胸腔ドレーンの患者さんを担当するようになったけど、あのバッグが何がなんだか分からない。
よく聞く、呼吸性移動とエアリークって何のこと
結局、胸腔ドレーンの患者さんはどう管理すればいい?
こういった悩みを解説していきます。
この記事の内容
- ドレーンバッグの仕組み
- 呼吸性変動とエアリーク
- 胸腔ドレーンの観察項目
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
ドレーンバッグって見た目も複雑で分かりにくいですよね。そこが分からないから、患者さんの管理もどうしていいか分からないし。
でも、ドレーンバッグは「水封」と「吸引圧」が分かれば、実はグッと分かりやすくなります。なので、そこから解説します。
この記事を読めば、ドレーンバッグの仕組みが分かって、さらに患者管理のポイントも分かります。
病院勤務でドレーンバッグが分からなくて困っている人は、ぜひ参考にしてください!
- ドレーンバッグの仕組み【水封と吸引圧がポイント】
- ドレーンバッグの異変?【呼吸性移動とリーク】
- ドレーンバッグの異変?【排液】
- ドレーンバッグの異変?【感染徴候】
- 胸腔ドレナージの管理【患者/胸腔ドレナージの観察項目】
- ドレーンバッグの注意点
- 胸腔ドレーンの抜去
- まとめ
Youtubeでも解説しています。動画の方がいい方はこちらもご覧ください!
ドレーンバッグの仕組み【水封と吸引圧がポイント】
では、さっそくドレーンバッグを見ていきます。
キーワードは「水封」と「吸引圧」です。この言葉の意味をしっかり理解してください。
日本でよく見るドレーンバッグは、これです。
見た目も複雑で分かりにくいですね。
そこで、模式図にしてみました。3つの部屋があるのが分かります。
では、左側の部屋から順番に見ていきます。
排液ボトル
一番左側の部屋です。
ここは、排液をためるところです。
胸水、血胸や膿胸とかです。
水封室
真ん中の部屋で、青い色がついています。ここは水封室で別名をウォーターシールと言います。
シンク下の排水と同じ役割
ここを理解するのに、シンク下の排水を思い浮かべてください。
シンクの下にある曲がったホースが、実は水封室と同じ原理なんです。
これは、曲がった部分に水をためて、下水からの臭いが上がってくるのを防ぐものです。
水封室の役割
これと全く同じ働きをしているのが「水封室」です。
患者側への空気の逆流を防いでいるのです。
「水」で「封」をしているので「水封室」と言います。
英語で「水」は「ウォーター」、「封」は「シール」なので「ウォーターシール」となります。
注意点として、胸腔内は-15cmH2Oくらいの陰圧なので、ドレーンバッグを20cmは体の下に置いておかないと水が吸い込まれて行きます。
胸腔内は-15cmH2Oくらいの陰圧なので、ドレーンバッグを20cmは体の下に置いておかないと水が吸い込まれて行く
吸引圧制御ボトル
最後に、一番右の部屋です。
ここの役割は「吸入圧を一定に保つこと」です。
ここを模式的に表したのがこちらの図です。
例えば吸引圧をかけると、図のように液面が動くのが分かりますでしょうか?
ここで持ち上がった水の高さが、患者さんにかけている吸引圧になります。
この場合、この2つの液面の差です。
なお、泡が出ていないと、水面の高さの差が分からないので意味がないです。
泡が出ているかきちんと確認しましょう。
吸引圧制御ボトルの役割は「吸入圧を一定に保つこと」。
実物を見てみよう
もう一度実物を見てみましょう。
最初より、役割が分かりやすくなりましたでしょうか。
ここまでの話が分かれば、胸腔ドレーンの管理はグッとやりやすくなります。
分かりづらければ、戻って分かるまで読み直してみてください。
ドレーンバッグの仕組みはわかった。実際の管理はどのようにしたらいい?
