この間、目の前でナルコーシスが起こったけど、担当の先生がぱっと治療していった。次自分の前で起こった時にできる自信がない。
こういった疑問にお答えします。
この記事の内容
- CO2ナルコーシスの治療
- CO2ナルコーシスの症状
- CO2ナルコーシスでの酸素投与のやり方
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
CO2ナルコーシスは起こると怖いですよね。目の前で呼吸状態が悪くなれば、あせりもします。
でも、実は予防はそこまで難しくありません。ポイントをおさえれば、かなり防ぐことができます。
この記事を読めば、ナルコーシスを起こさないようにしたり、起こしてもきちんと治療できたりします。
CO2ナルコーシスを少しか見たことないって人は、ぜひ参考にしてみてください。
- CO2ナルコーシスの治療【結論:予防が大事だけど起こればNPPV】
- CO2ナルコーシスとは?なぜ起こる?
- CO2ナルコーシスの症状
- CO2ナルコーシスが起こっているとどう判断する?【血ガス】
- CO2ナルコーシスでの酸素投与のやり方【ベンチュリーマスクとNPPVの違い】
- まとめ
Youtubeでさらに詳しく解説しています。動画の方がいい方はこちらもご覧ください!
CO2ナルコーシスの治療【結論:予防が大事だけど起こればNPPV】
結論はこちら。
予防が大事だけど起こればNPPV
そもそも、CO2ナルコーシスが起こっちゃったけど、予防できるケースも多々あります。
そう、予防可能なのです。なので予防が一番大事。
もし仮に起こった時は、NPPVや挿管下の人工呼吸器で治していきます。
予防が大事だけど起こればNPPV
待って!そもそもナルコーシスが何かってとこから怪しい!
では、そこも解説していきます。
CO2ナルコーシスとは?なぜ起こる?
CO2ナルコーシスは一言でいえば、
「もともと体内にCO2が貯まっていた人がたくさん酸素を吸って、意識がぼーっとしたり息がとまりそうになること」
です。
では、どうして起こるのでしょうか?
CO2の貯留がない人の場合
もともと人間は、CO2とpHで呼吸運動を調整しています。酸素はさほど関係ありません。
慢性的にCO2の貯留がある人の場合
ずっと体にCO2が貯まっている人の場合、高CO2血症に慣れてしまい、代わりに低酸素血症で呼吸を調整します。
その状態でたくさん酸素を吸ってしまうと、体が呼吸は必要ないと判断し、呼吸が弱くなってしまうというわけです。
CO2が貯まりやすい人
では、どんな人にCO2が貯まりやすいでしょうか。
代表的なのは次の疾患。これらは慢性的にCO2が貯まっている可能性があります。
- 慢性呼吸器疾患:COPD、陳旧性肺結核
- 神経筋疾患:ALS(筋萎縮性側索硬化症)、重症筋無力症など
一方、気胸など急激にCO2が貯まるものもあります。この場合、慢性的に高CO2血症である患者さんに比べてCO2ナルコーシスは起こしにくいとは言われています。
とはいうものの、要注意であることには変わりないでしょう。
ちなみに、高CO2を伴う呼吸不全をⅡ型呼吸不全と言います。知ってていいでしょう。
- Ⅰ型呼吸不全:CO2正常
- Ⅱ型呼吸不全:CO2貯留
CO2ナルコーシスは、もともと体内にCO2が貯まっていた人がたくさん酸素を吸って、意識がぼーっとしたり息がとまりそうになること。
起こしやすい病気はCOPD、陳旧性肺結核、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、重症筋無力症など。
どんな症状が起こるの?
では、次で説明します。
CO2ナルコーシスの症状
CO2ナルコーシスの症状で大事なのはこの2つ。
- 意識障害
- 呼吸抑制
ここまでいくと、結構進んだ状態です。
もっと軽症の間は、頭痛、振戦、痙攣、発汗などもあります。
しかしこれらが出ないことも多く、かなりCO2が貯まってから呼吸状態の悪化で発見されることも多いです。
ナルコーシスが起こっているってどう判断するの?
そうですね、では解説します。
CO2ナルコーシスが起こっているとどう判断する?【血ガス】
CO2が貯まる病気なので、その判断基準も血液ガスです。
特に重要なのが、この項目。
- PaCO2上昇
- pH低下
PaCO2がどれくらい増えたらナルコーシスになるか
PaCO2は正常が40 mmHg程度。どれくらい上昇したらナルコーシスの症状が出るかは、個人差が大きいです。
COPDの患者さんは、普段から60 mmHgや70 mmHgで過ごしている人も普通にいます。
そういった方は100 mmHgくらいまで増えないと症状がでないことも多いです。
(なんなら、100 mmHgでも普通にしている人もいます。)
あるいは、もともと40 mmHg程度の人は、70 mmHg程度でナルコーシスの症状になったりします。
なお、経験的にですが、60 mmHg以下で意識障害や呼吸抑制まで至る場合はほとんどありません。
こないだ血ガスを測ったら60 mmHgだったけど、あれは普段からその数値だったのかな
それを判断するのにはpHが有用です。
pHはどれくらいが目安か
pHの正常は7.4で、7.3を下回るとかなりアシドーシスです。
普段からCO2が貯まっている人は、体が調整しているので(代償といいます)、pH 7.4程度に保たれます。
一方、ナルコーシスを起こしている場合、体が調整をする時間もないのでpH 7.3以下などアシドーシスになります。
なので、高CO2血症にアシドーシスが重なっておきていると、良くないことがおきていると考えるべきです。
ちなみに、高CO2血症にアシドーシスが重なった状態が、有名な「呼吸性アシドーシス」です。
血液ガスでは①PaCO2上昇と②pH低下が大事
CO2ナルコーシスでの酸素投与のやり方【ベンチュリーマスクとNPPVの違い】
じゃぁ、次そういう現場に出くわしたらどう直したらいい?
