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急性肺塞栓症とは?症状、原因、治療を解説【ガイドラインをもとに紹介】

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2023年1月19日 (更新日:2023年1月19日)
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急性肺塞栓症の原因には何がある?

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急性肺塞栓症はどうやって診断したらいい?

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急性肺塞栓症の治療法は何?

こういった疑問にお答えします。

執筆者:ひつじ

  • 2009年 研修医
  • 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
  • 2017年 呼吸器内科専門医
  • 2022年 呼吸器内科指導医

急性肺塞栓症のガイドラインには、[肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン]があります。

この記事では、呼吸器内科12年目の筆者が、ガイドラインをベースに急性肺塞栓症を解説していきます!

医療従事者むけです。担当患者さんに当たった方は、ぜひ参考にしてみてください。

  1. 肺塞栓症とは?
  2. 肺塞栓症の原因、危険因子
  3. 肺塞栓症の症状
  4. 肺塞栓症の検査
  5. 肺塞栓症を診断する方法
  6. 肺塞栓症の重症度分類
  7. 肺塞栓症の治療
  8. まとめ

急性肺塞栓症とは?

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急性肺塞栓症ってどんな病気?

一言で言えば、肺の血管に血管が詰まって呼吸不全を引き起こす病気です。病名そのままですね。

90%は、下肢の血管でできた血栓が流れてきて詰まったものです。

肺塞栓症 看護

肺血栓塞栓症(PTE)と深部静脈血栓症(DVT)は一連の病態だったりします。なのでこれらをまとめて、静脈血栓塞栓症(VTE)と総称します。

深部静脈血栓症は別記事でも解説しています。興味ある方はご覧ください。

急性肺塞栓症の原因、危険因子

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どういうものが急性肺塞栓症のリスクになるの?

原因は大きくこの3つに分かれます!

  • 静脈の壁が傷ついた場合(血管内皮障害)
  • 静脈の流れがよどんでいる場合(血流停滞)
  • 血液が固まりやすい場合(凝固能亢進)

それぞれをさらに詳しく見ると、こんな原因が挙がります。

  • 血管内皮障害:手術、外傷、骨折、中心静脈カテーテル、血管炎、喫煙
  • 血流停滞:長期臥床 肥満 妊娠 下肢麻痺 加齢
  • 凝固能亢進:悪性腫瘍 妊娠 手術 熱傷 感染症 脱水 先天的な異常

急性肺塞栓症の症状

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どんな症状があるの?

症状が実は結構難しくて、いろんな症状が出てきます。例えば、こんな症状。

それぞれ、別に急性肺塞栓症じゃなくて別の病気でも出てくる症状じゃないですか?だから症状から急性肺塞栓症っていうのは難しいんですね。

あと、無症状のことも多いです。1/3くらいは無症状だったりします。かと思えば、重症例では失神、心肺停止になることもあるんです。

幅が広くて、そのクセに心肺停止になることもあるなんて、やっかいな病気ですよね。だから、常に疑いの眼を持つことが大事なんです。

常に疑いの目を持つって言っても、どんな患者さんで検査を行っていけばいいか分からないですよね。ここから診断の話をしていきます。

・急性肺塞栓症の原因は、①血管内皮障害(手術、外傷、骨折、中心静脈カテーテル、血管炎、喫煙)、②血流停滞(長期臥床 肥満 妊娠 下肢麻痺 加齢)、③凝固能亢進(悪性腫瘍 妊娠 手術 熱傷 感染症 脱水 先天的な異常)
・症状は呼吸困難や胸痛が多いが、別の病気でも出てくる症状なので、症状から急性肺塞栓症っていうのは難しい。
・無症状のことも多いが、重症例では失神、心肺停止になることもある。

急性肺塞栓症の検査

いろんな検査がありますが、診断に大事なのは血液検査でのDダイマーと造影CTです。他の検査も後で解説しますけど、重要度は劣ります。なのでまずはDダイマーと造影CTをしっかりと抑えましょう。

Dダイマー

深部静脈血栓症 診断

Dダイマーは血液検査の1項目です。増加していると、最近血栓ができたことが示唆されます。なので急性肺塞栓症を診断する補助として使えます。

Dダイマー自体は、内因性フィブリン溶解の副産物だったりするのですが、まぁそんな細かいことはおいておいて大丈夫です。

[肺塞栓症を診断する方法]のところで詳しく解説しますが、他の指標と組み合わせて急性肺塞栓症の診断に使われます。詳しく知りたい方は記事の後半までお待ちください!

