咳嗽の原因には何がある?
咳嗽で行う検査は?
どうやって原因を診断していったらいい?
こういった疑問にお答えします。
この記事の内容
- 咳嗽での鑑別疾患の一覧
- 咳嗽の原因を診断していく流れ
- それぞれの疾患の解説
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
- 2022年 呼吸器内科指導医
咳嗽はつまり、「咳」のことですね。
咳嗽には[咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019]というガイドラインがあります。こちらを基にしながら、呼吸器内科12年目の筆者が、咳嗽を診断、治療していくのに必要な情報をまとめて網羅的に紹介していきます。記事中の図も、こちらから引用しています。
主に医療従事者むけです。研修医、看護師、その他のコメディカルの方々に分かりやすいよう、かみ砕いて解説します。咳嗽のある患者さんを担当したって方は、ぜひ参考にしてみて下さい!
Youtubeでさらに詳しく解説しています。動画の方がいい方はこちらもご覧ください!
咳嗽の分類
まずは、咳を考える上で大事なのが、分類です。咳嗽は、主に「咳のある期間」と「痰があるかどうか」で分類します。
例えば、長期間の咳嗽ならこの疾患が考えやすいとか、痰があればこの疾患が考えやすいとか、分類すると原因を考えやすくなるんですね。
じゃあ、分け方を早速紹介していきます。
急性・遷延性・慢性
具体的にはこのように分けます。
- 急性咳嗽:3週間未満
- 遷延性咳嗽:3週間以上、8週間未満
- 慢性咳嗽:8週間以上
で、咳の期間で原因が変わってくるんです。図にするとこんな感じ。
急性咳嗽は感染症によるものが多くて、慢性になるほど感染症以外の原因が増えるんですね。なんとなくイメージしやすいんじゃないでしょうか。
ここ、咳嗽ではめちゃくちゃ大事なポイントです。しっかり抑えておいてください。
慢性咳嗽に多い原因疾患
感染症以外の原因って、具体的に何があるの?
ここではガイドラインの図を引用します。
いくつかの研究をまとめた表です。
どの研究でも、一番多いのは咳喘息です。あとはアトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群とまとめて三大原因とも言われています。
あとは胃食道逆流症(GERD)とか、感染後咳嗽なんかが多いですね。この辺りは慢性咳嗽に多い原因として覚えておきましょう。
湿性・乾性
痰があるかどうかで分ける分類の方も教えて。
まとめると、こうなります。
- 湿性咳嗽:喀痰を伴う咳嗽
- 乾性咳嗽:喀痰を伴わない咳嗽
シンプルですね。
たとえば、さっきの慢性咳嗽の三大原因、咳喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群ではこうなります。
- 湿性咳嗽:副鼻腔気管支症候群
- 乾性咳嗽:咳喘息、アトピー咳嗽
こんな感じで、痰があるかどうかで原因をしぼれるんですね。
急性咳嗽の対応方法
ガイドラインにはこんなフローチャートが書かれています。
要はこの図の通りなんですが、少し解説します。ポイントはこの3つ。
それぞれ詳しく見ていきます。
ポイント①急を要する疾患がないか調べる
治療を必要とする疾患が隠れていたら、そっちをまず治療しなければなりません。風邪と思っていたら、実は肺癌が隠れていたなんてことは避けなければならないです。
ほとんど全ての呼吸器疾患が、咳嗽の原因になりえます。肺炎とか、喘息とか、COPDとか、間質性肺炎とか、結核とか、肺癌とか、他にもいろいろあります。問診、診察、検査などで探していきます。
どんな問診や検査をしたらいい?
例えば、こんな項目ですね。
- 問診:発熱、呼吸困難、血痰、胸痛、体重減少
- 検査:血液検査、喀痰検査、胸部レントゲンおよびCT、スパイロメトリー
どの所見があればどれを疑うかってところまで解説すると膨大すぎるので、ここでは省略します。
ポイント②何も疑う検査所見がなかったら、上気道炎にともなう感染性咳嗽を考える
さっきのフローチャートを見ると、「狭義の感染性咳嗽」ってありますね。
これは、平たくいえばウイルス性上気道炎、つまり風邪による咳ってことです。この場合、自然とよくなります。特に治療は要らないんですけど、あまり咳がしんどいって場合は鎮咳薬を処方していいでしょう。
ポイント③百日咳やマイコプラズマがいないか注意
レントゲンやCTで何も映らないけど風邪じゃないものって何かあるの?
そう、これで残るのが百日咳とかマイコプラズマとかです。
上気道炎の方が圧倒的に多いけど、時々あるのがマイコプラズマや百日咳。これらが疑わしい時は、マクロライド系の抗菌薬を考えます。ジスロマックとかですね。
慢性咳嗽の対応方法
3週間以上の慢性咳嗽ではどう対応したらいい?
要はこの図の通りなんです。
ここでも詳しく解説していきます。
- ポイント①急を要する疾患がないか調べる
- ポイント②湿性咳嗽なら副鼻腔気管支症候群を考える
- ポイント③乾性咳嗽なら、咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症(GERD)、感染後咳嗽を考える
- ポイント④追加の検査を行わず、症状から判断して治療をしする
- ポイント⑤効いたらその疾患だったと考える
- ポイント⑥効かなかったら、別の疾患を考える
それぞれ詳しく見ていきます!
