胸水ドレーンの留置は本で読んだけど、うまくできなかった。何かコツがあるの?
こういった疑問を解説します。
この記事の内容
- 胸腔ドレナージの手技
- 胸腔ドレナージの穿刺部位
- 胸腔ドレナージの合併症、適応、禁忌
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
胸腔ドレーンの留置は何回かやらないと慣れないですよね。
自分も研修医のころはうまくできませんでした。でも、何十回もやると、本では書いていないようなコツがあるのに気づきます。
ここでは上手くできるように、手順だけじゃなくコツや、合併症や禁忌など周辺の情報も解説していきます。
胸腔ドレーンの留置を時々しかやらない人は、ぜひ参考にしてください!
胸腔ドレナージの手技を詳しく解説【本では書いてないコツ付き】
動画でみるのがイメージしやすいと思います。こちらをご覧ください。
では、解説していきます。
準備物品
まずは準備物品がこちらです。
- 清潔:滅菌手袋、消毒液、穴あき滅菌ドレープ、滅菌ガウン、キャップ
- 局所麻酔:キシロカイン、23Gの針、10mlの注射器
- ドレーン留置の関連:トロッカーカテーテル(トロッカーアスピレーションキット)、メス、鑷子、ペアン、コッヘル、布鉗子
- その他:マーカーペン、固定用の針・糸、滅菌ガーゼ
姿勢
いよいよ、実践に移ります。
胸腔ドレーンは臥位で行います。邪魔になりそうなら腕をあげてもらいます。
大量胸水の場合は、仰臥位なら胸水があふれ出る可能性があるため、患側を上にしましょう。
モニター
SpO2、HRくらいはモニターしましょう。
消毒
消毒し、穴あきドレープをかけます。
皮下の局所麻酔
痛覚があるのが皮膚と胸膜なので、この2か所を麻酔します。
まずは皮膚から。
23Gなどの細い針で、膨疹ができるようにキシロカインを注入します。あとで縫合する時の範囲も含めて麻酔しておきましょう。
先に麻酔をしてからその間に他の物品を準備すると、麻酔が効いてきたころに本穿刺に移れます。
胸膜の局所麻酔
局所麻酔のシリンジを垂直に刺し、陰圧をかけながらゆっくり壁側胸膜まで進めます。
肺を刺さないよう、少しずつ進めてください。
胸腔内に到達したら、胸水の場合は水を、気胸の場合はエアーを確認できます。
そうしたら、シリンジ全体をやや引いて、針の先端が胸腔内にいかないような状態で胸膜を麻酔します。
なお、胸水が返ってきたときの針の長さを確認すれば、次の剥離の深さの目安になります。
仮穿刺で胸水が返ってきたときの針の長さを確認すれば、次の剥離の深さの目安になる
皮膚切開
皮膚切開を行います。肋骨上縁に沿って2cmくらいです。
肋骨下縁は血管や神経があるので、かならず上縁です。
肋骨下縁は血管や神経があるので、ここは切り開かない
剥離
ペアンで剥離していきます
この時に大事なのが、仮穿刺と同じ場所・角度です。むしろ、胸腔ドレーン留置でもっとも大事といっても過言ではありません。
骨に当たらない限りは角度は変えません。
慣れないとなかなか胸腔に到達しませんが、ここで角度を変えると皮下気腫のもとになります。
仮穿刺を信じて、一カ所集中でいきましょう。
仮穿刺と同じ場所・角度で剥離をしていく。
また、ペアンの先端が胸腔内に少し入ったくらいでは、胸膜の穴が小さすぎて後でドレーンが入りません。
ある程度ペアンで胸膜の穴を広げておきましょう。
ペアンの先端が胸腔内に少し入ったくらいでは、胸膜の穴が小さすぎて後でドレーンが入らない。
ドレーンを留置
胸腔内まで到達したら、ドレーンを留置します。
内筒の先端は尖っています。外筒の先から内筒が出ないように注意しましょう。
気胸の場合は腹側、胸水の場合は背側を狙っていれます。
内筒の先端は尖っているため、外筒の先から内筒が出ないようにする
胸腔内に入ったか確認
時々、胸腔ではなく皮下に入るケースがあります。そのため胸腔内にちゃんと入っていることを確認します。
胸水の場合は水が返ってくるから分かりやすいです。
気胸の場合は以下の方法で確認します。
- ドレーン内が曇る(Fogging)
- ドレーンから空気の出る音がする
ドレーンバッグと接続
接続部をイソジンなどで消毒しておきましょう。
縫合固定
皮膚と縫合固定します。ドレーンの両脇をそれぞれ縫合し、ドレーンに巻き付けます。
テープを貼る
テープ固定はいろんな方法があります。施設で決まっていたらその方法にしましょう。
テープ固定の方法は絶対的なものはないですが、コツとしてはこれらです。
- 刺入部をガーゼとテープで固定
- ずれないよう強めに、刺入部から離れた場所をもう1箇所固定
- タイガンで結合部固定
レントゲンで位置を確認
最後にレントゲンで位置を確認します。
2方向からとって、腹側か背側か見るのが理想的です。
排液は一度に1Lまで
廃液の量は一度に1Lまでにしましょう。これは、再膨張性肺水腫を予防するためです。
廃液の量は一度に1Lまで。
流れは分かった。他に気を付けるポイントはある?