造影CT

造影CTでは、詰まっている血管の中に血栓が見られます。実際に急性肺塞栓症でのCTをお見せします。

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引用:BMC Medical Imaging volume 19, Article number: 65 (2019)
引用:Journal of Nuclear Medicine September 2004, 45 (9) 1501-1508;

慣れないと小さくて見えにくいかもしれません。

造影CTで血栓が見られたら、急性肺塞栓症と確定できます。造影剤を使う分、当然アレルギーや腎障害のリスクもあります。なので通常は、Dダイマーなどから疑いをつけて検査を行います。

ここまでのDダイマーと造影CTが急性肺塞栓症では大事です。ここから先は、参考程度って感じの検査になってきます。

心電図

これらの所見が見られることがあります。ただ、出現する頻度は10%以下でかなり低いです。軽症では所見が出にくく、ある程度、塞栓が大きくて重症例だと出やすくなります。

  • 頻脈
  • SⅠQⅢTⅢ、
  • Ⅰ、aVL誘導の深いS波
  • Ⅱ、Ⅲ、aVfのR波増高
  • V1-3陰性T波
  • 右脚ブロック
  • V1のR波増高
引用:看護roo!

血液ガス

特徴的なのはこの辺りです。

  • PaO2の低下
  • PaCO2の低下
  • 呼吸性アルカローシス

PaO2の低下は分かりやすいですよね。二酸化炭素は一見すると上昇しそうなイメージかもしれません。ただ急性肺塞栓症は換気にはさほど影響せず、むしろ過換気になりやすかったりします。そのためPaCO2は低下しやすいし、呼吸性アルカローシスにもなりやすいです。

心エコー

これらの所見が参考になります。

  • 右心室の拡大
  • 心尖部の壁運動が保たれたまま右室の壁運動が低下

この2つを合わせてMcConnell徴候といったりします。

ただ、これも右心負荷がかかるくらいの重症度じゃないと当然見られないです。軽度なものでは心エコーでは分からないです。

それに、これらの所見が見られたからといって、確定診断には至らないです。確定するにはやはり造影CTが必要です。

レントゲン

特異的な所見はありません。

エコーと同じようなことを言いますが、軽度なものではレントゲンでは所見は出にくいです。

ある程度塞栓の範囲が広くて重症だと、右心負荷がかかります。すると心拡大や肺動脈中枢部の拡張がみられるようになります。

血管造影

もともとは血管造影は急性肺塞栓症の確定診断でした。ただ、CTの診断能が上がってきたため、血管造影が使われることは非常に少なくなってきています。

換気血流シンチグラフィー

換気血流シンチグラフィーは、換気があるけど血流がない肺の領域を検出できます。

肺塞栓症
引用:国立国際医療研究センター病院

ただ、血管造影と同じく、CTの精度が上がったため使われることはかなり減りました。
換気血流シンチグラフィーは造影剤を使わないため、造影剤アレルギーや腎機能が低下している患者さんで使われる有用性は残っています。

とはいうものの、換気血流シンチグ ラフィを緊急検査として施行できる病院がかなり少ないため、やっぱり使われる場面は少ないです。

急性肺塞栓症を診断する方法

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いろいろ症状や検査を見たけど、結局どうやって急性肺塞栓症って診断すればいいの?

