人工呼吸器の合併症は何がありますか?
合併症を起こさないような看護がしたい。
こういった疑問に答えていきます。
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
ちょっと人工呼吸器の管理をやっていると、思い通りに治療がすすまないことがよくあります。熱が出たり、せん妄を起こしたり、合併症にかなり悩まされて、自分も苦い経験をしたことがあります。
今回は、人工呼吸器でよく起こる合併症と予防の方法を解説します。
これを読めば、合併症を起こさない正しい行動がとれるようになります。
人工呼吸器の正しい合併症予防が自分でできるのを目標に記事をまとめました。病棟で困っている方はぜひ参考にしてみてください。
- 人工呼吸器による主な合併症
- 人工呼吸器関連肺炎(VAP:Ventilator-associated pneumonia)を予防する方法
- 喉頭浮腫を予防する方法
- ストレス潰瘍を予防する方法
- その他の合併症を予防する方法
- まとめ
Youtubeでガチ解説もしています。詳しくなりたい方はこちらもご覧ください!
人工呼吸器による主な合併症
人工呼吸器による合併症は、主なものでこれらがあります。
- 挿管・気切チューブによるもの:人工呼吸器関連肺炎(VAP)、咽頭喉頭浮腫
- 人工呼吸器設定に関するもの:気胸、皮下気腫、人工呼吸器関連肺障害(VALI)、血圧低下
- 臥床によるもの:褥瘡、廃用性症候群
- 精神的ストレスによるもの:せん妄、不眠、ストレス潰瘍
いっぱいあって大変。合併症を起こさないような看護がしたい。
それでは、重要なものを見ていきましょう
人工呼吸器関連肺炎(VAP:Ventilator-associated pneumonia)を予防する方法
VAPは、人工呼吸器を装着してから48時間以降に発生する肺炎です。だいたい1日で1%起こります。
人工呼吸器関連肺炎の治療
- 早期(early onset)VAP:気管挿管4日目以内。口腔・咽喉頭細菌叢が原因
- 晩期(late onset)VAP:グラム陰性桿菌やMRSAなどが原因
それぞれに合った抗生剤で治療します。早期ならスルバクタム/ピペラシリン、後期なたタゾバクタム・ピペラシリンなどです。
しかし、死亡率は30%とも言われていて、そもそも起こさないことが大事です。
どうやったら予防できる?
人工呼吸器関連肺炎の原因
予防する方法を学ぶ前に、原因を見ていきましょう。
原因は下の図の通り。
- 誤嚥:口腔内の唾液や分泌物、鼻腔の分泌物などが挿管チューブを伝わり流入
- 吸入:挿管チューブから直接吸い込む。吸入薬、人工呼吸器回路の汚染。バッグバルブマスクの汚染など。
なので、これらを防ぐのが大事です。
人工呼吸器関連肺炎の予防
予防する方法は、本当にたくさんあります。
全て見ていくのは大変なので、重要な予防策をひとまとめにするVAPバンドルが使われます。
バンドルとは「束」のこと。大事なものをまとめておいて、抜けがないようにしようということです。
例えば、集中治療医学会のVAPバンドルが以下となります。
- 手指衛生
- 人工呼吸器回路を頻回に交換しない
- 適切な鎮静・鎮痛。過鎮静を避ける。
- 人工呼吸器からの離脱ができるか毎日評価する
- 仰臥位はなるべく避ける
このほかにも、予防する方法として以下のものがあります。
- 呼吸器回路:定期的な交換は避け、汚染がある時のみ。ネブライザーは使用しない。
- 気管吸引:カテーテルは1回ごとに使い捨てにする。閉鎖式吸引システムを使用。
- 気管チューブ:カフ上吸引付きのチューブを使う
- 鎮静:日中に鎮静薬の中断を行ってみる
- 人工呼吸器の設定:最低でも4cmH2OのPEEPを適応
- 体位:30~45°の頭部挙上
- 口腔ケア:定期的に口腔ケアを行う
これら全て大事です。まずはバンドルからですが、これらの項目も行うようにしましょう。
喉頭浮腫を予防する方法
挿管チューブのカフなどで気管が圧迫されてできた浮腫です。
特に抜管された後に喉頭浮腫で窒息になるリスクがあります。
どんな患者に起こりやすい?