まずは予防法です。
CO2ナルコーシスの予防法
先ほど説明したみたいに、CO2ナルコーシスは防げたというケースも多いのです。
具体的には、これらの方法があります。
- 高CO2血症になりやすい疾患があるか把握しておく
- 普段から血液ガスを採取しておく
- 入院中などは呼吸数を測っておく
- 高濃度の酸素を吸入させない
- SpO2 100%でなく90%程度で管理する。
いままでの話が分かれば、これらも伝わると思います。
なぜ予防できるか難しければ、もどって繰り返し読んでみてください。
また、慣れないとSpO2100%とかじゃないと怖いって人も多いようです。
ただ、むしろそれはナルコーシスを引き起こすだけ。SpO2 90%より100%の方が怖いです。
CO2ナルコーシスが起こった場合
程度によってやることは多少変わってきます。まとめると、これらになります。
- かるく頭痛、発汗があるくらいなら低濃度の酸素を吸入
- 呼吸状態が悪ければNPPVか挿管下の人工呼吸
- 原疾患の治療
症状が強くない場合
かるく頭痛、発汗があるくらいなら低濃度の酸素を吸入してもらいます。
これは、自発呼吸で軽減する可能性もあるから。
具体的には、カニュラやベンチュリーマスクです。
そして、繰り返しですがSpO2 100%でなく、90%程度を目指しましょう。
カニュラやベンチュリーマスクについては[酸素療法(カニュラ、オキシマイザーetc)の注意点は?どう使い分ける?][ベンチュリーマスクとインスピロンとは?何ができる?使い方は?]も参考にしてみてください。
症状が強い場合
これは、すでに呼吸状態の悪化や意識障害をきたしている場合です。
この時はNPPVや挿管下の人工呼吸器を開始します。
呼吸が弱いため、無理や空気を送り込んでCO2を吐き出さないと、どんどんCO2が貯まっていきます。
そして、それができるのはNPPVや人工呼吸器。カニュラやベンチュリーマスクではできませn。
カニュラ・ベンチュリーマスクとNPPVの違いは[酸素療法の種類と使い分け【酸素と二酸化炭素を分けて考えましょう】]も参考にしてみてください。
NPPVのモード
CO2を吐き出させるためには、それだけ換気量を増やさなければなりません。
そのため以下のモードから始めるのが王道です。
- モード:A/C
- IPAP:最低でも8 H2Ocm
- EPAP:4 H2Ocm程度
それぞれの設定は[人工呼吸器の設定を初心者に解説【2つの重要な考え方】]も参考にしてみてください。
SpO2がどうしても上がらない場合
酸素を与えすぎてはいけないのは分かったけど、高CO2と低O2はどちらが体に良くないの
それはもちろん、低O2血症です。高CO2はNPPVなどで元に戻りますが、低O2はいきすぎると脳に障害を残すかもしれません。
SpO290%くらいならいいのですが、例えば70%とか60%などめちゃくちゃ低い場合は、躊躇なく高濃度の酸素を吸わせてあげましょう。
予防で大事なのは、①高濃度の酸素を吸入させない、②SpO2 100%でなく90%程度で管理すること。治療で大事なのは、①軽症なら低濃度の酸素を吸入、②呼吸状態が悪ければNPPVか挿管下の人工呼吸、③原疾患の治療。
まとめ
それでは、内容を振り返ります。
- CO2ナルコーシスは予防が大事だけど起こればNPPV
- もともと体内にCO2が貯まっていた人がたくさん酸素を吸って、意識がぼーっとしたり息がとまりそうになること
- 症状は①意識障害、②呼吸抑制
- 血液ガスでは①PaCO2上昇②pH低下が大事
- 予防で大事なのは①高濃度の酸素を吸入させない②SpO2 100%でなく90%程度で管理する。
- 治療は①軽症なら低濃度の酸素を吸入、②呼吸状態が悪ければNPPVか挿管下の人工呼吸、③原疾患の治療
このあたりが分かれば、CO2ナルコーシスの対応はバッチリできるようになります。参考になったって方は、ぜひ明日からの仕事に活かしてみて下さい!
何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。
というわけで、クイズを用意してみました。
>>CO2ナルコーシスの基本的な知識【クイズで学ぶ】
勉強会の準備が大変
勉強会の準備って、とにかく大変ですよね。準備自体が自分のためになるのは分かるけど、たいてい10時間以上かかったりするし。
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もっと急変の対応が得意になりたい
キャリアアップで最も大事なのは、働く環境だったりします。どんな症例が経験できるか、まわりの人間関係などで、力がつけられるかは大きく変わります。
- より呼吸器が学べる職場を見つけたい人は、[看護師転職サイトのランキング【結論:大手3サイト+自分の事情に合わせて】]にまとめてみたので、ぜひ参考にしてみてください。
この記事は、[Up To Date / The evaluation, diagnosis, and treatment of the adult patient with acute hypercapnic respiratory failure]も参考にして書きました。