胸部CTでの胸水はどう見えるの?
胸水があったら原因をどう考えるの?
これらの疑問を解決します。
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
本記事の内容
- 胸部CTでの胸水の見え方
- 胸水の鑑別疾患
- 胸膜肥厚
胸水は慣れると気づくのはさほど難しくないです。でも、実際にどんな原因があるかとなると、結構迷うことが多いです。
ここでは、胸水のCTの見え方でどんな原因が考えやすいかも解説します。合わせて、胸水に似た病気で胸膜肥厚もピックアップします。
この記事を読むと、胸水に気づけるようになったり、どんな原因が考えられるかが分かるようになります。
胸部CTを見る機会がある方は、ぜひ参考にしてみだください。
胸部CTの胸水の見え方
胸水がある場所
念のため、胸水をちょっとだけ説明します。分かっている人は飛ばしてください。
胸水は、「肺と肋骨の間に水が溜まった水」です。
もう少し専門用語を使うと、肺を覆っている膜は臓側胸膜と言います。肋骨の裏側と覆っている膜は壁側胸膜と言います。この間のスペースを胸膜と言います。
なので胸水は、「臓側胸膜と壁側胸膜の間にある胸膜腔に貯まった水」です。
場所が肺の外側ということは意識しておいてください。
胸部CTでどう見えるか。
先ほどの説明の通り、肺と肋骨の間に映ります。
そして、肺はCTでは黒っぽく、骨は白く映ります。それに対して胸水はグレー色になります。
実際にご覧ください。
胸水は、「臓側胸膜と壁側胸膜の間にある胸膜腔に貯まった水」
肺はCTでは黒っぽく、骨は白く、それに対して胸水はグレー色
一枚では不安だと思うので、何枚かお見せします。
胸水のCTで注目する点
胸水の原因を考えるために、CTでどう見えるかに注目します。
これらのポイントが分かれば、なんで胸水が貯まっているのかの手掛かりになります。
- 両側か片側か
- 量(中等量?大量?)
- 被包化されているか
- 胸膜肥厚があるか
1つずつ見ていきます。
両側か片側か
CTではこのように見えます。
両側だと、全身性の疾患の可能性が高まります。心不全とか、ネフローゼとか。片側だと、局所的な疾患の可能性が高まります。肺癌とか、肺炎とか。
量(中等量?大量?)
正確に決まっているわけではありませんが、おおまかに以下のように考えます。
- 中等量:1/3以上
- 大量:2/3以上
CTではこのように見えます。
大量の場合は、悪性腫瘍の可能性が高まります。
被包化されているか
胸水の周りが膜で覆われている状態です。
CTではこのように見えます。
胸水の周りに、やや薄めのグレーの層が覆っているのがわかりますでしょうか。
この場合は、膿胸の可能性が高まります。
胸膜肥厚があるか
先ほど説明した、臓側胸膜や壁側胸膜。
それぞれ、肺を覆っている膜、肋骨の裏を覆っている膜でしたね。これらが腫れているかどうかです。
CTではこのように見えます。
これはブログ後半で[胸膜肥厚とは?胸部CTでの胸膜疾患の見え方]で説明します。
胸水で注目するのは、両側か片側か、量(中等量?大量?)、被包化されているか
胸水の見え方は分かったけど、原因はどう判断する?
それでは、その点を解説していきます。
胸水の原因
【悲報】胸部CTのみでは診断できない
いきなり悲報です。胸水のみでは診断はできません。
胸部CTで胸水を発見したら、原因を思い浮かべて、あとは患者背景や他の検査も合わせて診断していきます。
ここの詳細は胸部CTの域を出てしまうので、ここでは鑑別疾患をあげていきます。
胸水の鑑別疾患
これらが上がります。
- 【漏出性胸水】
- 静水浸透圧↑:心不全,SVC症候群,収縮性心膜炎
- 膠質浸透圧↓:低alb,ネフローゼ,肝不全
- 腹腔から漏出:肝性腹水,腹膜透析,水腎症
- 甲状腺 :甲状腺機能低下症,粘液水腫
- 【滲出性胸水】
- 悪性腫瘍 :癌性胸膜炎,悪性胸膜中皮腫,悪性リンパ腫
- 感染症:肺炎,結核,真菌,ウイルス,HIV
- 膠原病:関節リウマチ,SLE
- 腹腔内病/変:横隔膜下膿瘍,膵炎
- 肺病変:肺塞栓,石綿の良性胸水
- 心臓病変:心筋梗塞後,冠動脈バイパス術
- 産婦人科:卵巣過剰刺激症候群、卵巣腫瘍(メージュ病)
- その他:尿毒症,食道破裂,乳び胸,偽性乳び胸,サルコイドーシス,黄色爪症候群
