非結核性抗酸菌症の治療薬ってどんなのだっけ?
非結核性抗酸菌症っていくつも種類があるし、あいまいな部分が多くてどうしたらいいか分からない
こういった疑問にお答えします。
この記事の内容
- 非結核性抗酸菌症の治療薬
- 肺マック症の場合
- 肺カンサシ症の場合
- 肺アブセッサス症の場合
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
非結核性抗酸菌症(NTM)って種類も多いし、結核と違って治療のタイミングとか決まっていないことも多いし、治療が難しいですよね。
今が治療のタイミングなんだろうかと、患者さんごとに悩みながら治療を行っています。
そんな中でも正しい知識は必要です。ここでは、治療方針を決めるのに必要な情報を、ガイドラインとともに解説します。
- 日本結核・非結核性抗酸菌症学会の2012年のガイドライン「肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解-2012年改訂」
- 米国のATS、IDSA、欧州のERS、ESCMIDから2020年のガイドライン「Treatment of Nontuberculous Mycobacterial Pulmonary Disease:An Official ATS/ERS/ESCMID/IDSA Clinical Practice Guideline」
非結核性抗酸菌症(NTM)の治療に悩むって方は、ぜひ参考にしてみてください!
あと記事の中では、非結核性抗酸菌症とすると長いのでNTMにしていきます。
- 【結論】非結核性抗酸菌症(NTM)の治療薬を列挙します
- 【重要】治療開始の時期【菌を見つけたらすぐ治療をする?】
- 非結核性抗酸菌症(NTM)の特徴をおさらい:胸部CT、診断基準
- 治療適応
- 治療期間
- 治療薬の副作用
- 手術を行う場合
- まとめ
【結論】非結核性抗酸菌症(NTM)の治療薬を列挙します
非結核性抗酸菌症にもいろいろある【肺マック症、肺カンサシ症、肺アブセッサス症】
NTMもいろいろ種類があります。メジャーなのはこのあたり。
- 肺マック症(肺M. avium complex(MAC)症):87.9%
- 肺カンサシ症(肺M. kansasii症):1.8%
- 肺アブセッサス症(肺M. abscessus症):5.1%
この3つだけで95%程度になるので、まずはここを抑えるのがいいでしょう。
あと、肺マック症(肺M. avium complex(MAC)症)はMycobacterium aviumとM. intracellulareに分かれます。アルファベットが多くて分かりにくいですね。それぞれ、アビウムとイントラセルラーレです。
ただ、臨床的には大きく違いがないので、肺マック症と通常まとめています。
治療薬は何?
まず、もったいぶらずに治療薬を列挙します。
肺マック症(肺M. avium complex(MAC)症)
経験的治療
60kgの場合での経験的治療がこちらです。
- リファンピシン(150mg)4カプセル分1 食前空腹時
- エブトール™(250mg)3錠分1
- クラリス™(250mg)4錠分2
あと、治療前に細菌検査をしておいて、菌の薬剤感受性に基づいて治療をするのが大事です(欧米のガイドラインより)。
最初は経験的な治療で始めて、その後感受性に基づいて変更するのもいいでしょう。
ポイント
そして、大事なポイントがこれら。
- このうちキーになるのが、クラリスロマイシン。
- 最低3剤の薬剤で治療を行う
- 欧米のガイドラインでは、クラリスロマイシンよりアジスロマイシン(ジスロマック™250mg1日1回)の方が推奨されている
それぞれめちゃくちゃ大事なので、しっかり理解しておいてください。
あと、胸部CTで空洞があると菌がそこに多く存在して、タチが悪くなります。そのため、空洞があるかないかで治療にも影響してきます。
欧米のガイドライン
これらを踏まえて、欧米のガイドラインではこうなっています。
なお、アミカシンは日本では保険適応外です。
肺カンサシ症(肺M. kansasii症)
肺カンサシ症は、肺MAC症にくらべて比較的予後がいいやつです。
経験的治療
60kgの場合での経験的治療がこちらです。
- リファンピシン(150mg)4カプセル分1 食直前空腹時
- エブトール™(250mg)3錠分1
- イスコチン™(100mg)3錠分1
イスコチンは末梢神経障害の予防のため、ピドキサールの内服も行います。
ポイントがこれら。
- キーになるのが、リファンピシン。
- リファンピシンに耐性がある場合は、フルオロキノロンなどセカンドラインの治療を行う(欧米のガイドライン)
- 最低3種類の薬剤を使用する
欧米のガイドラインではこうなっています 。
肺アブセッサス症(肺M. abscessus症)
一方、アブセッサスは他の2つに比べて予後が悪いです。
で、ここがややこしいのですが、アブセッサスの中に亜種がいくつかあり。
- M. abscessus subspecies abscessus(アブセッサス):予後悪い
- M. abscessus subspecies bolletii(ボレティ):予後中間
- M. abscessus subspecies massiliense(マシリエンセ):予後いい
予後が変わるので、治療前には確認しておきましょう。
経験的治療
60kgの場合がこちらです。
- チエナム™(0.5~1g)6~8時間おき
- アミカシン(400mg)24時間おき
- クラリス™(250mg)4錠分2 またはジスロマック™(250mg) 2錠分1
この中でキーになるのはチエナム™です。
ただ、点滴6時間おきを何カ月も日本の病院で行うのは、現実的に無理です。
そのため、最初1~3カ月程度は入院で上記を行います。そして、クラリスロマイシンに、グレービット™(50mg)2~4錠分1やファロム™(200mg)3錠分3を併用します。
欧米のガイドライン
アブセッサスは、マクロライドかアミカシンの薬剤感受性に基づいて治療をする方が大事です(欧米のガイドラインより)。
それも踏まえて、治療のレジメンはガイドラインではこうなっています。
治療薬は
・肺マック症:リファンピシン、エブトール™、クラリス
・肺カンサシ症:リファンピシン、エブトール™、イスコチン™
・肺アブセッサス症:チエナム™、アミカシン、クラリス™またはジスロマック™
・治療前に細菌検査を行い、薬剤感受性を確認しておく
NTMで診断された患者さんがいるから、さっそく治療を始めます!
