喀血の原因には何がある?
血痰や吐血との違いは何?
どうやって治療する?
こういった疑問にお答えします。
- この記事の内容
- 喀血の原因
- 血痰や吐血との違い
- 必要な検査
- 治療法
執筆者:ひつじ
- 2009年 研修医
- 2011年 呼吸器内科。急性期病院を何か所か回る。
- 2017年 呼吸器内科専門医
- 2022年 呼吸器内科指導医
この記事では、呼吸器内科12年目の筆者が、喀血での診療に必要な情報を解説していきます!
医療従事者むけの内容です。担当患者さんに当たった方は、ぜひ参考にしてみてください。
喀血とは
喀血ってそもそも何?
一言で言えば、気道からの出血が口から出たものですね。
何らかの原因で、気道の血管が破綻して、咳嗽にともなって血液が吐き出されることです。
血痰との違い
じゃあ、口から血が出てきたら喀血だね!
口から血が出た時って、喀血以外にもいくつか考えられることがあるんですね。例えば、血痰、吐血、鼻出血、口腔内の出血なんかです。
なので、目の前の患者さんが口から血を吐いたら、喀血なのか、あるいは他のものなのかまず判断しなければなりません。
じゃあ、どうやって区別するのでしょうか。簡単にまとめるとこうなります。
- 喀血:気道からの出血が咳とともに出る
- 血痰:痰に血が混じる
- 吐血:食道や胃や十二指腸からの出血
- 鼻出血:鼻腔からの出血が口に流れ込む
少し深堀しますね!
血痰との区別
一言でいえば、喀血は気道からの出血が咳とともに出たもの、血痰は喀痰に血が混じったものです。
鮮紅色の出血がメインで痰があまり見られなかったら喀血って考えます。喀痰に線状の血液が混じっていたら血痰って考えましょう。
当然、喀血の方が出血の量は多いです。そして、出血の量が多いほど緊急性が高くなります。緊急での処置の方法は記事の後半の[喀血の治療]で解説していますので、このまま読み進めてください!
吐血との区別
一言でいえば、喀血は気道からの出血、吐血は食道、胃、十二指腸からの出血です。
もう少し詳しく言うと、こんな特徴があります。
喀血 | 鮮紅色 | 咳と共に排出 | 呼吸症状や呼吸音の異常あり |
吐血 | 暗赤色 | 嘔吐で排出 | 腹部症状あり |
鼻出血との区別
一言でいえば、喀血は気道からの出血、鼻出血は鼻腔からの出血です。
鼻出血って鼻から出るんじゃないの?って思われそうですが、口腔内に流れ込んで口から出ることもあります。
なので、当然鼻の中から出血しないか確認します。
ただ、実際は現場で鼻出血が分からず、後で咽頭ファイバーで確認して…なんてこともよくあります。
喀血の原因5選
吐血や鼻出血じゃなかったみたい。じゃあ、原因は何だろう?
原因はいろいろあるけど、頻度が高いものをピックアップすると5つくらいにはしぼられます。
主な原因
この5つで9割を占めるので、まずはここを抑えるといいですね。
- 非結核性抗酸菌症:25%
- 気管支拡張症:22%
- 肺アスペルギルス症:19%
- 特発性喀血症:12%
- 肺結核:11%
知らない病気が混じっている!
この病気を全く知らないって人もいると思うので、それぞれ簡単に紹介します。
非結核性抗酸菌症
抗酸菌っていうのは、結核を含む細菌のグループだと思ってください。非結核性抗酸菌症は、結核以外の抗酸菌に感染した状態です。
自分はよく患者さんに「ヒト以外の哺乳類みたいなもん」って説明しています。結核以外の抗酸菌、何となくでもイメージ沸きますか?
哺乳類だったら、イヌとかネコとかありますね。非結核性抗酸菌症の場合、多いのは肺マック症(87.9%)、肺カンサシ症(1.8%)、肺アブセッサス症(5.1%)です。
非結核性抗酸菌症は別記事の[非結核性抗酸菌症(NTM)の治療薬【ガイドラインをもとに解説】]でも解説しています。気になる方はそちらもご覧ください。
気管支拡張症
名前の通り、気管が拡張している病気です。気管支壁や血管がもろくなって出血しやすくなります。胸部CTではこうなります。
肺アスペルギルス症
アスペルギルスっていう真菌の一種に感染したものです。真菌は、つまりはカビですね。
特発性喀血症
特発性は、つまりは他に原因が見当たらないものです。あとで解説する検査で何も見つからなければ、特発性って判断することになります。
他の原因
あとはかなり頻度が低くなってきます。それぞれ、1%以下です。
- 肺癌
- 肺膿瘍
- ANCA関連血管炎
- 肺動静脈奇形
- 肺塞栓症
- 肺高血圧症
- うっ血性心不全
- 子宮内膜症
- 抗血栓薬の使用
検査
どんな検査を行ったらいい?
