気胸でどんな場面のときに胸腔ドレナージをやったらいいのかなあ?
手術をするのはどんな時?
なおった後、外来ではいつまで通院したらいいのかなぁ?
こんな疑問にお答えします。
この記事の内容
- 気胸での胸腔ドレナージ治療について
- 他の治療法
- 手術について
- 治療が終わった後のフォロー
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
気胸は一言でいえば、「肺に穴が開いてパンクした」病気。そのため、パンクしたタイヤみたいにしぼんでしまいます。
代表的な治療法に胸腔ドレナージがあります。でも、患者さんによって手術をしたり、安静にするのみだったりします。
どうやって決めているのかよく分からない。
ここでは、胸腔ドレナージや他の治療の決め方を解説します。治った後の生活の注意点も後半では解説しています。
この記事を読めば、気胸の治療をどうやって決めるのか、分かるようになります。
普段、気胸に関わる方はぜひ参考にしてみてください!
気胸の原因や検査所見とかが気になる方は[気胸の分類をまとめました【分類が分かれば原因も全て把握できます】]もご覧ください。
気胸での胸腔ドレナージの適応は?
結論です。胸腔ドレナージの適応は、中等度~高度です。
気胸は、レントゲンでの肺のしぼみ具合によって、重症度が変わります。ある程度しぼんで中等度になってからが、胸腔ドレーンの適応です。
いきなり重症度って言われても・・。
そうですよね、次に見て行きましょう。
気胸の重症度
重症度は、胸部レントゲンによって分けれらます。治療方針も重症度で決まるので、結構大事です。
- 軽度(Ⅰ度):肺の頂部が鎖骨より上にある
- 中等度(Ⅱ度):肺の頂部が鎖骨より下にある
- 高度(Ⅲ度):肺が半分以下にしぼんでいる
胸腔ドレナージとは?
胸腔ドレナージの理解がちょっと曖昧です。教えてください。
分かりました。説明していきます。
詳しくは[胸腔ドレナージの看護手順、必要物品ついて【10年目の呼吸器内科が解説】]でも解説しているので、参考にしてみてください。
胸腔ドレナージでやってること
胸腔ドレナージは、肺の外に漏れた空気を、体の外に出す処置です。
ここで、密閉された箱に風船がぶら下がっているところを想像してみください。これで言うと、風船が肺にあたり、箱が肋骨にあたります。
気胸とは、風船に穴が開いて萎んだ状態。
このままでは、風船と箱の間に空気が貯まって、風船が膨らまなくなってしまいます。そのため、ここにチューブをいれて、空気を体の外に出してあげるわけです。
もう少し医学的な言い方で説明すると、「胸膜腔の空気を体外にドレナージする」って感じでしょうか。
胸腔ドレーンの処置
胸腔ドレーンを入れれるかなぁ。ドレーンバッグもあんまり分かっていない。
胸腔ドレーンの手技は[胸腔ドレナージの手技、手順ついて【動画も交えて解説】]で解説しているので、ご覧になってください。
ドレーンバッグ
胸腔ドレーンをいれたら、チューブの先にはドレーンバッグという箱をつけます。
このドレーンバッグで、患者さんに空気が逆流しないようにしたりしているんです。
ドレーンバッグも解説すると長くなります。以下の記事で解説しています。
ドレーンバッグを理解するのは、気胸の治療ではめちゃくちゃ大事です。これが分かっていないと、気胸も治ったかどうか判断できないんです。
キーワードは「エアリーク」と「呼吸性変動」です。最初は難しいかもしれないけど、ここが分かるまで繰り返し読んで理解してみてください。
胸腔ドレナージは、胸膜腔にドレーンを留置して空気を外に排出し、肺を拡張させる処置。適応は中等~高度(Ⅱ~Ⅲ度)。治療にはドレーンバッグの理解が必須。
気胸の他の治療法を紹介
胸腔ドレナージ以外の治療法も押してください
では、こちらに列挙します。
それぞれ何をやっているのか、1つずつ噛み砕いて説明します!
