血液ガスの基準値を調べたい
血液ガスの読み方が分からない
数字の種類が多すぎて頭に入らない
こういった疑問を解説します。
この記事の内容
- 血液ガスの基準値
- 結果の読み方
- 酸塩基平衡について
- ガス交換について
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
血液ガスをあまり読んだことのないまま3年目になってしまいました
こんな人も多いと思います。数字が並んで苦手意識も生まれやすいですよね。
ただ、血液ガスを意識して読む機会がなかっただけで、何回か練習すれば大抵はきっとできるようになります。
この記事では読み方を最初に解説します。後でシミュレーションも用意しています。実際に読んでみて、このブログの中で血液ガスを読めるようになってしまいましょう。
- 血液ガスの基準値の一覧
- 結果の読み方:5ステップで読む酸塩基平衡(pH、アシドーシス、アルカローシスなど)
- 結果の読み方:ガス交換(PaO2、PaCO2など)
- 血液ガスの裏技:Caの単位の変換の方法、静脈ガスから考える方法
- まとめ
Youtubeでも解説しています。動画の方がいい方はこちらもご覧ください!
血液ガスの基準値の一覧
では、早速一覧にしてお見せします。
- PO2:80~100 Torr(mmHg)
- PCO2:35~45 Torr(mmHg)
- pH:7.35~7.45
- HCO3:23~28 mEq/L(mmol/L)
- SaO2:94~99 %
- BE:‒2.2~+1.2 mEq/L(mmol/L)
- Na:1.36~145 mEq/L
- K:3.4~4.5 mEq/L
- Cl:98~107 mEq/L
- Ca:1.15~1.27 mmol/L
- Glu:70~100 mg/mL
- Lac:<1.3 mmol/L
- Hb:11.7~17.4 g/dL
- Hct:35~51 %
これらの数値を全部正確に覚える必要はありません。施設によっても基準値は多少違います。なので、このあたりはだいたいでいいです。
覚えるなら、簡略化した下の表の方がいいでしょう。
項目 | 数値 |
PaO2 | 100 |
PaCO2 | 40 |
pH | 7.40 |
HCO3 | 24 |
この表で覚えておいて、あとは多少の幅があるくらいに思っておけばいいでしょう。
数字が多くて訳わからない。読み方を教えて。
では、結果の読み方を解説していきます。
血液ガスは大きく分けて、酸塩基平衡とガス交換に分けられます。
酸塩基平衡は、いわゆるpHとかアシドーシスの話です。腎臓内科に大きくかかわるところですね。
ガス交換は、酸素とか二酸化炭素とかです。呼吸器内科に大きくかかわるところですね。
まずは酸塩基平衡から解説します。
結果の読み方:5ステップで読む酸塩基平衡(pH、アシドーシス、アルカローシスなど)
ここでは分かりやすいよう、5つのステップに分けます。
全部が難しければ、ステップ3までに絞ってください。コメディカルの新人なら、むしろそれで十分ですので!
1つずつ見ていきます。
ステップ1:アシドーシスかアルカローシスを判断(pH)
ここは、pHをみます。
- 7.35未満:アシドーシス
- 7.45以上:アルカローシス
ちなみに、7.34、7.45という基準値は、施設によっても微妙に違います。状況や患者に応じて臨機応変に多少変えてもいいです。
ちなみに、pHはどんなものか覚えていますか。
中学などで習ったのですが、酸性、アルカリ性っていうやつです。例えば、レモン汁とかなら酸っぱくて酸性、石鹸水とかなら苦くてアルカリ性だったりします。
アシドーシス、アルカローシスは、つまり体が酸性に傾ているか、アルカリ性に傾ているかを見ているってわけです。
7.35未満:アシドーシス
7.45以上:アルカローシス
ステップ2:呼吸性か代謝性を判断(PaCO2とHCO3)
ステップ1で見た、アシドーシスやアルカローシスがどんな原因でおこっているのかを大まかに推測するのが、このステップです。
ここは、これだけ覚えましょう。
PaCO2とHCO3が、pHと同じ方向に動いていたら代謝性、違う方向に動いていたら呼吸性
もう少し詳しく見るとこうなります。
pH | PaCO2 | HCO3 | |
呼吸性アシドーシス | ↓ | ↑ | ↑ |
代謝性アシドーシス | ↓ | ↓ | ↓ |
呼吸性アルカローシス | ↑ | ↓ | ↓ |
代謝性アルカローシス | ↑ | ↑ | ↑ |
呼吸性の2つは、PaCO2やHCO3がpHと違う向きなのが分かりますか。そして、代謝性の2つは、PaCO2やHCO3がpHと同じ向きですね。
ちなみに、基準値は[血液ガスの基準値の一覧]で見たとおりです。もう一度挙げておくとこうです。
項目 | 数値 |
PaO2 | 100 |
PaCO2 | 40 |
pH | 7.40 |
HCO3 | 24 |
どうやってこの変化が起きるの?
