スパイロメトリーをやることになったけど、どうしたらうまくできるか分からない
結果にいっぱい数字が並んでて、何を調べているか分からない
結果の図の意味が分からない
こういった疑問を解決します。
この記事の内容
- スパイロメトリーを行う方法
- スパイロメトリーで調べていること
- スパイロメトリーの結果の見方
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
この記事を読めば、スパイロメトリーのやり方だけじゃなくて、結果の見方など必要な知識が一通りマスターできます。
臨床検査技師のみでなく、医師や看護師もぜひ参考にしてみてください!
- スパイロメトリーを行う方法【実際の手順を説明】
- 【本質】スパイロメトリーでみるもの【閉塞性障害と拘束性障害】
- 主な検査値のまとめ
- 重要な2つの図【スパイログラムとフローボリューム曲線】
- その他の数値【V50/V25とDLco/VA】
- まとめ
スパイロメトリーを行う方法【実際の手順を説明】
さっそく、実際のやり方を教えてほしい
では、説明していきます。
正常予測値の設定
まず、身長、体重を測定し、スパイロメーターに入力します。これは、本来なら患者さんがどれくらいの呼吸機能があるかを推定するために必要な作業です。
準備
準備で行うべきものを列挙します。
- できれば被験者は10分の休憩をとった後で行う
- 検査前に気管支拡張薬を使用した時間を確認
- スパイロメトリーの前には気管支拡張薬を使わない
- 検査の目的を説明する
- 衣服がきつい場合にはゆるめる
- 患者を楽な状態で座らせる
- 必要であれば排尿させ膀胱を空にする
検査の実施
実際の検査を行う手順です。この順番でやってください。
- マウスピースに唇をしっかりあてて咥えてもらう
- 通常の呼吸をしてもらう
- 肺がいっぱいになるまで、息を吸わせる
- 息をとめて、一気に、強く速く息を吐き出させる
- 肺が空っぽになったと感じるまで呼出をさせる
- 通常の呼吸に戻す
ポイントは、いっぱい吸っていっぱい吐くこと。患者さんにとっては結構しんどいです。なので、声をかけて激励するのが大事です。
あと、マウスピースから息がもれないよう注意しましょう。結果が不正確になります。
そして、少なくとも2回、差が100mL以内か5%以内に収まるまで繰り返して行います。
声をかけて激励する。
マウスピースから息がもれないよう注意。
スパイロメトリーの禁忌
以下の患者さんは禁忌です
- 気胸
- 急性期の心筋梗塞
- 結核などの感染症
- 認知症など指示が理解が困難な患者さん
スパイロメトリーの合併症
合併症としてこれらがあります。
- めまい
- 頭痛、潮紅(静脈還流量の減少または血管迷走神経性反射による)
【本質】スパイロメトリーでみるもの
実際の検査のやり方は分かったけど、この検査で何をみているのかイマイチ分からない。
スパイロメトリーの結果を見ると、いろんな数値が書いてあります。
多すぎて、何がなんだが分からなくなりそうです。
ただ、本質的には、スパイロメトリーでみているのはこの2つ。
- 空気の通り道が細くなっていないか
- 肺が固くて広がりにくくなっていないか
それぞれ見ていきます。
空気の通り道が細い(閉塞性障害)
空気の通り道が細いというのは、専門用語でいうと「閉塞性障害」。
代表的な疾患はCOPDや気管支喘息です。
普通、私たちは息を吐いた時、最初の1秒で90%以上の息を吐ききります。
しかし、閉塞性障害の患者さんは、最初の1秒で70%も吐くことができません。
息を吐くのに時間がかかるのです。
この1秒間で吐く息の量を、「1秒量」と言います。
そして、全体の息のうち何パーセントが最初の1秒で吐いたかという数字が「1秒率」と言います。
肺が固くて広がりにくい(拘束性障害)
肺が固くて広がりにくいというのは、専門用語でいうと「拘束性障害」。
代表的な疾患は「間質性肺炎」です。
身長や体重から予測される肺活量の、80%も吸うことができません。
スパイロメトリーで見ているのは、「空気の通り道が細くなっていないか」と「肺が固くて広がりにくくなっていないか」。
前者が「閉塞性障害」で、後者が「拘束性障害」。
主な検査値のまとめ
ここまで理解した上で、主な検査値をまとめます。
- 肺活量(VC):最大まで吸い込み吐き出したときの空気の量
- %肺活量(%VC):予測される肺活量に対しての比率(正常:80%)
- 努力性肺活量(FVC):空気を最大まで吸い込み、一気に吐き出した空気の量
- 1秒量(FEV1):努力性肺活量の最初の1秒間に吐き出された吸気の量
- 1秒率(FEV1%):努力性肺活量に対する1秒量の比率(正常:70%)
そして、特に大事なのがこちら。
- %VC<80 → 拘束性障害
- FEV1%<70 → 閉塞性障害
そして、検査値によって閉塞性障害と拘束性障害は下の図のように分けられます。
%VC<80 → 拘束性障害
FEV1%<70 → 閉塞性障害
重要な2つの図【スパイログラムとフローボリューム曲線】
よく、スパイロメトリーの結果にぐにゃぐにゃしたグラフがあるよね?