保存的療法:胸腔ドレナージ、胸腔穿刺、安静
保存的療法は、肺に空いた穴が自然に閉じてくれるのを待つ方法です。さっきの胸腔ドレナージも、肺の穴自体は自然に閉じるの待ちですね。
胸腔穿刺(脱気する)
ドレナージがずっとチューブを置きっぱなしなのに対して、穿刺は一時的に針を刺して、胸腔の空気を抜く方法です。よく、脱気すると言います。
胸腔穿刺の処置は、以下の記事で解説しています。
安静
気胸が軽度の時、自然に穴が閉じるのを待ちます。本当に、何もせずただ安静にします。
胸膜癒着術:手術的胸膜癒着術、化学的胸膜癒着術
胸膜癒着術は、肺の外側と肋骨の裏側をくっつけるような糊を入れる治療法。
ここで、さっきの風船の例えでもう一度説明します。
気胸では、風船に穴が開いて萎んでしまっています。
ここで、風船と箱の間にチューブをいれました。肺の外に漏れた空気は、チューブで外に逃すことができ、萎んでた肺もまた膨らむことができました。
しかし、穴自体が閉じているわけではないので、このままだとまた萎んでしまいます。
ここで、チューブを通して糊をいれみましょう。そうすると、風船は箱にくっついて、ふくらんだままです。
これが、胸膜癒着術でやっていることです。
医学的な言い方にすると「臓側胸膜(風船の外側)と壁側胸膜(箱の内側)を癒着する(糊付けする)」みたいな感じです。
処置で使う薬とか方法は、以下の記事で解説しています。
特にどの薬剤が気胸で使えて、どうなったら治ったとみなせるかなど、気胸の治療では大事な点です。ぜひ、ご覧ください。
手術療法:開胸手術、胸腔鏡手術
保存的治療でも治らない場合は、手術を考慮します。胸腔鏡を使う場合もあれば、直接開胸する場合もあります。
気管支鏡下気管支塞栓療法
穴が空いてある肺を、気管側から詰めてしまうという治療法です。図でいうとこんな感じ。
詰める作業に気管支鏡が必要です。なので、気管支鏡に慣れた術者が行う必要があります。
詰め物は、シリコン素材の特別に作られたもの。EWS(Endochial Watanabe Spigot)と言います。
呼吸器内科/外科でないと行わないような、専門的なものです。専門家の方以外はこれくらいの理解で十分です。
「やり方を詳しく見たい!」ってかたは、こちらの動画をご覧ください。
気胸の治療には以下のものがある。
・保存的療法:胸腔ドレナージ、胸腔穿刺、安静
・手術療法:開胸手術、胸腔鏡手術
・胸膜癒着術:手術的胸膜癒着術、化学的胸膜癒着術
・気管支鏡下気管支塞栓療法
いっぱい治療法があるけど、どんな患者さんにどれを使ったらいい?
どの治療法を選ぶ?【ガイドラインも紹介】
[気胸の重症度]で分かれた方法で、まずはこのように分かれます。
- 軽度(Ⅰ度)→安静にして経過観察
- 中等度(Ⅱ度)、高度(Ⅲ度)→胸腔ドレナージを行い入院
基本的には、自然に穴が塞がるのに期待します。
ただ、それでもうまくいかない時や特殊なケースでは、手術を考えます。例えば、以下のようなケース。
- 再発を繰り返す場合
- ドレーンを入れても、空気がずっと漏れ続ける場合
- 両側に気胸がある場合
- 著明な血胸がある場合
空気が何日漏れ続けると手術をするのかは、絶対的なものはありません。若年であれば3~5日くらいが多いです。高齢者なら手術によるADL低下のデメリットなども考え、もう少し見ることが多いようです。
高齢など手術に耐えられないような場合は、胸膜癒着術や気管支鏡下気管支塞栓術を考慮します。
フローチャートで描くとこうなります。
緊張性気胸の場合
緊張性気胸は、気胸で肺と肋骨の間にたまった空気が肺や心臓を圧迫して、呼吸や循環が破綻しそうになる状態。
緊急事態です。下手したら、心臓がとまってしまいます。
この場合は、急ぎで処置を行わなければなりません。
レントゲンなどを撮る間にさらに急変するかもしれません。まずは、点滴のサーフロー針で第2肋間鎖骨中線上を穿刺し、空気を外に逃がしてしまいます。
状況を見ながら、同時並行で胸腔ドレーンの留置も急ぎましょう。
再発率を考慮して治療を選ぶ
気胸の場合、治療による侵襲が高いほど、再発率は起きにくくなるという傾向があります。
具体的には、再発率は以下の通り。
- 安静:42%
- 脱気:29%
- 胸腔ドレナージ:16%
- 手術:2%
手術が最強です。とはいうものの、全ての施設で手術にすぐ移れるわけではないし、手術の体の負担もあります。
この辺りを考えると、まずは保存的加療で、うまくいかなければ手術って流れになります。
ガイドライン:日本、イギリス
ガイドラインではどうなっていますか?