ちょっと待ってください!治療を始めるタイミングが結構悩ましいんです。
【重要】治療開始の時期【菌を見つけたらすぐ治療をする?】
ここが、実際の臨床ではめちゃくちゃ重要です。
もともと進行が年単位で、何なら進行しないまま何年も経つってことが多い病気です。また、治療薬にも副作用がやや多めです。
そんな病気で、例えば80歳を超えるような高齢者に全例行うかと言えば、決してそうではありません。
中には、すぐ始めた方がいいっていうケースもあります。そういったケースを頭におきつつ、目の前の患者さんのリスクとベネフィットを考えて、治療を決めるわけです。
目の前の患者さんのリスクとベネフィットを考えて、治療を行うか決める
じゃあ、どんな患者さんに治療をすべきか教えて。
次から解説します。
非結核性抗酸菌症(NTM)の特徴をおさらい:胸部CT、診断基準
基礎知識だけ簡単におさらいしておきます。治療だけ見たいって人は読み飛ばしてください。
- よくある症状:咳嗽、血痰、発熱、体重減少、倦怠感食欲不振、体重減少、全身倦怠感など。結核とこのあたりは同じ。
- 感染源:土や水場など、自然環境に広く存在。誰でも肺に吸い込んでいる。ただし感染する人はわずか。
- 人から人にはうつらない!
- 肺マック症は中年女性が多く、肺カンサシ症は喫煙男性が多い
- 進行はとてもゆっくりで年単位になる。逆に言えば、治療も年単位。
胸部CTの所見
レントゲンやCTでは、いろんな所見が見られます。
また、画像所見が治療を行うかどうかを判断するのに大事になります。
線維空洞型(結核類似型)
いわゆる、空洞です。
後で出てきますが、このタイプは早めに治療をした方がいいです。
結節・気管支拡張型(中葉・舌区型)
肺マック症の9割がこちらです。
診断基準
大事なのは細菌検査。菌を検出することです。
抗酸菌なので、塗抹はチールネルゼン染色です。
もし塗抹で陽性になったら、PCRを確認します。結核のPCRが陰性で、MACなどのPCRが陽性になれば、診断できます。
日本結核病学会・日本呼吸器学会から2008年に出た診断基準があります。
臨床的基準(以下の2項目を満たす)
出典:非結核性抗酸菌症診療マニュアル:日本結核病学会
1.胸部画像所見(HRCTを含む)で,結節性陰影,小結節性陰影や分枝状陰影の散布,均等性陰影,空洞性陰影,気管支または細気管支拡張所見のいずれか(複数可)を示す。但し,先行肺疾患による陰影が既にある場合は,この限りではない。
2.他の疾患を除外できる。
細菌学的基準(菌種の区別なく,以下いずれか1項目を満たす)
1.2回以上の異なった喀痰検体での培養陽性。
2.1回以上の気管支洗浄液での培養陽性。
3.経気管支肺生検または肺生検組織の場合は,抗酸菌症に合致する組織学的所見と同時に組織,または気管支洗浄液,または喀痰での1回以上の培養陽性。
4.稀な菌種や環境から高頻度に分離される菌種の場合は,検体種類を問わず2回以上の培養陽性と菌種同定検査を原則とし,専門家の見解を必要とする。
以上のA,Bを満たす。
MAC抗体は診断に便利
また、採血で行えるMAC抗体は特異度が93%。つまり、MAC抗体が陽性なら93%の確率で肺マック症と言えるわけです。
診断基準ではないですが、実質肺マック症として言っていいです。
ただ、治療を行うには、薬剤の感受性が分かっておきたいところです。
MAC抗体が陽性だったとして、治療を始めずに経過を見れそうならいいです。ただ、治療を始めた方がいいなら、痰でも気管支鏡でも細菌検査は行うべきです。
どんな場合に治療を行うのか、適応を教えて
治療適応
治療をすべきなのは以下のケース。
- 線維空洞型
- 結節・気管支拡張型の中で
- 血痰・喀血がある
- 塗抹での排菌量が多く気管支拡張病変が高度
- 病変の範囲が片側肺の1/3を超える
逆に、経過観察していいのが以下のケース
- 結節・気管支拡張型で、
- 病変が片側肺の1/3以内
- 気管支拡張病変が軽度
- 自覚症状がほとんどない
- 喀痰塗抹陰性
- 75歳以上の高齢者
2020年の欧米のガイドラインでは、塗抹陽性や空洞では治療開始を推奨されるということが明記されていました。今まで以上に、治療は行った方がいいっていうことではあるのでしょう。
また、年齢が若い、自覚症状が強いなどがあれば、より治療を行おうって方針になります。
