人工呼吸器のモードにはどんなものがあるの?
人工呼吸器のモードが複雑で理解できない。
人工呼吸器のモードをどう使い分けていいか分からない。
こんな疑問に答えます。
この記事の内容
- 人工呼吸器のモードの基本的な考え方
- 人工呼吸器のモードの内容
- それぞれのモードの使い分け
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
人工呼吸器のモードって、たくさんあるし、名前も英語が多くて分かりづらいですよね。自分も習い始めたときは、それはもう混乱しました。
でも実は、ある1つの考え方を知るだけで、スッと覚えやすくなります。
今回は、まずそこを解説します。そして、人工呼吸器のモード、使い分けまで見ていきます。
この記事を読むと、人工呼吸器のモードの違いが簡単に分かるようになります。
人工呼吸器のモードを自分でいじれるのを目標に記事をまとめました。病棟で困っている方はぜひ参考にしてみてください。
- 人工呼吸器のモードに必要な、たった1つの考え方
- 9割は対応可能になる、基本的なモード【A/C、SIMV、CPAPとVC、PC、PRVC】
- レベルアップできる、特殊なモード【APRV、PAV・・】
- モードの使い分け
- 注意点【機種によって名前が全然違います】
- まとめ
Youtubeでガチ解説もしています。詳しくなりたい方はこちらもご覧ください!
人工呼吸器のモードに必要な、たった1つの考え方
結論から言います。
「呼吸するタイミングの決め方」と「呼吸する量の決め方」の組み合わせでモードが決まります。
図で表すとこうなります。
これだけでは分かりにくい
ですよね。では、もう少し深堀りします。
呼吸するタイミングの決め方
大きく分けると、下の3パターンです。
- 息を吸うタイミングを患者が決める
- 息を吸うタイミングを機械が決める
- 上2つの両方
そして、それぞれに名前があります。
- CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)持続陽圧換気:吸気のタイミングを患者が決める。自発呼吸。
- A/C(Assist/Control)補助/調節換気:吸気のタイミングを機械が決める。強制換気
- SIMV(Synchronized intermittent mandatory ventilation)同期的間欠的強制換気。自発/強制の両方。混合型
呼吸する量の決め方
大きく分けると、下の3パターンです。
- 呼吸する量を一回換気量で決める
- 呼吸する量を吸気圧で決める
- 設定した一回換気量に応じて機械が圧を計算して、呼吸する量を決める
そして、それぞれに名前があります。
- VC(Volume Control)従量式:一回換気量を設定
- PC(Pressure Control)従圧式:吸気圧を設定
- PRVC(pressure regulated volume control)圧補正従量式:設定した一回換気量に応じて機械が圧を計算
「呼吸するタイミングの決め方」と「呼吸する量の決め方」の組み合わせ
大事なので、もう一度この図を載せます。
この組み合わせの、どこに入るかでモードが決まります。
例えば、呼吸のタイミングはA/Cで、換気量はPCといった感じです。
この考え方が分かれば、モードは9割は分かったようなもんです。
もし分からなかったら、戻って繰り返し読んでみてください。
「呼吸するタイミングの決め方」と「呼吸する量の決め方」の組み合わせでモードが決まる。
9割は対応可能になる、基本的なモード【A/C、SIMV、CPAPとVC、PC、PRVC】
では、それぞれのモードを詳しく見ていきます。
その前に、まずは人工呼吸器のモニターでの基礎知識をおさらいします。
人工呼吸器のモニター
モニターを見てください。そうすると、3つのグラフが並んでいます。
上から順番に、圧波形、フロー波形、換気量波形。
それぞれ、このような意味です。
- 圧波形:圧を示したグラフ
- フロー波形:空気の流れを示したグラフ
- 換気量波形:換気量を示したグラフ
「呼吸するタイミング」に関するモード
A/C
ポイントは以下の通り。
- 換気方式:設定された回数を強制換気。それ以上の自発呼吸があっても、患者のタイミングに合わせて強制換気。
- 特徴:①設定された換気量が維持される、②すべて強制換気
CPAP
まず、1つ注意点です。
もともとCPAPとは、吸気も呼気も一定の陽圧をかけるという意味です。
ただし、実際は一定でなく、吸気に圧をかけて呼吸を手助けをします。厳密にはCPAP+PSという意味になるんですが、通例上「CPAP」と表現されることが多いです。
では、ポイントをまとめます。