- 挿管期間が長い(48時間程度)
- 挿管チューブが太い(男性>8mm、女性>7mm)
- 女性
- 80歳以上
などがハイリスクです。
予防策
カフ圧の調整
常に20~30cmH2Oを目標にします。これは、気管支動脈が30cmH2Oだからです。
それ以上になると壊死や浮腫を起こしやすくなります。
カフリークテスト
カフをしぼませてリークがあるかを事前に試すものです。
- 質的評価:リークの音(声漏れ)があるか評価
- 量的評価:カフをしぼませた後の換気量の差を評価
量的評価では、カフをしぼませた前後の換気量の差を、カフリークボリュームとします。
カフリークボリュームが110以下などがカフリークテスト陽性(喉頭浮腫あり)とされます。
ただし、カフリークテスト陽性の場合は喉頭浮腫を予測できるけど、陰性でも喉頭浮腫の可能性を否定できないので要注意です。
ステロイド
抜管12~24時間前からメチルプレドニゾロン20mgを4時間ごとに点滴するという方法があります。
これらで、抜管後の窒息などを予防していきましょう。
喉頭浮腫の予防にはカフ圧の調整(20~30cmH2O)、カフリークテスト、プレドニン投与がある
ストレス潰瘍を予防する方法
重症の患者さんで胃の血流低下などにより起こる胃潰瘍です。
リスクの高い患者さんは?
このあたりがハイリスクの患者さんです。
- 凝固障害
- 48時間以上の人工呼吸器管理
- 1年以内の上部消化管潰瘍または出血
- Glascow Coma Scale(GCS)≦10
- 体表面積≧35%の熱傷
- 敗血症
- 高用量コルチコステロイド治療(ヒドロコルチゾン250mg/日相当量以上)
あてはまれば予防を検討します。
どんな予防を行う?
以前に言われていたより潰瘍のリスクが下がってきました。これは、経腸栄養をしっかり行うということが徹底されてきたため。
予防薬にも肺炎を起こすリスクがあり、今は全ての患者さんに行う必要はなくなってきています。
現在、ポイントになっているのは以下の点です。
- 経腸栄養を行うことでリスクは下げられる
- 予防薬の合併症で肺炎が増える
- 使用薬は、オメプラゾールなどのPPIが第一選択。代替薬としてレバミピドなどのヒスタミンブロッカーも選択肢。
- 始めた後でも必要なくなれば中止する。
患者さんごとによって、必要かどうかを検討していきましょう。
その他の合併症を予防する方法
その他にも、こういった合併症と予防方法があります
- 褥瘡:定期的な体位変換、栄養状態を良くするよう努める
- せん妄:環境の整備、日時がわかるよう時計をおく、テレビなどを置く、痛みや嘔気などの苦痛をできるだけ取り除く
- 気胸:圧をなるべくかけない(設定は人工呼吸器の設定を初心者に解説【2つの重要な考え方】で解説しています。)
まとめ
それでは、全体を振り返ります。
人工呼吸器関連肺炎(VAP)の予防バンドル
- 手指衛生
- 人工呼吸器回路を頻回に交換しない
- 適切な鎮静・鎮痛。過鎮静を避ける。
- 人工呼吸器からの離脱ができるか毎日評価する
- 仰臥位はなるべく避ける
喉頭浮腫の予防
- カフ圧の調整:20~30cmH2Oを目標
- カフリークテスト
- プレドニン
ストレス潰瘍の予防
- 経腸栄養を行うことでリスクは下げられる
- 予防薬の合併症で肺炎が増える
- 使用薬は、オメプラゾールなどのPPIが第一選択。代替薬としてレバミピドなどのヒスタミンブロッカーも選択肢。
このあたりが分かれば、人工呼吸器の合併症予防はかなり正しくできるようになります。明日からの仕事にぜひ活かしてみてください!
何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。
というわけで、クイズを用意してみました。
>>人工呼吸器の合併症を予防する方法【クイズで学ぶ】
ブログよりもっといいのはない?
- Instagramでも同じ内容を発信しています。こちらからご覧ください。
- 人工呼吸器を書籍で学びたい人は[人工呼吸器を学ぶのにオススメの本、6選【2021年版】]もご覧ください。
また、キャリアアップで最も大事なのは、働く環境だったりします。どんな症例が経験できるか、まわりの人間関係などで、力がつけられるかは大きく変わります。
より呼吸器が学べる職場を見つけたい人は、[看護師転職サイトのランキング【結論:大手3サイト+自分の事情に合わせて】]にまとめてみたので、ぜひ参考にしてみてください。
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