ただ、やはり目の前の患者さんにどう当てはめるかっていうのが大事です。その中でも、治療すべきケースをこぼさずにしておくようにしましょう。
経過観察する場合は、数か月おきにレントゲン、CTを評価していきます。
治療期間
2020年の欧米のガイドラインでは、「細菌培養が陰性になってから最低12か月」が推奨されています。
なので、外来で定期的に喀痰検査を行っていく必要があります。
あと、最低12か月ってあるけど、どこまで続けるかはやはり個々のケースによります。
また、菌の陰性化のみで単純に言えないことも多いです。患者さんの年齢や症状や画像所見の改善なども考慮に入れながら決めるってのが実情です。
診断で大事なのは細菌検査。菌を検出すること。もし塗抹で陽性になったら、PCRを確認。結核のPCRが陰性で、MACなどのPCRが陽性になれば、診断できる。治療期間は長く、菌が陰性化してから12か月など
実際に治療を始めた後に注意すべきことは何?
治療薬の副作用
頻度が高いのは皮疹、肝障害です。
それぞれの代表的な副作用をまとめておきます。
- リファンピシン:肝障害、嘔気などの消化器症状、皮疹、白血球減少、血小板減少、体液が赤色になる
- イソニアジド:肝障害、皮疹、末梢神経障害
- エタンブトール:視力障害
イソニアジドを内服している場合は、副作用の予防のためにビタミンB6製剤であるピドキサールを内服します。
また、エタンブトールがかなり長期間内服するので、視力障害が出ていないか、視力検査や眼科受診などを定期的に行いましょう。
副作用に関しては[結核の治療薬と副作用【保健所への届け出や退院基準も合わせて解説】]で詳しく解説しています。詳しく知りたい方はこちらもご覧ください!
他の治療法は何かある?
手術が選択肢に挙がる場合もあります。
手術を行う場合
範囲が狭く年齢が若い場合には手術も考慮します。
手術のポイントは以下のものです。
- 治療の目標は病状のコントロールで、根治的治癒ではない。
- 術前後の薬物療法は必須。術前は3~6か月。
- 大きな空洞みたいに、大量の排菌源となる粗大病変を摘除することで、一時的にでも外科治療が有用な場合ある。
- 外科治療
- 単独の結節の外科摘除例では、術後の薬物療法のエビデンスが不十分
参考:「肺非結核性抗酸菌症に対する外科治療の指針/日本結核病学会」
適応
ガイドラインをまとめるとこちらになります。
- 排菌源の主病巣が明らかで、
- 薬物療法で排菌が停止しない
- 画像が悪化傾向
- 排菌が停止しても、空洞や気管支拡張が残る
- 喀血,繰り返す気道感染
- 70歳まで
- 他の結節や粒状影は必ずしも切除の対象としなくていい
参考:「肺非結核性抗酸菌症に対する外科治療の指針/日本結核病学会」
まとめ
それでは、内容を振り返ります。
NTMで代表的なのは以下の種類
- 肺マック症(肺M. avium complex(MAC)症):87.9%
- 肺カンサシ症(肺M. kansasii症):1.8%、比較的予後がよい
- 肺アブセッサス症(肺M. abscessus症):5.1%、比較的予後が悪い
肺マック症の初期の治療は以下のもの
- リファンピシン(150mg)4カプセル分1 食前空腹時
- エブトール™(250mg)3錠分1
- クラリス™(250mg)4錠分2
肺カンサシ症の初期の治療は以下のもの
- リファンピシン(150mg)4カプセル分1 食直前空腹時
- エブトール™(250mg)3錠分1
- イスコチン™(100mg)3錠分1
肺アブセッサス症の初期の治療は以下のもの
- チエナム™(0.5~1g)6~8時間おき
- アミカシン(400mg)24時間おき
- クラリス™(250mg)4錠分2 またはジスロマック™(250mg) 2錠分1
診断で大事なのは細菌検査。菌を検出することです。もし塗抹で陽性になったら、PCRを確認。結核のPCRが陰性で、MACなどのPCRが陽性になれば、診断できます。
ただ、菌が検出される=則治療ではありません。目の前の患者さんのリスクとベネフィットを考えて、治療を行うか決めます。
治療期間は長くなります。菌が陰性化してから12か月などです。
何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。
というわけで、クイズを用意してみました。
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