睡眠時無呼吸症候群の検査結果はどうやって見る?
検査自体はどうやって実施する?
もし診断されたら、どんな治療があるの?
こんな疑問にお答えします
この記事の内容
- 睡眠時無呼吸症候群の検査について
- 睡眠時無呼吸症候群の診断基準
- 睡眠時無呼吸症候群の治療
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
睡眠時無呼吸症候群は、寝ている間に何度も息が止まったりして低酸素になる病気。
だから検査も無呼吸を測るんですけど、いろんな項目がありすぎて結果の見方が分かりにくかったりするんですね。
ここでは、検査結果の見方を説明します。
もし診断されたらどんな治療があるのかって部分も合わせて、網羅的に解説していきます。
普段、睡眠時無呼吸症候群に関わるって方はぜひ参考にしてみてください!
Youtubeでさらに詳しく解説しています。動画の方がいい方はこちらもご覧ください!
睡眠時無呼吸症候群での検査結果の見方
検査には簡易モニターとポリソムノグラフィがある
睡眠時無呼吸症候群は、その名の通り寝ている間に息が何度もとまり、低酸素による影響が出る病気です。だから、検査も寝ている間の無呼吸を測定します。
検査は、大きく2つに分かれます。
- 簡易モニター:自宅用の小さな器具をレンタルし、鼻での気流やSpO2を測定します。
- ポリソムノグラフィ:1泊2日の入院で行い、脳波、心電図、筋電図などもっと複合的に見ます。
簡易モニターの結果の見方
主な結果項目が以下の通り
- AHI(Apnea Hypopnea Index;無呼吸低呼吸指数):1時間の無呼吸、もしくは低呼吸の回数
無呼吸は10秒以上の気流の消失することを言います。低呼吸は、気流が半分以下になったり、SpO2が3~4%下がったり、覚醒反応が見られることを言います。
また、測定方法の微妙な違いから、AHIではなくRDI(呼吸障害指数)と呼ぶことも多いです。ただ、ここは大きくは気にしなくていいでしょう。
ただ、簡易モニターは得られる情報が少ないです。なので、簡易モニターで疑わしい結果になれば次のポリソムノグラフィをします。
ポリソムノグラフィの結果の見方
ポリソムノグラフィでも大事なのはAHIです。
- AHI(Apnea Hypopnea Index;無呼吸低呼吸指数):1時間の無呼吸と低呼吸を合わせた回数
そのほかの項目
大事なのは上の結果。ただ、他にもこんな項目があります。
- 覚醒反応指数(Arousal Index):睡眠時間内での覚醒回数
- 周期性四肢運動指数(PLMS index):1時間あたりの下肢の動き、15以下が正常
また、どれくらいの睡眠の深さにあるのかも脳波から分かります。REM睡眠→Stage1→Stage2→Stage3→Stage4になるにつれて睡眠は深くなります。
- REM睡眠:最も浅い。全体の20~25%
- nonREM睡眠
- 睡眠段階Stage1:2~5%
- 睡眠段階Stage2:45~55%
- 睡眠段階Stage3:3~8%
- 睡眠段階Stage4:10~15%
閉塞性と中枢性との区別
ポリソムノグラフィでは筋電図や脳波と組み合わせて、閉塞性と中枢性の区別をつけることができます。
簡単に言えば、閉塞性は喉元が狭くなって無呼吸になるもの。中枢性は脳からの呼吸の指令が上手く出なくて無呼吸になるものです。
詳しく知りたい方は[睡眠時無呼吸症候群の症状はいびきだけ?【もっと怖い合併症もあります】]もご覧ください。
2つの違いは、胸部や腹部の動き。閉塞性では喉が狭くなるので、胸やお腹は動こうとします。でも中枢性では、脳からの指令が来ないので胸やお腹の動きは見られなくなります。
これによって、睡眠時無呼吸症候群が閉塞性か中枢性なのか区別をつけることができます。
・最も大事なのはAHI(Apnea Hypopnea Index;無呼吸低呼吸指数)で、1時間の無呼吸と低呼吸を合わせた回数。
・ポリソムノグラフィでは閉塞性か中枢性かも分かる。
検査結果の見方は分かった。じゃあ、どれくらいからが異常なの?
