間質性肺炎の治療が分からない
よく聞く、IPF、NSIP、COPとかがイマイチ分からない
うまくスマートに治療ができるようになりたい
こういった疑問にお答えします。
この記事の内容
- 特発性間質性肺炎の治療
- IPF、NSIP、COPの違い
- 急性増悪のときの治療
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
間質性肺炎って、IPF、NSIP、COPとか略語が多くて分かりにくいですよね。
自分も最初はいまいちイメージがつきませんでした。
ただ、かみ砕いてそれぞれのイメージが理解できれば、間質性肺炎の治療、生命予後がスッと入ってきます。
ここでは、間質性肺炎を地震に例えて解説していきます。
普段、間質性肺炎の患者さんと関わるって人は、ぜひ参考にしてみてください。
- 特発性間質性肺炎の治療【結論:種類によって変わってくる】
- 特発性間質性肺炎の種類をおさらい
- COP(器質化肺炎)の慢性期治療
- NSIP(非特異性間質性肺炎)の慢性期治療
- IPF(特発性肺線維症)の慢性期治療
- 急性増悪のときの治療
- 特発性間質性肺炎の生命予後
- まとめ
Youtubeでさらに詳しく解説しています。動画の方がいい方はこちらもご覧ください!
特発性間質性肺炎の治療【結論:種類によって変わってくる】
結論です。一言でいうと「種類によって変わってくる」です。
大した説明になってないですね。もう少しだけ詳しくいうと、下の表のようになります。
IPF | NSIP | COP | |
慢性期 | 抗線維化剤 経過観察 在宅酸素療法 | ステロイド 免疫抑制剤 経過観察 在宅酸素療法 | ステロイド 経過観察 在宅酸素療法 |
急性増悪 | ステロイド、場合によって免疫抑制剤や抗菌薬を併用 | ステロイド、場合によって免疫抑制剤や抗菌薬を併用 | ステロイド、場合によって免疫抑制剤や抗菌薬を併用 |
これだけではいろいろ分かりにくいと思います。「IPFとかNSIPとか、よくわからない英語つかわないでよ~」ってなりますよね。
大丈夫です。ここから解説していきます!
特発性間質性肺炎の種類をおさらい
IPFとか、NSIPとか、いったい何のこと?
特発性間質性肺炎は、いくつかの種類に分かれます。
英語の略称が多くて申し訳ないけど、IPF、NSIP、COP、AIP、DIP、RB-ILD、LIPとかがあります。
7つもあると覚えられないですね。でも、大事なのはIPF、NSIP、COPの3つ。
詳しくは別記事[間質性肺炎を診断する方法【悲報:実はめちゃ難易度たかいです】※医療者むけ]で解説しています。ここでは、大事な3つの本質だけ軽く説明します。
間質性肺炎を地震に例えてみた
地震で津波に襲われた家屋を想像してみてください。この3パターンがあったとします。
- 浸水:治りやすい
- 半壊:何とか直せられる
- 全壊:元には戻らない
これが間質性肺炎に似ています。
- 浸水(治りやすい):COP(器質化肺炎)
- 半壊(何とか直せられる):NSIP(非特異性間質性肺炎)
- 全壊(元には戻らない):IPF(特発性肺線維症)
一つひとつの家を肺胞とします。
家の中に水やどろが入ったのみなら、掻き出せば元に戻ります。これがCOP(器質化肺炎)みたいな状態。
壁にまでダメージはおよんでるけどが、一部欠けたのみならまだ補修可能です。これがNSIP(非特異性間質性肺炎)みたいな状態。
全部つぶれてぺしゃんこになってしまったら、建て替えでもしない限りその家は元には戻りません。これがIPF(特発性肺線維症)みたいな状態です。
こんな疾患のイメージでいいと思います。
じゃあ、それぞれの治療の説明をお願い致します。
分かりました、次から解説していきます!