ここは、覚えなくても大丈夫。興味がなければ、ステップ3に飛ばしてください。
まとめると、次の図の通りです。
ベースエクセス(略してBE)
代謝性かを見るのに、ベースエクセスというのも使います。
- 正常値:0±2mEq/l
- マイナスになると代謝性アシドーシス、プラスになると代謝性アルカローシス
ただ、最近はPaCO2とHCO3で判断することが多くてベースエクセスは使われなくなってきています。あまり覚えなくてもいいでしょう。
ちなみに、ベースエクセスの説明は、「37℃、PaCO2=40mmHgの状態の血液で、正常なpH(pH7.40)へ戻すために必要な酸の量」だそうです。
はい、難しいですね。なので、PaCO2とHCO3で判断していいです。
PaCO2とHCO3が、pHと同じ方向に動いていたら代謝性、違う方向に動いていたら呼吸性
ステップ3:原因を考える
ここで、アシドーシスやアルカローシスがなんで起こったのかを考えます。
これは、状況や他の検査結果も合わせて考えなければなりません。いろんな情報の総合戦です。
では、鑑別としてどのようなものが上がるのでしょうか。
鑑別をまとめると、こうなります。
呼吸性アシドーシス
CO2が体内にたまる | 重度の肺炎、心不全、喘息、COPD 神経筋疾患(ALS、ギランバレー症候群など) |
代謝性アシドーシス
アルカリ性物質が失われる | 下痢 尿細管性アシドーシス |
有機物質が貯まる | 腎不全、糖尿病性ケトアシドーシス、乳酸性アシドーシス、飢餓、アルコール中毒 |
なお、代謝性アシドーシスでの分類には、アニオンギャップというものが使えます。アニオンギャップは、次のステップ4で詳しく説明しますね。
呼吸性アルカローシス
CO2が減る | 過換気症候群 |
代謝性アルカローシス
酸性物質が失われる | 嘔吐 利尿薬 |
外からのアルカリ投与 | 重炭酸Naの投与 |
ここまでは全員がんばって理解してほしいです。分かりにくければ繰り返し読んでみて!
実際に練習ができるシミュレーションも準備しています。やってみないと身につかないので、ぜひ試してみてください。
ステップ4:代謝性ならアニオンギャップと乳酸を評価
アニオンギャップとか聞きなれない単語が出てきた。
ここから先は少し難しいので、初心者の人は飛ばしてもいいです。
ただ、ドクターや、3年目くらいになったコメディカルの人は知っててもいいので、ぜひ読んでみてください。
で、アニオンギャップや乳酸って、聞きなれない言葉がでますよね。
ここは、ざっくりと「体に不純物が貯まっているかどうかを見る」って思ってください。
アニオンギャップ
アニオンギャップとは、以下の図の部分です。
主には、乳酸や尿酸といった有機物質です。医学っぽくない言い方をすれば「体にとっての不純物」ってイメージです。
なので、アニオンギャップの計算式は以下になります。
- Anion Gap = Na – Cl – HCO3
- 正常:16以下
では、アニオンギャップは何に使われるのでしょうか?