では、診断基準と合わせて解説します。
睡眠時無呼吸症候群の診断基準
簡易モニターは得られる情報も少ないため、確定診断はポリソムノグラフィで行います。
で、基準がこの通り。
診断基準
ポリソムノグラフィでAHIが5以上で、かつ眠気やいびきの症状を伴うこと
いびきといった症状のみでは睡眠時無呼吸症候群と診断することはできません。客観的な検査が必要です。
また、症状がなくて無呼吸があるだけなら、睡眠呼吸障害というものになります。睡眠時無呼吸症候群ではありません。
そして、AHIの数値によって重症度が決まります。
- 軽症:5 ≦ AHI < 15
- 中等症:15 ≦ AHI < 30
- 重症:30 ≦ AHI
検査の流れ
まず睡眠時無呼吸症候群を疑う患者さんがいたら、簡易モニターから始めます。そして、AHIが5以上など疑わしい結果なら、ポリソムノグラフィを勧めます。
なお、後で出てきますけど、簡易モニターでAHIが40以上なら、それのみでCPAPの治療を行うことが出てきます。CPAPについては[睡眠時無呼吸症候群の治療方法]でも詳しく解説します。
睡眠時無呼吸症候群の診断基準は、AHIが5以上で眠気やいびきの症状を伴うこと。軽症は5 ≦ AHI < 15、中等症は15 ≦ AHI < 30、重症は30 ≦ AHI。
検査は実際どんな感じで行うの?
睡眠時無呼吸症候群の検査はどうやって行う
簡易モニターの行い方
簡易モニターは自宅で行います。検査器具も小型です。
寝ている間に、気流センサー(カニュラのような見た目)を鼻に着け、サチュレーションモニターを指につけます。外れないよう、テープで固定しておきます。
検査の間にモニターを患者さんに貸出します。
ポリソムノグラフィの行い方
ポリソムノグラフィでは1泊2日の入院です。検査内容などの説明の後、以下のモニターをつけます。
- 脳波
- 眼電図(眼球運動)
- 鼻・口の気流センサー
- いびきセンサー(喉の振動を覚知)
- 体位センサー(胸部のベルト)
- 心電図
- 胸腹部の呼吸運動センサー(胸部と腹部にベルトをつける)
- SpO2モニター
- 下肢筋電図
検査費用はどれくらい?
検査の費用のみなら以下となります。
- 簡易モニター:1割負担で約1000円、2割負担で2000、3割負担で3000
- ポリソムノグラフィ:1割負担で約9300円、2割負担で18600、3割負担で27900
もちろん、もろもろの費用でこれに少し上乗せされることにはなります。
治療方法を教えて
睡眠時無呼吸症候群の治療方法
治療法を列挙します。
治療のメインはCPAP、次に口腔内装置(マウスピース)って感じです。
あと、減量療法、体位療法も考慮されますが、なかなかうまくいかないのが現状。
手術として耳鼻咽喉科的手術、顎顔面形成術もありますがあまり行われません。
治療の流れ(全体像)
下の図をご覧ください。
CPAP
CPAPは(Continuous Postive Airway Pressure;経鼻的持続陽圧呼吸療法)と言います。
写真でみるとこんな感じ。
寝てる間に、一定の圧をくわえた空気を送り込み、上気道の閉塞を防ぐものです。
効果としては以下のとおり
- AHIの改善
- いびき、眠気といった症状の改善
- 高血圧、心筋梗塞、脳梗塞といった合併症の改善
後述する口腔内装置(マウスピース)などより効果があることも、エビデンスで証明されています。
保険適応は以下の通り
- ポリソムノグラフィでAHIが20以上
- 簡易モニターでAHIが40以上
費用は、3割負担で約4500円、1割負担で約1500円程度です。うまくできているか確認のため頻度を多めにしますが、安定してきたら2~3カ月に1回程度の通院でフォローしていきます。
また、寝ている間の装着感や乾燥などで継続できない方がいるのも事実です。その場合は、以下の対策などがあります。
- マスクの種類の交換(鼻を覆うタイプや、口と鼻を覆うタイプ)
- ランプタイムを伸ばす。ランプタイムとは、スイッチを入れてから圧をかけるまでの時間。つまり、眠ってから圧をかけてくれるようにする。
- 加湿の設定
エビデンスでも一番効果があることが分かっているので、保険適応であれば最初に行う治療です。
ただ、これらの対策を行ってもどうしても難しい場合、次の口腔内装置(マウスピース)を考慮します。
CPAPは睡眠時無呼吸症候群で最も効果のある治療。
・AHIの改善、いびきや眠気の改善、高血圧や心筋梗塞などの合併症の改善がある。
・保険適応はAHIが20以上。
口腔内装置(マウスピース)
寝てる間に口腔内装置(マウスピース)をつけて、下顎を前に固定するというものです。
まずは口腔外科を受診して、型取りをしてもらいます。完成したら装着します。
ポイントは以下のあたり
- CPAPに比べると効果は劣る(最近は同等という研究も出つつある)
- CPAPと違いAHIが20以下でも保険適応
- 費用:初期費用が3割負担で10000~15000円くらい
なので、口腔内装置は以下の場合に行います。
- AHIが20以上:CPAPの保険適応なので、まずCPAPから。継続できない場合に次の選択肢として行う。
- AHIが20未満:最初に考える治療
治療を始めてしばらくして、安定していたら簡易モニターを行って、効果を見ます。半年に1回の簡易モニターは保険適応になっています。
女性、若年、痩せ型、AHIが低めの時などに、口腔内装置は効きやすいです。
減量療法
閉塞性の場合に考慮します。無呼吸や症状を改善することも分かっています。
減量っていうことは食事療法や運動療法を行うことになるので、もし高血圧や糖尿病などを合併している人にはそちらの治療にもなるでしょう。
ただ、もちろん時間もかかるものだし、減量できるとも限らなりません。なのでCPAPや口腔内装置の方が、最初に考慮する治療です。
体位療法
仰臥位でなく、側臥位で眠るというものです。改善する可能性も示唆されています。
側臥位で寝るっていっても、寝返りで体位なんて変わりそうですよね?
