い設定で以下の通り
- IPAP:8cmH2O
- EPAP:4cmH2O
二酸化炭素の状態や患者さんの呼吸状態などを見ながら、圧を上げたりします。
FiO2
吸入酸素濃度で、実際に患者さんが吸っている酸素の濃度です。
設定や圧は、人工呼吸器でも似たようなものが出てきます。そちらを理解すると、NPPVもより分かりやすくなります。別記事[人工呼吸器の設定・完全解説【結論:酸素と二酸化炭素をわけて考えましょう】]で解説しているので、よければ参考にしてみてください。
リーク
患者さんは、マスクの隙間から吐いた息を外に出しています。この空気の量が、リーク(漏れ)です。
だいたい20~60L/分が標準的なところ。
多すぎてもダメですが、少ないと息が吐けないためもっとダメです。
ここは、先ほど解説したマスクフィッティングと大きくかかわります。[NPPVのマスクフィッティングのコツ【リークや皮膚障害が予防できる】]でも書いたので参考にしてみてください。
通院を続ける
始めた後も、定期的に通院してもらいます。
通院でみることは、以下の通り
- 何か体調など変化がないか
- 血液ガスやレントゲンのフォロー
- NPPVが継続できているか
- コスト算定
最後のコスト算定の部分で、月に1回通院してもらっています。
マスクや機器の種類
マスクの種類:鼻マスク、鼻口マスク(フルフェイスマスク)、トータルフェイスマスク
マスクには、こんな種類があります。
- 鼻マスク:鼻だけを覆う
- 鼻口マスク (フルフェイスマスク) :鼻と口を覆う
- トータルフェイスマスク:顔全体を覆う
- ヘルメット型マスク
出典:看護roo!
それぞれ、見ていきます。
鼻マスク
顔を覆う部分が少ないので、患者さんにも受け入れられやすいです。
口があくので、会話などもしてもらいやすいです。ただ、口呼吸の人には向いていません。
鼻口マスク (フルフェイスマスク)
急性期では一番多く使われます。慢性期の在宅でもよく使われます。
トータルフェイスマスク
顔全体を覆います。なかなか見る機会はありません。
急性期では、顔のくぼみが多くて他の2つではうまく合わないって患者さんにはよく使います。
どのマスクを選ぶか?
繰り返しますが、マスクのフィッティングは続けるのにめちゃくちゃ大事。なので、どのマスクを選ぶかもめちゃくちゃ大事。
選ぶポイントはこの辺りです。
- マスクの種類:鼻マスク、鼻口マスク、トータルフェイスマスク
- サイズ:S、M、L
サイズは、体格が普通ならMが多いです。
ただ、最終的には実際につけないと分かりません。最初に選んだのが難しければ、いろいろと試してみましょう。
在宅酸素の費用
1か月でどれくらいかかるの?
1か月で以下のコストがかかります。
- 在宅人工呼吸指導管理料 2,800点
- 人工呼吸器加算(鼻マスク・顔マスクを介した人工呼吸器を使用した場合) 6,480点
合わせて9280点。つまり、3割負担で27840円、2割負担で18560円、1割負担で9280円です。
ただ、NPPVをしている人は在宅酸素も行っている人が多いです。その場合、以下が追加されます。
- 酸素濃縮装置加算 4000 点 3カ月に3回
- 酸素ボンベ加算(携帯用酸素ボンベ) 880 点 3カ月に3回
- 呼吸同調酸素供給器加算 300 点 3カ月に3回
全部合わせると14460 点。つまりは…
- 3割負担:43380円
- 2割負担:28920円
- 1割負担:14460円
こんな感じになります。
社会的補助が得られる:身体障害者手帳、介護保険
代表的なものは、身体障害者手帳と介護保険です。
身体障害者手帳
在宅でNPPVをする人は、たいてい呼吸機能障害として身体障害者手帳の補助が受けられます。
制度の紹介は長くなるので、こちらのサイトを参考にしてください。
介護保険
介護が必要な人が受けることのできる保険です。NPPVをしている方は、多少元気でも要支援などには当てはまる方が多いです。
制度の紹介は長くなるので、こちらのサイトを参考にしてください。
まとめ
それでは、本日の内容を振り返ります。
NPPVは、バンドで頭に固定して空気や酸素を送るタイプの酸素療法でした。
ポイントは、二酸化炭素を吐き出させる作用があるということ。1分間に息する量(分時換気量)を増やして、換気の補助をすることができます。
効果はこのあたり。
- 血液ガスでPaCO2が改善
- 自覚症状が改善
- 急性増悪して入院するのを予防できる
- 生命予後の改善
当然、合併症もあります。大事なのは下の2つ。
- 皮膚障害:マスクやベルトの圧迫による
- 目の結膜の乾燥:NPPVからのエアリークによる
合併症の予防って意味でも、継続するって意味でもマスクフィッティングが超重要です。実際に始めるときはマスクをつけて調整します。マスクの種類は以下のもの。
- 鼻マスク:鼻だけを覆う
- 鼻口マスク (フルフェイスマスク) :鼻と口を覆う
- トータルフェイスマスク:顔全体を覆う
あとは、モード。体表的なものはこれらです。
- 患者さんが決める:CPAP、Sモード
- 機械が決める:Tモード
- 呼吸があれば患者さんで、息がなければ機械が決める:S/Tモード
設定値はこれらの項目が重要です。
- IPAP:吸う時にかける圧
- EPAP:吐く時にかける圧
- FiO2
- 呼吸回数
- リーク
以上、参考になればうれしいです!それでは!
何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。
というわけで、クイズを用意してみました。
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