胸部CTで腫瘤を見たけど、あれは肺癌じゃないかな?いや、もしかして他の病気の可能性もある?どうやって見分けをつけたらいい?
こういった疑問に答えていきます。
この記事では、肺癌の胸部CT画像、組織型による見え方の違い、他に考えるべき疾患を解決します。
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
胸部CTでかたまりを見かけたとき、肺癌じゃないかなと心配になりますよね。
より自信をもって見られるよう、ここでは肺癌らしいのはどういうものを言うのかを説明します。
これを読むと、以下のことができるようになります。
- 肺癌っぽい所見がわかるようになる
- 肺癌っぽくない所見が分かるようになる
- 他の病気の可能性もわかる
- 肺癌を疑ったときにどうしたらいいか分かる。
医師以外にもわかるように書きました。胸部CTを見る機会がある研修医、看護師、コメディカルはぜひ参考にしてみだください。
【悲報】画像では診断できません
いきなり元も子もない話ですが、肺癌は画像から診断はできません。
診断しようとすると、気管支鏡や手術での病理診断が必要になります。
なので、まずは疑うことが大事。
肺癌は画像では診断できない
どんな場面で疑うの?
腫瘍とは?結節とは?
疑う場面はいくつかバリエーションがありますが、肺に塊をみつけた時です。
「かたまり」というのが大事で、べたーっと全体に広がる影は肺炎や間質性肺炎の可能性が高まります。
ここで、今後の解説で必要なので、よく聞く言葉を一度整理しておきます。
- 腫瘍:何らかの原因で細胞が異常増殖したもの。たいていは癌か良性腫瘍。
- 腫瘤:正体は何でもいい。およそ3cm以上のかたまり
- 結節:正体は何でもいい。およそ3cm以下のかたまり
腫瘤と結節の区別は明確ではありません。だいたい、でいいです。
じゃあ、どんな腫瘤を見たときに肺癌を疑う?
それでは、次にそこを解説していきます。
肺癌を疑う所見【経時的変化が一番大事】
一番のポイント:経時的に大きくなること
いくつか肺癌っぽい特徴と肺癌っぽくない特徴があります。その中でも一番大事なのが、だんだん大きくなっていくこと。
特に、数か月ごとに少しずつ大きくなっているのはかなり怪しいです。
逆に、数日でいきなりどーんと大きくなったのは、むしろ肺炎などの感染の可能性が高まります。
疑ったときはこのような方針が必要です。
- 3~6カ月ごとにCTフォローをする
- 1~1.5cmを超えるとすぐに調べた方がよい
数か月ごとに少しずつ大きくなっていくと肺癌っぽい。
その他の悪性を疑う所見
他にも悪性を疑う所見はあります。
ただ、「経時的に大きくなる」に比べると、あくまで目安程度にとらえておいてください。
まとめると下の表のようになります。
要素 | 良性 | 悪性 |
辺縁 | 平滑 | スピキュラ(棘状突起) ノッチ 辺縁不明瞭 |
内部構造 | 石灰化 | 点状 すりガラス状結節 |
周辺の構造物 | 周囲の構造物の侵入なし | 気管支や胸膜の侵入 胸膜陥入像 |
それぞれ見ていきます。
辺縁:スピキュラ(棘状突起)、ノッチ、辺縁不明瞭
概して、こんなイメージです。
- 良性:なめらか
- 悪性:でこぼこ、ごつごつ
でこぼこ、ごつごつしている所見で代表的なものがスピキュラ(棘状突起)、ノッチ。
スピキュラは腫瘍にこまかい線状の影が飛び出て見えます。
ノッチとは、分葉とも言います。下の図のように、一部が出っ張って見えます。
内部構造:点状、すりガラス状結節
概して、こんなイメージです。
- 良性:なめらか
- 悪性:でこぼこ、ごつごつ
内部が均一だったり石灰化していると良性を疑います。
内部の濃さが不均一だと悪性を疑います。
周辺の構造物:辺縁不明瞭、胸膜陥入像
概して、こんなイメージです。
- 良性:なめらか
- 悪性:でこぼこ、ごつごつ
悪性は、周辺の構造物を巻き込んでしまうという特徴があります。例えば、気管支とか、胸膜とか。
肺癌って、扁平上皮癌とか腺癌いろいろあるよね?何か見え方の違いはある?