では、気を付けるポイントとして、ドレーン留置する部位を見ていきます。
胸腔ドレナージの部位の決め方
部位の決め方にはいくつか決め方があります。
胸水・膿胸の場合の決め方
CTで見たあと、エコーで確認します。
胸水の場合は直前にエコーで黒く見えるのを確認します。安全にドレーン留置するため胸水の量は30mm程度は欲しいところです。
気胸の場合の決め方
状態が落ち着いている場合
胸部CTで先に確認してから行う方がいいでしょう。エコーという方法もありますが、慣れていないと難しいです。
意見はあるかもしれませんが、落ち着いていたら胸部CTをとるのが望ましいと私は考えます。
緊急事態(緊張性気胸など)
胸部CTを取りに行く時間もない場合は、ドレーンではなく第2肋間鎖骨中線上をサーフロー針などで急いで穿刺します。
胸水:CTとエコーで確認
気胸:状態が落ち着いていればCTで確認。緊急なら第2肋間鎖骨中線上
肋骨上縁
肋骨の下縁には動脈やら神経があるので、
それを避けて上縁を刺します。
肋骨下縁は刺さない
胸腔ドレナージで知っておくべき点【合併症、適応、禁忌】
合併症にはどんなものがある?
合併症、適応、禁忌も知っておくといいでしょう。
これは、胸腔穿刺と共通します。詳しくは胸腔穿刺について書いた[胸腔穿刺の手技、部位、注意点ついて【10年目の呼吸器内科が解説】]にまとめてあります。こちらも参考にしてみてください。
まとめ
では、内容を振り返ります。
- 適応:診断としては原因不明の胸水、治療としては気胸、胸水、膿胸、血胸
- ドレーン留置部位の決め方:胸水はCTとエコーで確認、気胸では状態が落ち着いていればCTで確認し、緊急なら第2肋間鎖骨中線上
- 肋骨下縁は刺さない
- 合併症:気胸、血胸、再膨張性肺水腫、肝脾損傷、感染
- 禁忌:絶対的な禁忌はないが、相対的禁忌として胸腔ドレーン留置をためらう場面は、出血性疾患または抗凝固状態、胸水が非常に少ない、激しい咳嗽、姿勢が取れない
このあたりが分かれば、胸腔ドレナージの手技はバッチリです。参考になった方は、明日からの仕事に活かしてみて下さい!
何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。
というわけで、クイズを用意してみました。
もっと気軽に見たい
もっと気軽に見られるよう、Instagramでも投稿しています。
- Instagramでの投稿はこちらからご覧ください。
もっと得意になりたい
さらに得意になりたい人は、書籍で学んだり、適切な働く環境に身を置くことが大事です。どんな症例が経験できるか、まわりの人間関係などで、力がつけられるかは大きく変わります。
- 呼吸器内科などを書籍で学びたい人は[呼吸器内科を学ぶのにオススメの本、9選【2021年版】]もご覧ください。
- より呼吸器が学べる職場を見つけたい人は、[看護師転職サイトのランキング【結論:大手3サイト+自分の事情に合わせて】]にまとめてみたので、ぜひ参考にしてみてください。
この記事は[Up To Date / Thoracostomy tubes and catheters: Placement techniques and complications]も参照して書きました。