検査の説明なんですけど、1つ前提です。
大量喀血では、検査の前に治療や安定化が必要ってこと。大量喀血はかなり緊急事態です。SpO2が下がるリスクがめちゃくちゃ高いし、窒息すらあり得ます。
大量ってどれくらいでしょうか?これは、だいたい400~600ml程度。とはいうものの、あちこちにこぼれたりして量なんか計れないですよね。洗面器1杯って思っていいです。
喀血って結構びっくりするので、最初患者さんは大量って思うことが多いです。でも、コップ1杯にも出てこないくらいなら、まだ中等量の範囲です。
大量喀血での治療は、記事の最後の[喀血の治療]で紹介しているので、このまま読み進めてください。
行っていい検査はこのあたり。
- 胸部CT
- 気管支鏡
- 喀痰抗酸菌検査
- 喀痰細胞診
胸部CTでは、どこから出血しているか、あるいは所見によってはある程度原因も分かります。さらに造影CTまで行えば、どの血管から出血しているかまで判断できる場合も多いです。
胸部CTだけで分かり切らない場合、気管支鏡を行います。直接どこから出血しているかも見えます。あと、細菌検査に出せば、結核なのかアスペルギルスなのかも分かります。
ただ、リアルタイムで出血が出ている場合、気管の中が出血だらけでカメラで何も見えないです。実際は数日たってすこし落ち着いたって頃合いにやることが多いです。
あと、喀痰抗酸菌検査、細胞診は喀血しているその場で出せる検査です。どこから出血しているかは分からないんですが、簡単に行えるし合併症もないし、行って損はないです。
喀血の治療
実際にはどんな治療があるの?
では、治療内容を紹介します。前提ですけど、原因疾患を治す治療ではないです。それをやると各論でかなり深くなります。
ここは喀血の記事なので、出血を止めるための治療を紹介していきます。
大量喀血での初期対応
記事中盤でも少し触れましたが、大量喀血は緊急事態です。SpO2が下がるリスクがめちゃくちゃ高いし、窒息すらあり得ます。
なので、まずはバイタルサインなどを落ち着かせる対策を真っ先に行います。
側臥位
出血している方を下にします。出血していない方の肺まで血液が流れ込むと、呼吸のできる肺がさらに少なくなってしまいます。
じゃあ、どっちから出血してるか、どうやって判断しましょうか?
本当にバイタルサインが安定しなくてCTを撮りに行くのすら危ないって時は、ポータブルレントゲンで判断できます。CTくらいは撮れるって時は、CTを撮っていいです。
挿管/人工呼吸器
呼吸状態が危なかったり、窒息の恐れがある時は挿管します。出血している側が分かれば、片肺挿管をしてもいいです。
片肺挿管は分かりますか。出血してない方の肺に挿管するものです。こちらの図の通りです。
カフがあるので、正常な肺に血液が流れ込むのを防いでくれます。
ただ、実際これをやるのはかなり難しいんです。専門施設で慣れた人がいないと難しい、高度なものです。なので、通常挿管+側臥位でしのいでいきます。
止血剤:アドナ/トランサミン
止血剤としてカルバゾクロムスルホン酸ナトリウム水和物(アドナ™)と、トラネキサム酸(トランサミン™)の内服/点滴をします。外来で経過を見れるようような中等量以下の場合は内服にします。
ただ、これは多少リスクを下げるくらいです。もちろん、この段階で喀血が止まればOKです。
もし喀血がずっと続いたり大量だったりする場合は、この後紹介する気管支動脈塞栓術を考えます。
気管支動脈塞栓術
気管支動脈塞栓術はカテーテル治療ですね。鼠経動脈からカテーテルを挿入します。そして胸部の出血している血管に詰め物をするっていう治療です。
可能なら事前に造影CTを行い、出血している血管を判断させます。
止血率は90%を超えるような処置です。なので挿管した状態でも頑張って行います。
まとめ
では、内容を振り返ります。
- 目の前の患者さんが口から血を吐いたら、喀血なのか、あるいは吐血か鼻出血なのか判断する
- 喀血は鮮紅色で咳と一緒に出るという特徴がある
- 多い原因は、非結核性抗酸菌症、気管支拡張症、肺アスペルギルス症、特発性喀血症、肺結核
- 大量喀血は緊急事態。窒息すらあり得るので、危なければ挿管。
- 治療は止血剤、気管支動脈塞栓術。
このあたりが分かれば、血痰/喀血で必要な知識はバッチリです。参考になった方は、明日からの仕事に活かしてみて下さい!
何となく分かった気もするけど、覚えられない。多分明日には忘れてる。
というわけで、クイズを用意してみました。
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