では、次にそこを説明していきます。
肺癌の種類によってどう変わるか
肺癌は組織型によっていろいろ分かれます。ただ、大多数は稀なものなので、ここでは頻度の多い3つにしぼります。
- 腺癌
- 扁平上皮癌
- 小細胞癌
ここでは、肺癌の詳細には深入りしません。
腺癌
以下の特徴があります
- 頻度が一番多い
- 抹消に発生
腺癌では、2cm以下の小さくすりガラス状の結節として発見されることもあります。
すりガラス状の結節
実際の胸部CTではこのように見えます。
ものによりますが、かなりゆっくりなペースで進行します。
でも、この胸部CTだけみて、いきなり癌というのはかなり難しいです。
なので、数か月おきにCTをみて、大きくなるかどうかを見ていきます。
- 消失→良性の炎症性変化
- 不変ないし増大→腫瘍性病変の疑い
となるわけです。
最初は3か月おき、落ち着いてたら6か月おきがよいでしょう。大きくなるようなら手術を検討します。
野口分類
このすりガラス状の結節の分類で有名なのが、野口分類。
これは、2cm以下の末梢型の腺癌を病理所見で分類したものですが、胸部CTとよく関連しています。
胸部CTで、ある程度予後の関連性も言えるからすごいわけです。
肺胞上皮置換性に増殖する腺癌
typeA | 腫瘍内に繊維化巣を認めない(GGOのみ) |
typeB | 腫瘍内に肺胞虚脱型の繊維化巣を認める |
typeC | 腫瘍内に繊維芽細胞の増生巣を認める 肺胞上皮非置換性に増殖する腺癌 |
typeD | 充実破壊性に増殖する低分化腺癌 |
typeE | 管状腺癌 |
typeF | 肺胞上皮非置換性に増殖する乳頭状腺癌 |
AからFになるにつれて、生命予後は悪くなります。
扁平上皮癌
このような特徴があります。
- 喫煙との関係が深い
- 空洞所見を作る
小細胞癌
このような特徴があります。
- 喫煙と関係している
- 進行が早い
- 中枢側に発生
肺癌の中でも進行が早く、中枢性の腫瘤を見つけたらはやく対応しします。
それぞれの特徴を、もう一度振り返ります。
- 腺癌:頻度が最も多い、末梢性
- 扁平上皮癌:空洞を形成しやすい
- 小細胞癌:中枢性に多い、進行が速い
腫瘤を見かけたとき、肺癌以外のものでは何があるの?
他の鑑別疾患【腫瘤を見かけたときに考えるもの】
最初に説明した通り、胸部CTで診断はできません。
もちろん、肺癌っぽいとかはあるのですが。だから、多くの鑑別を思い浮かべておくことが大事。
そこから、患者さんの他の情報を合わせて詰めていくわけです。
腫瘍を見かけたときはこのような鑑別疾患があります。
- 腫瘍
- 肺癌、転移性腫瘍、悪性リンパ腫、過誤腫、硬化性血管腫
- 感染症
- 肺炎、結核、真菌症(アスペルギルス、クリプトコッカス)
- 循環
- 肺動静脈奇形、血腫
- その他
- 肺内リンパ節、Wegener肉芽腫症、円形無気肺
- 肺梗塞、粘液栓
腫瘤を見たときの鑑別を思いうかべておく
まとめ
では、内容をふりかえります。
- 肺癌は画像では診断できない
- 数か月ごとに少しずつ大きくなっていくと肺癌っぽい
- 腺癌「頻度が最も多い、末梢性」、扁平上皮癌「空洞を形成しやすい、小細胞癌「中枢性に多い、進行が速い」
- 腫瘤を見たときの鑑別を思いうかべておく
何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。
というわけで、クイズを用意してみました。
もっと得意になりたい
さらに得意になりたい人は、書籍で学んだり、適切な働く環境に身を置くことが大事です。どんな症例が経験できるか、まわりの人間関係などで、力がつけられるかは大きく変わります。
- 気軽に見たい人は[Instagramでの投稿]をどうそ。
- 胸部CTを書籍で学びたい人は[胸部CTを学ぶのにオススメの本4選【2021年版】]もご覧ください。
- より呼吸器が学べる職場を見つけたい人は、[看護師転職サイトのランキング【結論:大手3サイト+自分の事情に合わせて】]にまとめてみたので、ぜひ参考にしてみてください。
勉強会での準備が大変
勉強会の準備って、とにかく大変ですよね。準備自体が自分のためになるのは分かるけど、たいてい10時間以上かかったりするし。
- 元ネタのパワーポイントをnoteでダウンロードできます。[こちら]からご覧ください。
以上、参考になればうれしいです。明日からの仕事にぜひ活かしてみてください!