これは、鑑別疾患を絞るのに便利なんです。さきほどの代謝性アシドーシスの鑑別を思い出しましょう。
アルカリ性物質が失われる | 下痢 尿細管性アシドーシス |
有機物質が貯まる | 腎不全、糖尿病性ケトアシドーシス、乳酸性アシドーシス、飢餓、アルコール中毒 |
ここの区別にアニオンギャップが使えます。つまり、
- アルカリ性物質が失われる→アニオンギャップが正常
- 有機物質が貯まる→アニオンギャップが上昇
こうなるわけです。
AG上昇している場合→補正[HCO3]を計算する
AG上昇している場合は、補正[HCO3]を計算します。
- 補正HCO3=実測HCO3+⊿AG
ここで⊿AGとは、アニオンギャップの正常との差です。つまり⊿AG=AG-12となります。
補正HCO3の結果をみて、以下のように判断します。
- <24 :AG正常の代謝性アシドーシスの合併
- 24~26:正常
- >26 :代謝性アルカローシスの合併
補正HCO3は、アニオンギャップを上昇させる要因がなかったと仮定したときのHCO3濃度のことです。といっても分かりにくいと思うので、ここは機械的に上の式で覚えてしまっていいと思います。
乳酸
ここで乳酸も確認してみましょう。
乳酸は一言でいうなら「末梢に酸素が届いていない時」に貯まる物質です。
ショック・低酸素血症などにより、酸素の供給が足りないとします。その状況で無理に体がエネルギーを作り出そうとすると、その過程で生まれてしまう不純物って感じです。
自分が高校の運動部のとき、筋トレや運動などをしていて腕や脚が動かないほど疲れたとき、体に乳酸が貯まったって先輩が言っていました。
今になって思うと、大まかなイメージはそんな感じかと思います。
Anion Gap = Na – Cl – HCO3
正常:16以下
アニオンギャップが上昇→有機物質が貯まっている
ステップ5:代償されているかどうか
いよいよ難しくなってきた。。
ここまで見られるとかなりマスターと言えると思います。最後のステップなので、少しだけ踏ん張ってください。
アシドーシスやアルカローシスになっていると、体がもとのpH 7.4に戻そうと働きます。この働きを代償といいます。
ここでは代償がうまくできているかどうかというのを見ます。
また、呼吸性アシドーシス、代謝性アシドーシス、呼吸性アルカローシス、代謝性アルカローシスアシドーシスの4つのうち、どれか2つが併発してるかもしれません。そういったものも判断できます。
いくつか方法がありますが、ここでは2つ紹介します。
代謝性の場合:マジックナンバー15
代謝性の場合はマジックナンバー15というものが使えます。
- 予測PaCO2=15+実測HCO3
この計算式を使って、下のように判定します。
- 実測PaCO2 > 予測PaCO2 → 呼吸性アシドーシスの合併を考慮
- 実測PaCO2 < 予測PaCO2 → 呼吸性アルカローシスの合併を考慮
たとえば、実測のHCO3が26なら予測PaCO2は41です。実測値がそれより高いときは呼吸性アシドーシスもあるかなって考えて、それより小さいときは呼吸性アルカローシスもあるかなって考えます。
呼吸性の場合:予測式
呼吸性の場合は、実測のPaCO2からHCO3がこのように予測できます。
急性アシドーシス | 予測 HCO3=24 + 0.1×⊿pCO2 |
慢性アシドーシス | 予測 HCO3=24 + 0.3×⊿pCO2 |
急性アルカローシス | 予測 HCO3=24 – 0.2×⊿pCO2 |
慢性アルカローシス | 予測 HCO3=24 – 0.4×⊿pCO2 |
ここで、⊿pCO2とは正常の値からの変化です。つまり、⊿pCO2 = |40 – pCO2|です。
- 実際のHCO3 > 予測HCO3
→代謝性アルカローシスの合併を考慮 - 実際のHCO3 < 予測HCO3
→代謝性アシドーシスの合併を考慮
例えば、急性の呼吸性アシドーシスでPaCO2が60の時、予測HCO3は24+0.1×(52-40)=26となります。HCO3の実測が26より高ければ代謝性アルカローシスの合併を考えて、低ければ代謝性アシドーシスの合併を考えます。
ちなみに、この予測式、代謝性の場合はPaCO2はこのように予測できます。
代謝性アシドーシス:予測 pCO2=40 – 1.3×⊿HCO3
代謝性アルカローシス:予測 pCO2=40 + 0.7×⊿HCO3
ただ、毎回この計算をするのは大変だし、マジックナンバー15があるのでそちらを使っちゃっていいでしょう。
5つのステップのまとめ
最後にもう一度まとめます。
全部が難しければ、ステップ3までに絞ってください。コメディカルの新人なら、むしろそれで十分ですので!
実際に練習ができるシミュレーションも準備しています。やってみないと身につかないので、ぜひ試してみてください。
結果の読み方:ガス交換(PaO2、PaCO2など)
次に酸素、二酸化炭素って部分を見ていきます。
さっきに比べるとだいぶシンプルです。安心してください!