COP(器質化肺炎)の慢性期治療
COPは、家の中に水やどろが入ったのみっていう状態。掻き出せば元に戻ります。他のに比べると一番治りやすいです。
治療はステロイドです。容量は絶対的なものはありませんが、経験的に以下のスケジュールが多いです。
プレドニゾロン0.5~1.0mg/kg/日で開始。
その後、漸減していく。
漸減のペースも、絶対的なものはありません。ただ、以下のポイントはある程度の共通認識です。
- 最初は早めに漸減し、20mgなどの中等量になると減量ペースを落とす
- 早めならプレドニゾロンを1週間に10mgなどで、ゆっくりだと2週間で2.5mgずつなど
- 完全にoffにすると再燃することが時々あり、長期的に少量内服が必要なケースがある
また、自然軽快もあり得ます。ステロイドも副作用は多いし、胸部CTでの陰影や症状がかなり軽度であれば、いったん無加療で経過観察するという選択肢もあります。
NSIP(非特異性間質性肺炎)の慢性期治療
NSIPはどんな治療?
NSIPは、壁にまでダメージはおよんでるけどが、一部欠けたのみならまだ補修可能みたいな状態です。COPより治りにくいけど、あとで出てくるIPFに比べるとましです。
ただ、壁のダメージの程度で、治りやすさは変わります。NSIPと分類されているけどダメージの大きいものは治りにくいし、ダメージの軽いものは治りやすいです。
少し難しくなりますが、肺で言うとcellular NSIPとfibrotic NSIPと分かれます。
cellularは「細胞の」てfibroticは「線維化された」って意味。線維化されたということは、それだけ正常な肺胞の細胞が別のものにおきかわっているという状態。治りにくく予後も悪くなります。
治療はステロイドが基本。副作用で継続が難しかったり、効果が不十分だったりする場合は免疫抑制剤を併用したり、免疫抑制剤のみにしたりします。
ステロイド
ステロイドのレジメン自体はCOPと変わりません。もう一度載せておきます。
- プレドニゾロン0.5~1.0mg/kg/日で開始。
- その後、漸減していく。
- 最初は早めに漸減し、20mgなどの中等量になると減量ペースを落とす
- 早めならプレドニゾロンを1週間に10mgなどで、ゆっくりだと2週間で2.5mgずつなど
- 完全にoffにすると再燃することが時々あり、長期的に少量内服が必要なケースがある
COPと違い自然軽快はあまりないです。しかしステロイドの長期投与による副作用も考えて、軽症で症状もなければ、経過観察することもいい選択肢です。数か月ごとにレントゲンやCTを確認し、進行がなければそのまま無加療で見ていきます。
免疫抑制剤
以下のものがあります。
- シクロフォスファミド(エンドキサン™)
- アザチオプリン(イムラン™)
- シクロスポリン(ネオーラル™)
内服方法、副作用は以下の通り。
シクロフォスファミド(エンドキサン™):50mg/dayから開始、7-14日ごとに25mgずつ増。最大150mg/day。副作用は易感染性、出血性膀胱炎、二次性発癌など。
アザチオプリン(イムラン™):1-3mg/kg/day、最大容量は150mg/body/day。副作用は嘔気、下痢などの胃腸障害、骨髄抑制。
シクロスポリン(ネオーラル™):3.0mg/kg/dayを1日2回にわけて内服。副作用は腎機能障害、高血圧、歯肉肥厚、頭痛、振戦。
なお、シクロホスファミドにはパルス療法があります。500mg/m^2で4週毎で開始し、750mg/m^2まで段階的に増量します。出血性膀胱炎の予防でウロミテキサン併用することもあります。
その他の注意点は以下の通りです。
- シクロスポリンはTDM(薬物血中濃度モニタリング)も必要
IPF(特発性肺線維症)の慢性期治療
IPFはどんな治療?
