結核の治療薬と副作用【保健所への届け出や退院基準も解説】 | コキュトレ
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結核の治療薬と副作用【保健所への届け出や退院基準も解説】

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2022年2月16日 (更新日:2022年2月21日)
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結核の治療薬での副作用が覚えられない

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よくある治療法がうまくいかなかったけど、次はどうしたらいいだろう

こういった疑問に答えます。

この記事の内容

  • 結核の治療薬と副作用
  • 届け出が必要な書類
  • 入退院の基準

執筆者:ひつじ

  • 2009年 研修医
  • 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
  • 2017年 呼吸器内科専門医

この記事を読めば、結核治療に必要な知識が一通り理解できます。

  1. 結核の治療薬
  2. それぞれの治療薬の副作用
  3. 届出が必要な書類
  4. 入院期間の決め方
  5. 治療費について
  6. DOTS
  7. まとめ

結核の治療薬

結核とは 症状 治療 結核菌 感染経路 致死率 検査

薬剤耐性菌を作らないよう、複数の薬を、薬を最低半年、長ければ2年くらいのみ続けます。以下がその内容です。

標準療法

結核の標準治療はこちらです。容量は、体重60kgの場合です。

  • 最初2カ月の初期強化療法
    • イスコチン™(100mg)3錠分1 食後
    • リファンピシン(150mg)4カプセル分1 食前空腹時
    • エブトール™(250mg)3錠分1 食後
    • ピラマイド™1.5g分1 食後
  • 後半4カ月の維持療法
    • イスコチン™(100mg)3錠分1 食後
    • リファンピシン(150mg)4カプセル分1
  • イスコチン™を内服している間は、ビタミンB6である「ピドキサール(10mg)2錠分2 食後」も内服

痛風、妊婦、ADL不良の高齢者などでピラマイド™が使用できない場合

こちらが頻用されます。容量は体重60kgの場合です。

  • 最初2カ月の初期強化療法
    • イスコチン™(100mg)3錠分1 食後
    • リファンピシン(150mg)4カプセル分1 食前空腹時
    • エブトール™(250mg)3錠分1 食後
  • 後半7カ月の維持療法
    • イスコチン™(100mg)3錠分1 食後
    • リファンピシン(150mg)4カプセル分1
  • イスコチン™を内服している間は、ビタミンB6である「ピドキサール(10mg)2錠分2 食後」も内服

最も大事なこと:正しく飲む!

結核とは 症状 治療 結核菌 感染経路 致死率 検査

とにかく、容量用法を守ることが大事!

間を空けたりすると、それだけ耐性菌が出やすくなります。そして、耐性菌は本当に治すのが大変です。

正しく飲むため、医療従事者の目の前で飲んでもらいます。このあたりは記事後半の[DOTS]でも解説しますね。

こんな場面どうする?:腎機能障害、肝障害、内服できない、重症、治療が中断された

腎機能低下

エブトール™、ピラマイド™は週3回に減量します。

肝障害

ピラジナミド™は用いない、イソジアニド™は慎重投与です。

内服ができない

できるだけ胃管を留置してそこから投与します。どうしても難しい場合は、以下の点滴による治療も可能ではあります。

  • イスコチン™(300mg)1日1回点滴
  • ストレプトマイシン(750mg)1日1回筋注
  • クラビット™(500mg)1日1回点滴

重症

例えば、粟粒結核、中枢神経の結核、大きな空洞があるなどが、重症な場合とします。

この場合、維持療法を3カ月延長します。

また、以下の場合でも同様に維持療法を3カ月延長します。

  • 初期強化治療を終えても培養陽性
  • 再治療
  • 免疫低下(HIV感染、糖尿病、ステロイド内服中など)

治療が中断された

何らかの原因で治療が中断された場合、最初からやり直しです。具体的には、初期強化治療は14日以上、維持療法は3カ月以上中断されていた場合です。

治療終了後、どれくらい観察するか

再発が2~3%くらいはあります。そのため、治療が終わった後も、2年程度は再発がないか、レントゲンやCTでフォローした方がいいです。

結核の治療薬のまとめ

選択肢になりうる他の薬も合わせて、一覧表にまとめました。標準量の単位はmg/kg/day、最大量の単位はmg/body/daです。

薬剤名略称標準量 最大量
リファンピシンRFP10600
イソニアジドINH5300
ピラジナミドPZA251500
エタンブトールEB15
(25)
750
(1000)
リファンブチンRFB5300
ストレプトマイシンSM15750
(1000)
カナマイシンKM15750
(1000)
エチオナミドTH10600
エンビオマイシンEVM201000
パラアミノサリチル酸PAS20012g/day
サイクロセリンCS10500
レボフロキサシンLVFX500500

・結核の標準治療は、2カ月イスコチン+リファンピシン+エブトール™+ピラマイド™→4カ月イスコチン™+リファンピシン
・痛風、妊婦、ADL不良の高齢者などでピラマイド™が使用できない場合は、2カ月イスコチン+リファンピシン+エブトール™→7カ月イスコチン™+リファンピシン
・イスコチン™を内服している間は、ビタミンB6であるピドキサールも内服
・とにかく、容量用法を守ることが大事!