有名なものでは、パジャマの背中にポケットをつくり、背中にテニスボールを入れるっていう方法がありました。あとは枕などを背中や腰に固定したり。
それ以外にも、強制的に側臥位をつくるようなチェストバンドやベルトの開発が進んでいるようです。
体位療法の効果は、CPAPや口腔内装置の方が実証されています。なので、これらが上手くいかなかったときの最終手段です。
耳鼻咽喉科的手術
口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(Uvulo-PalatoPharyngo-Plasty;UPPP)というものがあります。以下の図が分かりやすいです。
他には、以下のものが選択肢です。
- 慢性副鼻腔炎→鼻中隔矯正術。内視鏡やレーザーでも。
- 扁桃肥大→扁桃摘出術
- アデノイド→アデノイド切除術
QOLを一定の割合で改善させることが期待されています。
ただ、AHIは改善が見られないという報告も多いです。画一化しにくく、症例によって効果がでるかでないかが分かれてきます。CPAPや口腔内装置で効果が得づらく、扁桃が肥大していたり慢性副鼻腔炎の症例などでは考慮してもいいかもしれません。
顎顔面形成術
以下のような手術です。
- オトガイ舌筋前方移動術(GA)
- 上下顎前方移動術(MMA)
ただ、日本人に対する研究がなかったり、不確定要素もあったりします。上記の耳鼻咽喉科的手術同様、画一化しにくく症例は慎重に選ぶ必要があります。、また、考慮するのはCPAPや口腔内装置が継続できない患者さんです。
・AHIが20以上:まずCPAPから。継続できない場合、次に口腔内装置。無理なら体位療法や減量など。
・AHIが20未満:まず口腔内装置から。無理なら体位療法や減量など。
まとめ
では、内容をまとめます。
検査には簡易モニターとポリソムノグラフィがあります。
- 簡易モニター:自宅用の小さな器具をレンタルし、鼻での気流やSpO2を測定。
- ポリソムノグラフィ:1泊2日の入院で行い、脳波、心電図、筋電図などもっと複合的に見る。
最も大事なのは結果項目はAHI(Apnea Hypopnea Index;無呼吸低呼吸指数)で、1時間の無呼吸と低呼吸を合わせた回数です。ポリソムノグラフィでは閉塞性か中枢性かも分かります。
睡眠時無呼吸症候群の診断基準は以下の通りです。
- AHIが5以上で眠気やいびきの症状を伴うこと
- 簡易モニターでは診断はできず、ポリソムノグラフィが必要
重症度はこちらです。
- 軽症:5 ≦ AHI < 15
- 中等症:15 ≦ AHI < 30
- 重症:30 ≦ AHI。
治療の全体像はこちらです
- AHIが20以上:まずCPAPから。継続できない場合、次に口腔内装置。無理なら体位療法や減量など。
- AHIが20未満:まず口腔内装置から。無理なら体位療法や減量など。
特にCPAPは、睡眠時無呼吸症候群で最も効果のある治療です。AHIの改善、いびきや眠気の改善、高血圧や心筋梗塞などの合併症の改善といった効果があります。保険適応は、AHIが20以上です。
以上、参考になれば幸いです。普段、睡眠時無呼吸症候群の患者さんと関わることがある方は、明日から参考にしてみてください!
何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。
というわけで、クイズを用意してみました。
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オススメの本はない?
- 睡眠時無呼吸症候群を書籍で学びたい人は[睡眠時無呼吸症候群を学ぶのにオススメの本4選【2021年版】]もご覧ください。
この記事は[睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020]を参考にして書きました。