はい、大事な図です。理解しておくべき図が2つあります。
1つがスパイログラム、もう一つがフローボリューム曲線です。
英語で言われても分かりづらいですね。
では、実際の図を見ていきます。
スパイログラム(肺気量分画)
これは実際の検査結果には出てきませんが、この図をみるとスパイロメトリーがかなり理解しやすくなります。
なんとなくでも分かりますでしょうか。
スパイロメトリーで大事なのが、一回換気量と肺活量です。
- 一回換気量tidal volume (TV) :いつもの呼吸
- 肺活量vital capacity (VC):おもいっきり吸って,おもいっきり吐き出す
次のものも測定はできますが、実際にはさほど使いません。
- 予備吸気量inspiratory reserve volume (IRV):吸おうと思えば吸える
- 予備吸気量expiratory reserve volume (ERV) :吐き出そうと思えば吐き出せる
- 最大吸気量inspiratory capacity (IC):普通に吐き出した状態で,おもいっきり吸う.
また、残気量を含むものは、特殊な方法を使わないと通常は測定できません。
- 残気量residual volume (RV) :どうがんばっても吐き出せない
- 機能的残気量functional residual capacity (FRC):普通に吐き出した状態の残り.
- 全肺気量total lung capacity (TLC):おもいっきり吸った状態の残り.
フローボリューム曲線
実際の検査結果に出てくるのがこの図です。
縦軸が空気の流れです。上半分が息を吐いているとき、下半分が息を吸っているときです。
横軸は肺の中の空気の量です。左に行くほど肺に空気が入っていて、右に行くほど肺から空気が出ています。
図でいうと
- ①:通常の呼吸
- ②:思い切り吸う時
- ③:思い切り吐く時
にあたります。
正常ではこの図になるので、これで視覚的に覚えてください。
閉塞性障害
では、異常所見ではどうなるのか見てみましょう。まずは閉塞性障害から。
閉塞性障害とは、息がうまく吐けない状態。図ではこのようになります。
ポイントは、
- うまく吐けないので、呼気にあたる上の凸の部分がへしゃげている
- 息を吐くのに時間がかかるので、図が横長になる
また軽度なものではこうなります。
呼気の下降脚が、下に凸になっているのが分かりますでしょうか。
拘束性障害
拘束性障害ではどうなりますでしょうか。
拘束性障害とは、肺が固くなって空気が入らない状態。図ではこうなります。
ポイントは、
- 呼気が短いので下降脚がはやく終了する。
- 全体的に左右に短い波形になる
フローボリューム曲線では、閉塞性障害で「うまく吐けないので呼気にあたる上の凸の部分がへしゃげている、息を吐くのに時間がかかるので図が横長になる」、拘束性障害で「呼気が短いので下降脚がはやく終了する、全体的に左右に短い波形になる」。
その他の数値
やや発展版ですが、慣れてきたらこの内容も参考にします。
末梢の気道が閉塞しているか【V50/V25】
末梢の細い気管支が閉塞していると、ある程度息を吐ききった後に残った空気を吐く息の速度が遅くなります。
それらを表すのが、V50とV25という数値
- V50:肺活量の50%の時の空気の速度
- V25:肺活量の25%の時の空気の速度
末梢の細い気管支が閉塞していると、V50、V25は低下します。
V50/V25>4 → 末梢気道閉塞となります。
肺から血液へ酸素が拡散する能力【DLco】
肺から血液へ酸素が拡散する能力を図ることもできます。間質性肺炎などではこの数値が低下します。
具体的には、酸素が吸着しやすい一酸化炭素(CO)を少量吸入することで測定します。
予測値が70以上なら正常です。
また、DLcoは肺活量の影響も受けます。そのため、DLcoを肺胞気量(VA)で割ったDLco/VAも使われます。
V50/V25>4 → 末梢気道閉塞
%DLco<70% → 拡散能の低下
まとめ
では、内容を振り返ります。
- スパイロメトリーでは、「声をかけて激励する」「マウスピースから息がもれないよう注意」あたりが重要。
- スパイロメトリーで見ているのは、「空気の通り道が細くなっていないか」と「肺が固くて広がりにくくなっていないか」。前者が「閉塞性障害」で、後者が「拘束性障害」。
- 閉塞性障害では「FEV1%<70」、拘束性障害は「%VC<80」。
- フローボリューム曲線では、閉塞性障害で「うまく吐けないので呼気にあたる上の凸の部分がへしゃげている、息を吐くのに時間がかかるので図が横長になる」、拘束性障害で「呼気が短いので下降脚がはやく終了する、全体的に左右に短い波形になる」。
このあたりが分かれば、スパイロメトリーのやり方や結果の見方はバッチリです。参考になった方は、明日からの仕事に活かしてみて下さい!
何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。
というわけで、クイズを用意してみました。
もっと気軽に見たい
もっと気軽に見られるよう、Instagramでも投稿しています。
- Instagramでの投稿はこちらからご覧ください。
もっと得意になりたい
さらに得意になりたい人は、書籍で学んだり、適切な働く環境に身を置くことが大事です。どんな症例が経験できるか、まわりの人間関係などで、力がつけられるかは大きく変わります。
- 呼吸器内科などを書籍で学びたい人は[呼吸器内科を学ぶのにオススメの本、9選【2021年版】]もご覧ください。
- より呼吸器が学べる職場を見つけたい人は、[看護師転職サイトのランキング【結論:大手3サイト+自分の事情に合わせて】]にまとめてみたので、ぜひ参考にしてみてください。
この記事は[Up To Date / Overview of pulmonary function testing in adults]も参照して書きました。