- 換気方式:患者さんの呼吸に合わせて圧をサポートする。
- 特徴:患者さんの呼吸のタイミングに合いやすい(「同調性が良い」と言います)。自発呼吸がないと使用できない。
SIMV
A/CとCPAPが混ざったようなモード。
患者に自発呼吸があれば、そのタイミングに合わせて呼吸をサポートします。もし患者に自発呼吸がなければ、機械が強制換気を行います。
ポイントは以下の通り
- 換気方式:設定された回数までは強制換気。それ以上の呼吸があれば自発呼吸。
- 特徴:2つの呼吸パターンが混ざるため、タイミングがあいにくい(ファイティングが多い)
A/CとSIMVの違い
ここが慣れないとややこしいです。
はじめのうちは、A/Cは全て強制換気、SIMVは強制換気と自発呼吸が混ざると理解してください。
もう少し丁寧に理解したい方はこちらを読んでください。
「呼吸するタイミング」に関するモードには、A/C、CPAP、SIMVがある
呼吸する量の決め方
VC
要点はこのようになります。
- 換気方式:量を規定して換気を行う
- 特徴:患者の状態に関わらず一回換気量が維持される。その代わり気道内圧は変動する。自発呼吸に合いにくい。
PC
PCの要点は以下の通り
- 換気方式:気道内圧を規定して換気を行う。
- 特徴:気道内圧が一定の代わりに、一回換気量は患者次第で変化する。自発呼吸に合いやすい。
VCとPCはモニターではこうなります。
PRVC
設定した一回換気量に応じて機械が圧を計算し、その圧で換気を行うというものです。
例えば500mlと設定すれば、一回目の呼吸で500mlの空気を患者に送ります。その時に10cmH2Oの圧がかかったとします。すると、次からは10cmH2Oの圧をかけて呼吸をします。
呼吸する量の決め方には、VC、PC、PRVCがある
モードの使い分け
さっき出てきたモードを、どう使い分けたらいいの?
モードにはいろんなものがありますが、これまで出てきたもので9割は対応可能です。これらをどう使い分ければいいのでしょうか。
少し乱暴な言い方ですが、「病初期はA/C&PCから始めて、改善するか自発呼吸がでるかしたらCPAP&PCにする」というのが王道の使い方です。
もう少し詳しくみます。
A/C、SIMV、CPAPのどれを選ぶか?
最初に結論から。
まず病初期はA/Cから始めてみる。自発呼吸があるか、病状が改善すればCPAPに変更。
SIMVは使わなくていいです。
2つの呼吸パターンが混ざることで、患者さんの呼吸リズムに合いにくい場面が多いです。
いまだに使う先生はいますが、もうSIMVを使うメリットはないといっていいでしょう。
VC、PC、PRVCのどれを選ぶ?
結論はこちら。
どれでもいいけど、PCが管理しやすい。
まず、この3つでは生命予後が変わらないことが分かっています。
そういった意味では、どれでも間違いではないです。
ただ、PCの方が患者の呼吸タイミングに合いやすい(同調性がいい)、気道内圧が上がりにくいといってメリットもあります。
そのため、PCの方がやりやすいです。
病初期はA/C&PCから始めて、改善するか自発呼吸がでるかしたらCPAP&PCにする
これでモードは9割はできるようなもんです。
さらに、設定項目もみたい方は人工呼吸器の設定を初心者に解説【2つの重要な考え方】もご覧ください。
レベルアップできる、特殊なモード【APRV、PAV・・】
今まで見たことのないモードを先生が使いだした。
今まで説明したモードで、ほとんどの場面は対応できます。
ここでは、他の特殊なモードを説明していきます。
特殊なモード
- BIPAP(Biphasic Positive Airway Pressure)
- APRV(Airway Pressure Release Ventilation)
- PAV(Proportional Assist Ventilation)
- HFO(High Frequency Oscillation)
- MMV(Mandatory Minute volume Ventilation)
BIPAP(Biphasic Positive Airway Pressure)
まとめると、こんなモードです。
- 一言でいうと:「高PEEPと低PEEPを繰り返す」モード
- どんな人に使う:自発呼吸があるけどCPAPではやや呼吸量が少ない人
高圧のとき、低圧のときの両方で自発呼吸ができます。
さらに、高圧から低圧を移った時に多少肺がしぼんだり膨らんだりするため、強制換気も行えます。
そのため、自発呼吸があるけどCPAPではやや呼吸量が少ない人などに使われます。
APRV(Airway Pressure Release Ventilation )
まとめると、こんなモードです。
- 一言でいうと:「高PEEPの合間に、低PEEPを短期間入れる」モード