気胸は、治療の画一化も難しく、特に日本ではガイドラインも10年も更新されてなかったりします。
その中でも、いくつかのガイドラインを載せておきます。
British Thoracic Society(BTS;イギリス胸部疾患学会)のガイドライン
イギリスでのガイドラインはこちら。
・軽度(Ⅰ度)→安静にして経過観察
・中等度(Ⅱ度)、高度(Ⅲ度)→胸腔ドレナージを行い入院
・ドレーンを入れても空気がずっと漏れ続ける場合や、再発では手術を考える。高齢など手術に耐えられないような場合は、胸膜癒着術や気管支鏡下気管支塞栓術を考慮。
・緊張性気胸は緊急事態!早急に穿刺脱気を行う!
いったん穴も塞がって、退院できました。いつまで外来でみたらいいですか?
治療が終わった後のフォロー:いつまで?運動は?飛行機は?
いつまでレントゲンを見るか
これがなかなか決まっていません。選択肢としては、①レントゲンで肺が拡張しているのが確認できるまでか、②1回の外来、③1か月や3カ月など期間を決めるあたりです。
個人的には、後述する運動や飛行機などの生活にもかかわるので、「①肺が拡張できるのを確認できるまで」にしています。
あと、気胸は再発も多いのですが、特に最初の1年が多いです。2年を越すと減ってきます。
また胸痛や呼吸困難が現れたら、病院を受診するように言っておくべきでしょう。
運動
そこまで制限をする必要はありません。
自然気胸はほとんどが安静時におこっていて、運動などの体の負担は、気胸には関係ないと考えられています。
ただ、ブラや嚢胞があると分かっている場合は、再度気胸になる可能性を考えて慎重になった方がいいでしょう。そうでなくても、あまり過度の負担はいきなりかけずに徐々に体を慣らす方が無難かもしれません。
飛行機
レントゲンで完全に肺が膨らのが確認できるまでは、飛行機に乗るのは控えるべきです。
これは、気圧の変化で気胸が再発する可能性があり、実際に報告もあるからです。
航空会社も、気胸は「航空旅行に適さない状態」としています。イギリスのBritish Thoracic Society(BTS)のガイドラインでは、「レントゲンで治癒してから7日以上たってから」と書かれています。
旅行
旅行の制限はできません。
ただ、飛行機は先ほどの注意点があります。
また、1年以内は気胸は再発が多いので、現地で病院を受診できる場所が望ましいです。
ダイビング
ダイビングは、飛行機より圧変化が大きく厳しいです。海から浮かぶ時の減圧で、気胸が発生する可能性があります。基本的に、気胸を起こすとその後のダイビングは、禁忌と言っていいほど推奨されません。
British Thoracic Societyのガイドラインでも、「基本的には難しいが、ダイビングを行うとすれば、再発の可能性をできるだけ下げるため、両側の胸膜切除が前提」と記載されています。
まとめ
それでは、内容をまとめます。
気胸の治療には、以下のものがあります。
- 保存的療法:胸腔ドレナージ、胸腔穿刺、安静
- 手術療法:開胸手術、胸腔鏡手術
- 胸膜癒着術:手術的胸膜癒着術、化学的胸膜癒着術
- 気管支鏡下気管支塞栓療法
どのように治療法を使い分けるのでしょう?
まずはこのように分かれます。
- 軽度(Ⅰ度)→安静にして経過観察
- 中等度(Ⅱ度)、高度(Ⅲ度)→胸腔ドレナージを行い入院
基本的には、自然に穴が塞がるのに期待します。
ただ、それでもうまくいかない時や特殊なケースでは、手術を考えます。例えば、以下のようなケース。
- 再発を繰り返す場合
- ドレーンを入れても、空気がずっと漏れ続ける場合
- 両側に気胸がある場合
- 著明な血胸がある場合
高齢など手術に耐えられないような場合は、胸膜癒着術や気管支鏡下気管支塞栓術を考慮します。
緊張性気胸は緊急事態!早急に穿刺脱気を行う!
以上、参考になれば幸いです。普段、気胸の患者さんと関わることがある方は、明日から参考にしてみてください!
何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。
というわけで、クイズを用意してみました。
もっと気軽に見たい
もっと気軽に見られるよう、Instagramでも投稿しています。
- Instagramでの投稿はこちらからご覧ください。
さらに詳しく知りたい人は書籍での勉強がオススメです。
まずは、手持ちの呼吸器内科の本があれば、そこの気管支喘息のページを読むのがいいです。そこからさらに詳しく見たい人には、この本が間違いなくオススメ。
そもそも気胸のみの専門書が日本にはほとんどないのですが笑。はっきり言って医師向けですが、気胸をめちゃくちゃ詳しく解説してくれています。かといって読みにくくなく、分かりやすくていいです。
この記事は[臨床に役立つ気胸の診断と治療/菊池 功次][Management of spontaneous pneumothorax: British Thoracic Society pleural disease guideline 2010]を参考にして書きました。