実際の管理で大事になってくるのが、「呼吸性移動」「リーク」「排液」です。
そこを見ていきます。
ドレーンバッグの異変?【呼吸性移動とリーク】
真ん中の青いボトルである水封室で知っておくべきものが、呼吸性移動とリーク
- 呼吸性移動:呼吸に合わせて水封室の液面が上下に動く
- リーク:水封室に泡がでている
ここで胸腔とかの解剖がよくわからない人は、[胸腔穿刺の看護手順、必要物品ついて【10年目の呼吸器内科が解説】]を先に見てください。
少し難しいですけど、ここが分かれば後は分かりやすい内容になります。少しだけ頑張ってください。
呼吸性移動
息を吸うとき胸腔内は-15cmH2Oの圧になり、息を吐くときは-5cmH2O程度の圧になります。
患者さんが息を吸うと、水封室の液面も吸い上げられて上がります。患者さんが息を吐くと、吸い上げられる力が弱まるため、液面も下がります。
これが呼吸性移動です。
もしドレーンチューブの先が、肺にあたっているとか詰まっているとかであれば、この液面の変動はなくなります。
呼吸性移動がない場合は、いろんなケースが考えられます。よくあるのが次の状況。
- ドレーン留置直後:皮下に迷入、先端が胸膜に接触
- 気胸数日後:肺が拡張しドレーン圧迫(気胸が治癒)
- 膿胸、血胸:ドレーン閉塞
- そのほか:ドレーンの折れ曲がり
必ずしも悪い場合のみではなく、気胸が治癒したという良いことのサインでもあります。
リーク
リークは、つまりは胸腔内からドレーンバッグに空気が漏れている状態です。ドレーンを入れた直後は少しくらいリークは出ますが、ずっと出続ける場合は気胸を考えます。
呼吸性移動とエアリークの組み合わせは以下の通りです。
- 呼吸性移動(+)、エアリーク(-)
- 呼吸性移動(+)、エアリーク(+)
- 呼吸性移動(-)、エアリーク(-)
- 呼吸性移動(-)、エアリーク(+)
1つずつ見ていきます。
呼吸性移動(+)、エアリーク(-)
気胸などが存在せず、ドレーンの先端がちゃんと胸腔内にある状態です。
呼吸性移動(+)、エアリーク(+)
ドレーンをいれた直後は、通常みられる状態なので問題ありません。
ずっとこの状態が続くなら、気胸がずっと存在するということです。
呼吸性移動(-)、エアリーク(-)
良いケースと、良くないケースがあります。
良いケースとしては、気胸が治癒して肺が十分に広がった状態。
肺が広がったため、ドレーンの先が肺に当たった状態です。
レントゲンを撮影すれば分かります。
良くないケースとしては、ドレーン内が詰まるとか、どこかで折れ曲がっています。
ドレーンチューブを観察してみましょう。
呼吸性移動(-)、エアリーク(+)
通常は起こりません。
む、難しい・・
分かりますでしょうか。ドレーンバッグでも難しい内容なので、分かりにくければ繰り返し見てください。
呼吸性移動は、胸腔内の圧の変動がドレーンバッグに反映されている状態。
リークは、つまりは胸腔内からドレーンバッグに空気が漏れている状態。
ここから先は分かりやすくなってきます。
ドレーンバッグの異変?【排液】
血性
少量のみならドレーン留置に伴うもので問題ないです。
あまり大量ならドレーン留置の際の血管損傷を疑います。
膿胸の場合は、後半は淡血性になることもあります。
膿性
感染の合併を疑います。
排液が急に減った時
ドレーンの詰まり、曲がりなどを疑います。
ドレーンバッグの異変?【感染徴候】
以下の場合は感染の合併があるかもしれません。
- 排液が膿性になったとき
- ドレーン挿入部の発赤・腫脹
ドレーンを留置しているとき、患者・ドレーンの管理はどうしたらいい?