IPFは全部つぶれてぺしゃんこになってしまった状態で、基本的に元にはもどりません。COPやNSIPとくらべても予後不良です。
ステロイドはもう効きません。むしろ副作用のリスクがあり、投与はすべきでないです。
抗線維化剤
治療としては抗線維化剤があります。具体的には以下の薬剤。
- ピルフェニドン(ピレスパ™)
- ニンテダニブ(オフェブ™)
内服方法と副作用は以下の通り
ピルフェニドン(ピレスパ™):初期容量200mg×3/日から開始。2週間を目安に1回200mgずつ増量し、1回600mgで維持。副作用は光線過敏症、食欲低下、嘔気、肝機能障害、白血球減少。
ニンテダニブ(オフェブ™):150mgを1日2回。患者の状態次第で100mgを1日2回。副作用は肝機能障害、嘔吐、下痢。
それぞれ製薬会社の公式情報を見るのが分かりやすいでしょう。
ただ、完全に治す薬というよりは、進行を遅らせるというイメージ。治療をしていても徐々には進行します。
また、かなり高額です。例えば、オフェブ150mgは1カプセル6676円(2021年5月)。1日2回を30日なら20万円。これが3割負担なら6万円、1割負担で2万円。ピレスパも同じようなものです。
効果、副作用、経済負担をきちんと説明してから、開始するか患者と相談すべきでしょう。
急性増悪のときの治療
急性増悪のときの治療は?
これはステロイドです。追加で免疫抑制剤を併用することもあります。
ステロイド
慢性期と同様、絶対的なものはありません。ただ、慢性期の時よりは増量します。
以下のレジメンが一例です。
・かなり酸素化が悪い:ステロイドパルス(メチルプレドニゾロン1,000mgを3日間点滴。反応をみながら2~4回繰り返すこともある。
・酸素1~3L程度でそこまで悪くない:中等量(プレドニゾロン1mg/kgなど)
その後漸減していきます。漸減のペースもやはり決まっていません。ポイントは上で解説した通りです。
免疫抑制剤
これはNSIPの慢性期治療のところで解説した通りです。[NSIP(非特異性間質性肺炎)の慢性期治療]をご覧ください。
特発性間質性肺炎の生命予後
実際に治療はやっているけど、生命予後はどれくらい?
これも、種類によって大きく変わります。
一番タチの悪いIPFは予後不良で、診断後の平均生存期間は2.5~5年と報告されています。とくに急性増悪を起こすと平均2ヶ月以内とされていて予後不良です。
NSIPとCOPは比較的予後が良好ですが、もちろんNSIPの方がよくなく慢性的な付き合いになります。
ただしCOPは一度よくなっても再発が多いという特徴もあります。以前の陰影と全く別のところに陰影が出てくることがあります。
まとめ
では、内容を振り返ります。
間質性肺炎の治療は、種類によって変わってきました。
- COP(器質化肺炎):治りやすい
- NSIP(非特異性間質性肺炎):何とか治療はできる
- IPF(特発性肺線維症):もとには戻せない
それぞれの治療は下の表のようになります。
IPF | NSIP | COP | |
慢性期 | 抗線維化剤 経過観察 在宅酸素療法 | ステロイド 免疫抑制剤 経過観察 在宅酸素療法 | ステロイド 経過観察 在宅酸素療法 |
急性増悪 | ステロイド、場合によって免疫抑制剤や抗菌薬を併用 | ステロイド、場合によって免疫抑制剤や抗菌薬を併用 | ステロイド、場合によって免疫抑制剤や抗菌薬を併用 |
ステロイドは以下のレジメン
- プレドニゾロン0.5~1.0mg/kg/日で開始。
- その後、漸減していく。
- 最初は早めに漸減し、20mgなどの中等量になると減量ペースを落とす
- 早めならプレドニゾロンを1週間に10mgなどで、ゆっくりだと2週間で2.5mgずつなど
- 完全にoffにすると再燃することが時々あり、長期的に少量内服が必要なケースがある
急性増悪でかなり状態が悪い時はステロイドパルスも考えます。
- ステロイドパルス:メチルプレドニゾロン1,000mgを3日間点滴。反応をみながら2~4回繰り返すこともある
このあたりが分かれば、間質性肺炎の治療はバッチリです。参考になった方は、明日からの仕事に活かしてみて下さい!
何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。
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