- どんな人に使う:SpO2の維持が困難な人
高PEEPで肺を広げてあげて酸素化を維持するというコンセプトです。
短時間PEEPを弱めて、そこで一瞬肺がしぼんで換気ができます。
設定の例:高PEEP 25で5秒、低PEEP 0で0.5秒
ちなみに、BIPAPで高PEEPを長くするとAPRVになります。
PAV(Proportional Assist Ventilation)
まとめると、こんなモードです。
- 一言で言うと:圧や換気量ではなく、患者の呼吸仕事量を計算してサポートする
- 利点:吸気、呼気のタイミングがあいやすい。ウィーニング(Weaning)が進みやすい。
- どんな人に使う:呼吸タイミングがあいにくい(ファイティングが多い)、ウィーニングがすすみにくい
呼吸筋が使っているエネルギーを人工呼吸器が計測します。そのうちの何パーセントをサポートするかで、呼吸を補助します。
モニターは図の通りです。
この図でいうと、呼吸全体に使われているエネルギーは1.1くらいです。そのうち、患者が行っている呼吸のエネルギーは0.6くらい。
なので、差の0.5くらいが機械が補助している分です。
設定する項目も、何パーセントの部分がメインです。最初は70%の補助くらいから始めて、徐々に30%くらいまで下げられたら抜管を考えます。
HFO( High Frequency Oscillation )
まとめると、こんなモードです。
- 一言でいうと: 高頻度に振動して換気を行うモード
- 特徴:新生児によく使用される
SV(ストロークボリューム)で換気を調節して、MAP(平均気道内圧)で酸素化を調節します。
MMV(Mandatory Minute volume Ventilation)
まとめると、こんなモードです。
- 一言でいうと:1分間の換気量を設定し、それ以上なら自発呼吸、それ以下なら強制換気になる
- どんな場面で使われるか:分時換気量を保ちたい時
例えば、目標分時換気量を5Lにした場合、それまでの1分間の換気量が5.5Lなら自発呼吸になり、5Lを下回ると強制換気になります。
注意点【機種によって名前が全然違います】
せっかく勉強したのに、病棟で使われているモードが見たことない名前になってる
人工呼吸器のモードで分かりにくい、最大の原因がここです。
同じ内容を表してても、メーカーや機種によって別の名前をつけられているんです。
例えば、下の図をご覧ください。
このように、全然違ってきます。
ただ、原則はやはり人工呼吸器のモードに必要な、たった1つの考え方で解説した「換気タイミングと換気量の組み合わせ」です。
慣れれば、モニター画面を見ただけで、目の前の患者さんがどこに当てはまるか分かるようになります。
そうでなくても、あらかじめ、働いている施設の人工呼吸器を確認しておくとよいでしょう。
まとめ
では、内容を振り返ります。
- 「呼吸するタイミングの決め方」と「呼吸する量の決め方」の組み合わせでモードが決まる
- 呼吸するタイミングの決め方は、A/C、CPAP、SIMVの3つ
- 呼吸する量の決め方は、VC、PC、PRVCを3つ
- 「病初期はA/C&PCから始めて、改善するか自発呼吸がでるかしたらCPAP&PCにする」というのが王道の使い方
- 同じ内容を表してても、メーカーや機種によって別の名前をつけられている
このあたりが分かれば、人工呼吸器のモードは理解できたも同然です。明日からの仕事にぜひ活かしてみてください!
何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。
というわけで、クイズを用意してみました。
>>人工呼吸器の基本的なモード(A/C、CPAP、SIMV)【クイズで学ぶ】
>>人工呼吸器の特殊なモード(BIPAP、APRV、PAV)【クイズで学ぶ】
ブログよりもっといいのはない?
- Instagramでも同じ内容を発信しています。こちらからご覧ください。
- 人工呼吸器を書籍で学びたい人は[人工呼吸器を学ぶのにオススメの本、6選【2021年版】]もご覧ください。
また、キャリアアップで最も大事なのは、働く環境だったりします。どんな症例が経験できるか、まわりの人間関係などで、力がつけられるかは大きく変わります。
より呼吸器が学べる職場を見つけたい人は、[看護師転職サイトのランキング【結論:大手3サイト+自分の事情に合わせて】]にまとめてみたので、ぜひ参考にしてみてください。
勉強会での準備が大変
勉強会の準備って、とにかく大変ですよね。準備自体が自分のためになるのは分かるけど、たいてい10時間以上かかったりするし。
- 元ネタのパワーポイントをnoteでダウンロードできます。[こちら]からご覧ください。