どの症状も他の疾患でも見られるし、どうやって診断するか、急性肺塞栓症は結構難しいんです。

まず出発地点ですが、急性肺塞栓症を疑うことから始まります。例えばよく分からないけどSpO2が下がっているときに、急性肺塞栓症を疑えますか。鑑別診断としてしっかり思い浮かべることがまずは大事です。

どんな患者さんで急性肺塞栓症を疑いますでしょうか。これは、記事前半の[肺塞栓症の原因、危険因子]や[肺塞栓症の症状]での内容を参考にしてみてください。

ガイドラインでのアルゴリズム

疑うことを前提にした上で、ガイドラインではこんな感じで書かれています。

引用:肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン

まず、急性肺塞栓症は無症状の軽症も多いけど、重症では心肺停止もありうるというヤヤコシイ病気です。そこまでの超重症であれば、まず生命維持としてPCPSから行います。そこまで行かなくてもショックなどに陥っていた場合は、優先的に造影CTを考慮していいです。

重症でない場合はもう少しゆっくり考えましょう。まず、いろんな所見から急性肺塞栓症の可能性が高いかどうか判断します。可能性が高いかどうかを判断するのは、modified Wellsスコアというのがよく使われます。これはこの直後に紹介します。

もし急性肺塞栓症の可能性が高ければ造影CTも行いましょう。可能性が高くない場合、Dダイマーを参考にします。Dダイマーも上がっていた場合はやはり造影CTを考慮しましょう。

modified Wellsスコア

急性肺塞栓症の可能性を判断するのに使われるのが、modified Wellsスコアです。

<modified Wellsスコア>
・DVTの臨床症状がある 3点
・肺塞栓症が他の鑑別診断と比べて濃厚 3点
・心拍数>100 1.5点
・過去4週間以内の手術もしくは3日以上の長期臥床 1.5点
・DVTもしくは肺塞栓症の既往 1.5点
・喀血 1点
・悪性疾患 1点

4点以下で
 Dダイマーが陰性なら検査や治療は不要
 Dダイマーが陽性なら造影CT
4.5点以上なら造影CT

このように、症状とDダイマーで判断できます。かなり有名で便利なので、ぜひ使っていきましょう!

超重症であれば、まず生命維持としてPCPSから
そこまでいかなくてもショックなどに陥っていた場合は、優先的に造影CTを考慮。
重症でない場合、modified WellsスコアとDダイマーで可能性を判断し、確率が高ければ造影CT。

急性肺塞栓症の重症度分類

急性肺塞栓症の重症度分類を判断するのに、PESIスコアというのがあります。でもやや項目が多いので、簡易版PESIスコアもあります。こちらも参考にしてください。

<簡易版PESIスコア>
年齢>80歳 1点
癌の既往 1点
心肺疾患の既往 1点
心拍数≧110 1点
収縮期血圧<100 1点
SpO2 < 90% 1点

合計点:0点 → 低リスク
合計点:1点以上 → 高リスク

急性肺塞栓症の治療

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急性肺塞栓症って診断できたけど、治療はどうしたらいいの?

具体的にはこんなものがあります。

  • 抗凝固療法:ヘパリンやワーファリン。新たな血栓でできないように血をサラサラにする
  • 血栓溶解療法:モンテプラーゼ。実際にできた血栓をさらに溶かす
  • カテーテル治療、肺動脈血栓摘除術
  • 下大静脈フィルター:下肢の血栓が新たに肺に流れないように下大静脈にフィルターを入れる

では、これらをどうやって選んでいくのでしょうか。ガイドライン[肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン]に書かれているフローチャートがこちらです。

引用:肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン

ポイントをまとめるとこんな感じです

  • 循環動態が安定していたら抗凝固療法(まずはヘパリン)。ただし禁忌などでできない場合は下大静脈フィルターを考慮。
  • 循環動態が安定していなかったら血栓溶解療法(クリアクター®)。ただ血栓溶解療法は出血リスクをあげるため、リスクが高ければ抗凝固療法(ヘパリン)のみにするか、場合によってはカテーテル治療や外科的血栓摘除術。