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副作用では何を気を付けたらいい?

そこも治療では大事ですよね。次から解説します。

それぞれの治療薬の副作用

結核とは 症状 治療 結核菌 感染経路 致死率 検査

リファンピシン

代表的な副作用:肝障害、嘔気などの消化器症状、皮疹、白血球減少、血小板減少、体液が赤色になる

肝障害は、記事の後半でも解説します。

汗や唾液や尿が赤色になります。体に害はないですが、話していないとびっくりされるので予め声をかけておく方がいいです。高価な服などを着る機会があるなら、下にシャツを厚めに着るなど対策した方がいいでしょう。

他の薬との相互作用

リファンピシンは相互作用が多い薬です。

例えば、これらがあります。

<リファンピシンによって効果が弱まる薬>
・肺高血圧薬:タダラフィル、マシテンタン
・抗血小板剤:チカグレロル
・アトバコン
・ステロイド
・ワーファリン
・オピオイド
・抗真菌薬
・HIV治療薬
・C型肝炎治療薬
・血糖降下薬
・抗うつ薬
・抗精神病薬
・β遮断薬
・Ca拮抗薬
・抗不整脈薬

<リファンピシンによって効果が強まる薬>
・ピタバスタチン
・ペマフィブラート

内服を開始する前に、個々の薬について確認しておきましょう。

イソニアジド(イスコチン™)

代表的な副作用:肝障害、皮疹、末梢神経障害

頻度が高いのは肝障害と皮疹。これは記事後半で解説します。

イソニアジドは体内のビタミンB6を不足させて、手足の痺れなどを起こす可能性があります。投与量に影響を受けて、3-5mg/kg/日の投与なら2%に起きます。

予防薬として、ビタミンB6のピドキサールを内服します。

エタンブトール(エブトール™)

代表的な副作用:視力障害

投与量に影響を受けますが、普段日本で内服する量ならあまり問題にはなりません。

あと、飲んですぐよりは、数か月などしばらくしてからおこる副作用です。それくらいの時期に差し掛かると、定期的に視力検査を行ってもよいでしょう。

もし起こっても、初期なら中止することによって回復できます。一度起これば再度内服はしません。

ピラジナミド(ピラマイド™)

代表的な副作用:尿酸値の上昇、肝障害

尿酸値の上昇はかなり起こります。ただ痛風を起こす可能性が著しく上がるってわけでもないので、無症状ならそのまま継続します。治療が終われば、元に戻ります。

副作用が多くて大変!実際にはどう対応するの?

副作用の対策

いくつかポイントを挙げます。

  • 治療を始める前に、痛風、肝炎、緑内障、糖尿病のしびれなどがないか聞く
  • 痛風、妊婦、ADL不良の高齢者ではピラジナミドは使用しない
  • 当初は1~2週間ごとに採血を行い、肝機能を確認する

アレルギーなどで使用しにくい場合は、減感作療法が行えます。

肝障害が出たとき

ASTやALTが正常の5倍になったら、一度休薬して正常になるまで待ちます。

肝障害は、リファンピシン、イスコチン、ピラジナミドでよく起こります。そのため、どれで起こったのか、原因ははっきりしません。

その中で、可能性など考えながら1つずつ始めていきます。絶対的なスケジュールはありません。ポイントは以下の点です。

  • リファンピシン、イソニアジドはキーになる薬なので、どちらかは必ず試す
  • 1~2週ごとに採血して、大丈夫なら他の薬も始める
  • ALPやビリルビンが上がっている胆汁うっ滞型ではリファンピシンが原因のことが多く、ASTやALTが上がっている肝細胞障害型ではイソニアジドが原因のことが多い
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減感作療法って何?

皮疹の対応:減感作療法

皮疹もどれでも起こしうる副作用です。

軽度なものなら、抗ヒスタミン薬やステロイド外用薬を使いながら続けることが多いです。

しかし、あまりにも酷ければいったん中断します。再開する時は、以下のようなことをします。

  • まず、エブトールやピラジナミドをストレプトマイシンやレボフロキサシンなどに置き換える
  • その後、キーになるイソニアジドとリファンピシンを減感作療法で徐々に再開していく

減感作療法

イソニアジド、リファンピシンを体に慣らすよう、少量から始めます。

具体的には以下の通りです。

<減感作療法>
・イソニアジド、リファンピシンとも 、3日おきに25 mg→50 mg→100 mg→200mg→300 mg→450 mg と、目標の容量になるまで増やしていく。
・アレルギーが出た場合は中止する。

・頻度が高いのは皮疹、肝障害
・リファンピシン、イソニアジドはキーになる薬なので、どちらかは必ず試す。
・リファンピシンの代表的な副作用:肝障害、嘔気などの消化器症状、皮疹、白血球減少、血小板減少、体液が赤色になる
・イソニアジド(イスコチン™)の代表的な副作用:肝障害、皮疹、末梢神経障害
・エタンブトール(エブトール™)の代表的な副作用:視力障害
・ピラジナミド(ピラマイド™)の代表的な副作用:尿酸値の上昇、肝障害

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治療以外で必要なことは何?