正常値
さきほども出ましたが、酸素と二酸化炭素の正常です。
- PO2:80~100 Torr(mmHg)→だいたい100くらい
- PCO2:35~45 Torr(mmHg)→だいたい40くらい
呼吸不全
定義はこちらです。
- 呼吸不全:PaO2 < 60mmHgまたはSpO2 < 90%
PaO2はガス採血での数値で、SPO2はサチュレーションの数字です。PaO2での60とSpO2での90はだいたい同じなわけです。
呼吸不全は、二酸化炭素が貯まっているかによってこのように分けられます。
- Ⅰ型呼吸不全:PaCO2 < 45 mmHg
- Ⅱ型呼吸不全:PaCO2 > 45 mmHg
Ⅱ型呼吸不全はCO2が体に貯まっているため、ナルコーシスを起こしやすいわけです。
ナルコーシスは[CO2ナルコーシスの治療【結論:予防が大事だけど起こればNPPV】]で詳しくまとめてあるので、自信のない人は参考にしてみてください。
酸素解離曲線【PaO2とSpO2の関係が分かる】
ここで、PaO2とSpO2の関係を表すグラフを確認しておきましょう。
このように、SpO2が90%以上に保たれていても、実はガス分析をすると結構さがっているんです。
覚えていいのは、
- PaO2 60 mmHgでSPO2 90%:呼吸不全の定義
- PaO2 40 mmHgでSPO2 75%:静脈ガス
このあたりです。
AaDO2【肺胞のミクロな障害があるかを判断できる】
これは、肺と血液での酸素濃度の差です。
計算式はこちら。
- AaDO2 = 150 – PaO2 – PaCO2/0.8
ただし、酸素を吸っていると、この150という数値は上昇します。
- A-aDO2 = 713 × FiO2 – PaCO2/0.8 – PaO2
正常は10以下。15以上だと、肺胞レベルでの換気障害を考えます。もう少し難しくいえば拡散障害、シャント、換気血流不均等がそれに当たります。ここは難しいので、分からなければ無視してください。
逆に、肺胞レベルでの障害がないような、例えば上気道の閉塞や神経筋疾患などならAaDO2は正常です。
・呼吸不全:PaO2<60mmHgまたはSpO2<90%
・Ⅰ型呼吸不全はPaCO2<45 mmHg
・Ⅱ型呼吸不全はPaCO2>45 mmHg
・PaO2 60 mmHgはだいたいSPO2 90%くらい
・AaDO2 = 150 – PaO2 – PaCO2/0.8で、15以上だと肺胞レベルでの換気障害を考える。
血液ガスの裏技:Caの単位の変換の方法、静脈ガスから考える方法
ここで、血液ガスで使える小技を2つ紹介します。
Caの単位の変換の方法
Caは生化学での採血では単位が「mg/dL」になっています。でも、血液ガスでは単位が「mEq」になっています。
普通は生化学のmg/dLに慣れているので、これはややこしいですね。
解決策は簡単で、8倍にすればいいんです。
例えば、1.21 mEqなら9.68 mg/dLとなります。
静脈ガスから考える方法
静脈採血をしたついでにガスを見たいときなど、代用できます。
変換式はこちら
- pH:静脈ガスの値に0.01~0.05を足す
- PaCO2:静脈ガスの値から6を引く
- HCO3:静脈ガスの値から2を引く
こちらの便利なので、知ってておいてください。
Caは生化学の数値と変換できる
静脈ガスを動脈ガスに変換できる
まとめ
それでは、内容を振り返ります。
正常値で重要なものはこの辺りでした。
- PO2:80~100 Torr(mmHg)
- PCO2:35~45 Torr(mmHg)
- pH:7.35~7.45
- HCO3:23~28 mEq/L(mmol/L)
酸塩基平衡を見ていくには、この5ステップを使っていきます。
ガス交換を見るときはこのあたりが大事。
- 呼吸不全:PaO2 < 60mmHgまたはSpO2 < 90% Ⅰ型呼吸不全はPaCO2 < 45 mmHg、Ⅱ型呼吸不全はPaCO2 > 45 mmHg
- PaO2 60 mmHgはだいたいSPO2 90%くらい
- AaDO2 = 150 – PaO2 – PaCO2/0.8で、15以上だと肺胞レベルでの換気障害を考える。
こんな小技も知っておくと便利でしょう。
- Caは生化学の数値と変換できる
- 静脈ガスを動脈ガスに変換できる
このあたりが分かれば、血液ガスはバッチリです。参考になった方は、明日からの仕事に活かしてみて下さい!
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オススメの本はない?
- 血液ガスを書籍で学びたい人は[血液ガスを学ぶのにオススメの本5選【2021年版】]もご覧ください。
また、キャリアアップで最も大事なのは、働く環境だったりします。どんな症例が経験できるか、まわりの人間関係などで、力がつけられるかは大きく変わります。
より呼吸器が学べる職場を見つけたい人は、[看護師転職サイトのランキング【結論:大手3サイト+自分の事情に合わせて】]にまとめてみたので、ぜひ参考にしてみてください。