では、それぞれ詳しく見て行きます。

抗凝固療法

血栓が少なかったり、血圧、呼吸状態が落ち着いている場合はヘパリンでの抗凝固療法をまずは行います。新たな血栓ができるのを防ぎます。

1週間程度を目安に、ワーファリンかDOACに変更していきます。

DOACは直接作用型経口抗凝固薬で、プラザキサ®、イグザレルト®、エリキュース®、リクシアナ®があります。ワーファリンは量の調節をするために定期的に採血が必要だったり、あと納豆とかの食品の影響を受けるんです。DOACはその辺りのデメリットがありません。ただ、腎機能が低下している患者さんで使いにくかったり、高価だったりします。

抗凝固薬は3カ月を目安に継続していきます。出血のリスクが低かったり、あと再発した急性肺塞栓症なら、より長めに投与してもいいかもしれません。イメージとしてはこんな感じ。

引用:肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン

血栓溶解療法

血管内の血栓が多くてショック状態だった場合は、詰まった血栓をなるべく早く溶かしたいです。そのため、組織プラスミノーゲン・アクチベーター(t-PA)という強力な血栓溶解薬を使用します。

日本で保険適応なのはモンテプラーゼ(クリアクター®)のみです。

ただ、出血を起こしやすくする副作用が強いです。なので出血の高リスクの患者さんでは禁忌です。実際の禁忌はこんなケースがあります。

・絶対禁忌:活動性の内部出血、最近の頭蓋内出血
・相対的禁忌:大規模手術、出産、10日内の消化管出血、15日以内の受賞出血、1カ月以内の脳外科的あるいは眼科的手術、コントロール不良の高血圧、血小板数<10万、PT<50%、妊娠

下大静脈フィルター

下肢の血栓が新たに肺に流れないように下大静脈にフィルターを入れます。こんなイメージです。

下大静脈フィルター留置術のイメージ図
引用:春日市民病院

仮に血栓が飛んでもフィルターで捕まえられて、肺に飛ばないようにするんですね。以前は永久留置型があったのですが、長期的にみると深部静脈をかえって増やしてしまうことが分かり、数週間程度で回収される一次留置型が使われます。

ヘパリン、ワーファリンやDOACなどの抗凝固療法に比べて、下大静脈フィルターは予後改善のエビデンスがありません。なので、抗凝固療法があくまで第一選択。禁忌などで困難な場合に考慮します。そして、肺塞栓症になりやすい中枢型で考慮します。中枢型は、膝窩動脈より上の部分のやつですね。

まとめ

では、本日の内容をまとめます。

  • 急性肺塞栓症の原因は、①血管内皮障害(手術、外傷、骨折、中心静脈カテーテル、血管炎、喫煙)、②血流停滞(長期臥床 肥満 妊娠 下肢麻痺 加齢)、③凝固能亢進(悪性腫瘍 妊娠 手術 熱傷 感染症 脱水 先天的な異常)
  • 症状は呼吸困難や胸痛が多いが、別の病気でも出てくる症状なので、症状から急性肺塞栓症っていうのは難しい。
  • 無症状のことも多いが、重症例では失神、心肺停止になることもある。
  • 超重症であれば、まず生命維持としてPCPSからはじめる。
  • modified WellsスコアとDダイマーで可能性を判断し、確率が高ければ造影CTで診断する。
  • 循環動態が安定していたら抗凝固療法(まずはヘパリン)。ただし禁忌などでできない場合は下大静脈フィルターを考慮する。
  • 循環動態が安定していなかったら血栓溶解療法(ウロキナーゼ)。ただ血栓溶解療法は出血リスクをあげるため、リスクが高ければ抗凝固療法(ヘパリン)のみにするか、場合によってはカテーテル治療や外科的血栓摘除術。

このあたりの内容が分かれば、急性肺塞栓症はバッチリです。ぜひ、明日からの仕事に活かしてみてください。

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何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。

というわけで、クイズを用意してみました。

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この記事は[肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン]を参考にして書きました。