結核は、保健所への届け出が必要です。次にまとめます。

届出が必要な書類:発生届、公費負担、入退院届

結核とは 症状 治療 結核菌 感染経路 致死率 検査

結核は2類感染症。診断したら直ちに保健所への届け出が必要です。病院勤務の方は、医事課などの事務に依頼できるでしょう。

具体的には下の書類です。リンクも合わせておきます。

念のため、それぞれの自治体のホームページも確認しておいてください。

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入院期間はいつまで?

入院期間の決め方

いつまで隔離が必要か

つまりは、他の人にうつす心配がほぼなくなった場合です。

厚生労働省の基準では、以下が退院基準になっています。

  • 咳、発熱、結核菌を含む痰等の症状が消失したこと
  • 異なった日の喀痰の培養検査の結果が連続して3回陰性(3連痰)

ただ、培養となると時間がかかります。なので以下の基準もあります。

  • 2週間以上の標準的化学療法が実施され、咳、発熱、痰等の臨床症状が消失
  • 2週間以上の標準的化学療法を実施され、異なった日の喀痰の塗抹が連続して3回陰性
  • 患者が退院後の治療の継続及び他者への感染の防止が可能であると確認

つまり、2週間は治療を行い、3連痰の塗抹が陰性になり、外来でも可能な場合ですね。

出典:[感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律における結核患者の入退院及び就業制限の取扱いについて/厚生労働省]

なお、2007年結核予防会の統計では、入院平均は4ヶ月程度です。

治療費について

結核とは 症状 治療 結核菌 感染経路 致死率 検査

結核には感染症法の公費負担制度があります。

  • 一般医療費(感染症法第37条の2):結核に関わる医療費(主に治療薬、X線検査、細菌検査)の95%が公費で負担され、残りの5%が自己負担。入院費や結核以外の医療費は対象外。
  • 勧告入院患者医療費(感染症法第37条):入院での医療費。原則として自己負担はなし。ただし、所得によって自己負担額が発生する場合あり。

DOTS

結核の治療失敗の最大の原因は、途中で治療を中断することです。日本でも5~6%の患者さんが自己中断しています。

それを防ぐため、薬を内服するのを医療者や保健師に見届けてもらいます。これを直接服薬確認療法(directly observed treatment short-course)、通称DOTS (ドッツ)と言います。

入院中では医療従事者の目の前で内服してもらいます。

外来では、保健師の訪問で行ったり、外来で行ったり、薬の包装を持ってきてもらって確認したりします。

・結核は2類感染症で、直ちに保健所への届け出が必要です。具体的には結核発生届、公費負担申請書、結核患者(入院・退院)届出
・退院が可能になる目安:2週間は治療を行い、3連痰の塗抹が陰性になり、外来でも可能な場合
・公費負担制度があるため、積極的に利用する。
・飲み忘れをなくすことがとにかく大事。薬を内服するのを医療者や保健師に見届けてもらう。これを通称DOTS (ドッツ)と言う

まとめ

どれでは、本日の内容を振り返ります。

結核の治療のポイントは以下の点。

  • 結核の標準治療は、2カ月イスコチン+リファンピシン+エブトール™+ピラマイド™→4カ月イスコチン™+リファンピシン
  • 痛風、妊婦、ADL不良の高齢者などでピラマイド™が使用できない場合は、2カ月イスコチン+リファンピシン+エブトール™→7カ月イスコチン™+リファンピシン
  • イスコチン™を内服している間は、ビタミンB6であるピドキサールも内服
  • とにかく、容量用法を守ることが大事!

副作用でのポイントは以下の点。

  • 頻度が高いのは皮疹、肝障害
  • リファンピシン、イソニアジドはキーになる薬なので、どちらかは必ず試す。
  • リファンピシンの代表的な副作用:肝障害、嘔気などの消化器症状、皮疹、白血球減少、血小板減少、体液が赤色になる
  • イソニアジド(イスコチン™)の代表的な副作用:肝障害、皮疹、末梢神経障害
  • エタンブトール(エブトール™)の代表的な副作用:視力障害
  • ピラジナミド(ピラマイド™)の代表的な副作用:尿酸値の上昇、肝障害

手続き、入院期間などでのポイントはこちら。

  • 結核は2類感染症で、直ちに保健所への届け出が必要です。具体的には結核発生届、公費負担申請書、結核患者(入院・退院)届出
  • 退院が可能になる目安:2週間は治療を行い、3連痰の塗抹が陰性になり、外来でも可能な場合
  • 公費負担制度があるため、積極的に利用する。
  • 飲み忘れをなくすことがとにかく大事。薬を内服するのを医療者や保健師に見届けてもらう。これを通称DOTS (ドッツ)と言う

以上、参考になれば幸いです。

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何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。

というわけで、クイズを用意してみました。

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この記事は[結核診療ガイド/日本結核病学会]を参考にして書きました。