ポイント①急を要する疾患がないか調べる
これは急性期と同じです。例えば肺癌が隠れていたけど見逃した、なんてことは避けなければなりません。
問診、検査で、何か病気が隠れていないか探します。具体的な問診、検査は急性期と同じなので、よければ[急性期咳嗽の対応方法]まで戻ってご覧ください。
ポイント②湿性咳嗽なら副鼻腔気管支症候群を考える
もし検査でなにも異常所見がなかったとします。ここから、慢性咳嗽としての治療が始まります。
まずは、痰があるかどうかで考えます。痰がある場合の咳、痰がない場合の咳が何だったか覚えていますか?
そう、痰があるのが湿性咳嗽、痰がないのが乾性咳嗽でしたね!
湿性咳嗽の場合、原因は副鼻腔気管支症候群を考えます。これ、なかなか聞き慣れない名前じゃないですか?
これ、上気道と下気道の広い範囲で慢性的に炎症が起こっている病気です。「副鼻腔炎+慢性気管支炎」みたいなイメージです。
詳しくは記事の後半[副鼻腔気管支症候群]で解説します。
ポイント③乾性咳嗽なら、咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症(GERD)、感染後咳嗽を考える
乾性咳嗽の場合、多い原因は咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症(GERD)、感染後咳嗽です。記事前半の[慢性咳嗽に多い原因疾患]で解説したのを覚えていますか?
では、どの病気にかかっているのか、具体的にどうやって診断すればいいのでしょうか?
これを次以降のポイント④で紹介します。
ポイント④~⑥追加の検査を行わず、症状から判断して治療をする
ここから先は、追加の検査は行いません。症状からこの病気じゃないかって判断して、治療を進めていきます。
もし効いてくれたらその病気だったってことになります。もし効かなかったら、別の病気を考えるべきなんだって考えるんです。
診断を治療を兼ねているので、「診断的治療」って言ったりしますね。
どんな症状があればどの病気って判断するの?
ガイドラインの表を引用します。
- 喘息:夜間~早朝の悪化(特に眠れないほどの咳や起坐呼吸)、症状の季節性・変動性
- アトピー咳嗽:症状の季節性、咽頭のイガイガ感や掻痒感
- 副鼻腔気管支症候群(SBS):慢性副鼻腔炎の既往、膿性痰
- 胃食道逆流症(GERD):食道症状(胸やけなど)、会話時・食事時・起床直後・上半身前屈時の悪化、大樹増加に伴う悪化
- 感染後咳嗽:上気道炎が先行、徐々にでも自然軽快傾向
治療内容はこちらです
- 咳喘息:吸入ステロイド薬、気管支拡張薬
- 胃食道逆流症(GERD):PPI、ヒスタミン受容体拮抗薬、消化管運動機能改善薬
- 副鼻腔気管支症候群(SBS):マクロライド系抗菌薬
- アトピー咳嗽:ヒスタミンH受容体拮抗薬
それぞれの病気を詳しく教えて
では、それぞれ解説していきます!
咳喘息
咳喘息は名前の通り、咳だけの喘息です。呼吸困難とか喘鳴がないものです。
喘息なので、夜間に悪化しやすいし、季節性に症状が変動します。治療法も喘息と同じ。吸入ステロイドや気管支拡張薬です。
診断基準がこちらです。
喘息は別記事でも解説しています。詳しく知りたい方は[こちら]をご覧ください!
アトピー咳嗽
喘息が抹消の気道に起こるアレルギーとすれば、アトピー咳嗽はもっと上の中枢気道に起こるアレルギーです。
アトピーのある中年女性に多く、喉元のかゆみもあります。咳は夜中から明け方にかけて多いです。
治療はヒスタミン受容体拮抗薬です。
診断基準がこちらです。
副鼻腔気管支症候群
上気道と下気道の広い範囲で慢性的に炎症が起こっている病気です。「副鼻腔炎+慢性気管支炎」みたいなイメージです。
慢性咳嗽の中でも、痰を伴うものですね。なので、鼻づまりや後鼻漏も出てきます。下気道に病変があれば長身での水泡音なんかも聞こえます。
治療はマクロライド系抗菌薬です。クラリス™などです。
診断基準がこちらです。
胃食道逆流症(GERD)
気管の病気じゃないのに、咳嗽の原因になるの?
そうなんです。胃酸が食道に逆流するんですけど、食道の下部にある迷走神経受容体を刺激して、下気道に刺激が伝わるんですね。
なので食後に咳がでやすく、夜間は少なくなりやすいです。他にもこんな特徴があります。
- 咳嗽が多いのは、会話、食後、起床
- 胸やけや呑酸を併発しやすい
- 咳き込んで嘔吐をしてしまう
治療はPPIが第一選択です。
感染後咳嗽
名前の通り、呼吸器感染の後で咳が長引いている状態です。
風邪や肺炎が先に起こって、その後感染が落ち着いているのに咳だけ残っている時に考えます。
通常は自然に良くなります。それまでの間はしんどいので、メジコンやリン酸コデインなどの鎮咳薬を処方します。
まとめ
咳嗽は期間でこのように分けます。
- 急性咳嗽:3週間未満
- 遷延性咳嗽:3週間以上、8週間未満
- 慢性咳嗽:8週間以上
急性咳嗽は感染症によるものが多くて、慢性になるほど感染症以外の原因が増えます。
急性でも慢性でも、急を要する疾患がないか確認します。
急を要する疾患を除外したら、慢性の場合、一番多いのは咳喘息です。あとはアトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群とまとめて三大原因といいます。ここから追加の検査は行いません。症状からこの病気じゃないかって判断して、治療を進めていきます。診断を治療を兼ねているので、「診断的治療」って言ったりしますね。
このあたりが分かれば、咳嗽に必要な知識はバッチリです。参考になった方は、明日からの仕事に活かしてみて下さい!
何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。
というわけで、クイズを用意してみました。
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