では、次はそれを見ていきます。
胸腔ドレナージの管理【患者/胸腔ドレナージの観察項目】
患者の観察項目
患者の観察項目としてはこれらがあります。
- バイタルサイン
- 呼吸状態:呼吸困難、呼吸音など
- 挿入部:腫れ、発赤、疼痛など
- 皮下気腫
- 検査データ:白血球、CRPなど
- 不眠や苦痛など
胸腔ドレーンに特徴的なのは皮下気腫です。
これは、胸腔内の空気が皮下に漏れ出したもの。
皮膚を触るとプチプチする感覚があります。雪を握った感覚に似ているので「握雪感」と言います。
マーキングして変化しないか確認しましょう。
時々かなり広範囲に出る方がいますが、命に別状をきたすものではありません。
チェストバンドなどで症状を緩和します。
胸腔ドレナージの観察項目
以下のものがあります。
- 呼吸性移動:水封室の液面が上下しているか
- リーク:水封室に泡がぶくぶく出ているか
- 吸引圧制御ボトル:吸引圧、少量の泡が出ているか
- ドレーンのねじれ・閉塞
- 正しい高さに設置されているか:ドレーンバックは身体よりも20㎝以上低くする
- ドレーンの接続が外れていないか
それぞれ分かりづらければ、[ドレーンバッグの異変?【呼吸性移動とリーク】]を復習してみてください。
胸腔ドレナージの管理
以下のものがあります。
- 胸腔ドレーンの注意点を患者に説明する:抜けないようにする、チューブを圧迫しないようにする
- 毎日、無菌操作で包帯を交換する
- 排液がいっぱいの時はドレーンバッグを交換する
- 閉塞している徴候があるときはミルキングを行う
ミルキングとは、チューブの中の血液や排液を、手で揉んだり専用のローラーで流してあげることです。
胸腔ドレーンの注意点
以下の点に注意しましょう。
- 移動の時などでチューブが抜けないようにする
- 抜けた時は、空気が胸腔に流れ込まないように抜けた部分を抑えて、助けを呼ぶ
いよいよドレーンを抜くって言われた!
では最後に、ドレーン抜去に関して解説します。
胸腔ドレーンの抜去
ドレーンを抜去する基準
疾患によって変わってきます。以下が目安です。
- 気胸:リークがない、レントゲンで肺が広がっている
- 胸水:排液量が200ml/日以下
- 膿胸:十分に排膿でき、排液も漿液性になってきた
抜去の手順
挿入する時に比べて抜去は簡単です。
- 固定していた糸を切断する
- 息を止めてもらう
- ドレーンチューブを抜去し、創部を縫合する
抜去後の観察項目
抜去後も状態に変わりがないか、観察しましょう。
- バイタルサイン
- 呼吸状態
- 創部の感染兆候や出血
まとめ
いかがでしょうか。難しいところもあったかと思うので、最後にまとめておきます。
- 水封室;患者側への空気の逆流を防いでいる。シンクの下にある曲がったホースと同じ原理。
- 吸引圧制御ボトルの役割:吸入圧を一定に保つこと。
- リーク:胸腔内からドレーンバッグに空気が漏れている状態
- 呼吸性移動:胸腔内の圧の変動がドレーンバッグに反映されている状態。
このあたりが分かれば、ドレーンバッグの対応はバッチリです。参考になった方は、明日からの仕事に活かしてみて下さい!
何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。
というわけで、クイズを用意してみました。
もっと気軽に見たい
もっと気軽に見られるよう、Instagramでも投稿しています。
- Instagramでの投稿はこちらからご覧ください。
もっと得意になりたい
さらに得意になりたい人は、書籍で学んだり、適切な働く環境に身を置くことが大事です。どんな症例が経験できるか、まわりの人間関係などで、力がつけられるかは大きく変わります。
- 呼吸器内科などを書籍で学びたい人は[呼吸器内科を学ぶのにオススメの本、9選【2021年版】]もご覧ください。
- より呼吸器が学べる職場を見つけたい人は、[看護師転職サイトのランキング【結論:大手3サイト+自分の事情に合わせて】]にまとめてみたので、ぜひ参考にしてみてください。
この記事は[Up To Date / Thoracostomy tubes and catheters: Management and removal]も参照して書きました。