多いですね。
特に大事なものをピックアップすると、こうなります。
- 【漏出性胸水】
- 静水浸透圧↑:心不全
- 膠質浸透圧↓:低alb,ネフローゼ,肝不全
- 【滲出性胸水】
- 悪性腫瘍 :癌性胸膜炎,悪性胸膜中皮腫,悪性リンパ腫
- 感染症:肺炎,結核
- 膠原病:関節リウマチ,SLE
このあたりくらいは覚えてよいでしょう。
胸水のみでは診断はできない。胸部CTで胸水を発見したら、原因を思い浮かべて、あとは患者背景や他の検査も合わせて診断する。
胸水の時の、膜の肥厚に関してもう少し教えて。
胸膜肥厚とは?胸部CTでの胸膜疾患の見え方
肺を覆っている臓側胸膜、肋骨の裏を覆っている壁側胸膜。これらが腫れているのが胸膜肥厚です。
で、この胸膜肥厚、慣れないとなかなか気づかないものです。
ここで、実際のCTをご覧いただきます。
肋骨の真裏の部分をみてください。
正常な箇所では、白い肋骨の内側はすぐに黒くなっています。それに対して、胸膜肥厚の部分では、白い肋骨のうらに薄いグレーの層があるのが分かりますか。
これが、胸膜肥厚です。
いくつかご覧いただいて、目を慣らしていきます。
胸膜肥厚のCTで注目する点
いくつか、胸膜肥厚で注目する点を説明します。
- 胸膜石灰化
- 限局性かびまん性か
それぞれ解説します。
胸膜石灰化
胸膜が白く見えます。
石灰化ではプラークなどの可能性が高まります。基本的には良性です。
限局性かびまん性か
一部分のみか、全体的に広がっているかです。
胸膜が肥厚する病気にはどのようなものがありますか?
では、そこを解説していきます。
胸膜疾患はどんなものがあるか
鑑別疾患としてはこれらが上がります。
- 非腫瘍性
- 胸膜炎(結核など感染やリウマチなど)
- 陳旧性血胸、慢性出血性胸水
- 石綿症
- 胸膜プラーク(石綿関連疾患)
- アスベストスト以外の原因による線維性胸膜炎
- 被包化された胸水
- 腫瘍性
- 悪性胸膜中皮腫
- 肺癌、転移性肺腫瘍の胸膜播種
胸水の時と同様に、CTのみでは診断はできません。
胸膜の肥厚を見たら、患者背景や他の所見も聞きます。
肺炎に近いような発熱、喀痰、炎症所見の上昇があれば胸膜炎の可能性が高まります。
職歴などあれば石綿肺、悪性胸膜中皮腫の可能性が高まります。
悪性胸膜中皮腫は、生検をしないと診断できません、疑えば呼吸器外科と相談します。
胸膜肥厚の部分では、白い肋骨のうらに薄いグレーの層がある。 胸膜肥厚では、胸膜石灰化、限局性かびまん性かなどに注目する。
まとめ
では、内容を振り返ります。
- 胸水は、「臓側胸膜と壁側胸膜の間にある胸膜腔に貯まった水」
- 肺はCTでは黒っぽく、骨は白く、それに対して胸水はグレー色になります
- 胸水で注目するのは、両側か片側か、量(中等量?大量?)、被包化されているか
- 胸水のみでは診断はできない。胸部CTで胸水を発見したら、原因を思い浮かべて、あとは患者背景や他の検査も合わせて診断する。
- 胸膜肥厚の部分では、白い肋骨のうらに薄いグレーの層がある。
- 胸膜肥厚では、胸膜石灰化、限局性かびまん性かなどに注目する
何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。
というわけで、クイズを用意してみました。
以上、参考になればうれしいです。明日からの仕事にぜひ活かしてみてください!
もっと得意になりたい
さらに得意になりたい人は、書籍で学んだり、適切な働く環境に身を置くことが大事です。どんな症例が経験できるか、まわりの人間関係などで、力がつけられるかは大きく変わります。
- 気軽に見たい人は[Instagramでの投稿]をどうそ。
- 胸部CTを書籍で学びたい人は[胸部CTを学ぶのにオススメの本4選【2021年版】]もご覧ください。
- より呼吸器が学べる職場を見つけたい人は、[看護師転職サイトのランキング【結論:大手3サイト+自分の事情に合わせて】]にまとめてみたので、ぜひ参考にしてみてください。
勉強会での準備が大変
勉強会の準備って、とにかく大変ですよね。準備自体が自分のためになるのは分かるけど、たいてい10時間以上かかったりするし。
- 元ネタのパワーポイントをnoteでダウンロードできます。[こちら]からご覧ください。